August 2, 2021 | Architecture, Design | casabrutus.com
構想から40年近くを経て、大阪の中心に新しい美術館〈大阪中之島美術館〉が誕生! 2022年2月にオープンする美術館の、建築をいち早く紹介します。
1983年に大阪市によって近代美術館建設の基本構想が発表され、1990年に建設準備室が立ち上げられたものの、市の財政状況の変化などから、計画の見直しが重ねられてきた施設が、ついに誕生。40年近くの紆余曲折を経た〈大阪中之島美術館〉が2021年6月30日に竣工し、お披露目された。
設計を担当したのは遠藤克彦建築研究所。2017年にコンペで設計者に選定されてから約4年間を「ほぼこの建物だけに注ぎ込んできたかもしれない」と遠藤。2017年より元々拠点であった東京に加えて大阪にも事務所を置き、設計にかけてきたという。開館に先駆けて、その建築空間をレポートする。
まず目に入るのは「都市の中に埋没しないように」と遠藤がコンペ当時から貫いたという真っ黒な外観だ。黒いプレキャストコンクリートパネルで覆われたブラック・キューブは、ともすれば街に圧迫感をもたらし、風景に違和感を与えそうだ。しかしキューブを宙に浮かべ周囲に緑地を設けたことで周辺街区から十分な引きを取っているためか、街並みとのバランスが良い。
建物にはっきりとした正面はなく、さまざまな方角に複数の出入口が設けられている。〈国立国際美術館〉〈大阪市立科学館〉〈堂島リバーフォーラム〉などの周辺の文化施設を訪れた際にも気軽に立ち寄ることができ、多くの文化施設や歴史的建造物が集結する中之島エリアのハブとしても期待できそうだ。
実際に入館してみると遠藤が「単純なものの奥に、複雑さを忍ばせた」と語る、内外のギャップに驚かされる。外観は、単純なキューブだ。しかし中は複雑で、奥行きや変化がある。
建物は地上5階建と、美術館としては少々めずらしい多層構成だ。館内には1階から5階までを往復する、一筆書きの動線が敷かれている。来館者はフロア同士をダイナミックに移動しながら、多様な空間と四方に広がるさまざまな方角に抜ける中之島の風景を楽しむことができる。
1、2階は誰もが無料で出入りできる開かれた空間だ。展覧会を見るためには、2階から長いエスカレーターで展示室のある4、5階にアクセスする。吹き抜けを斜めに横切ることになり、現実世界から別世界にワープするような感覚がある。階同士が吹き抜けで立体的につながっているので、フロアを超えた一体感もある。
展示室はニュートラルな空間だ。4階ではコレクション展を主に行う。天井高4m、計1,407㎡の展示室を持ち、日本画を展示しやすい壁付けの大型展示ケースも備える。5階では企画展を主に行う。天井高6m、計1,683㎡の展示室を擁し、大型の展覧会が開催できるほか区切ることも可能で、多様な展覧会に対応できる。
建築の核となる思想は「パッサージュ」だ。通路を意味するフランス語で、〈大阪中之島美術館〉では「誰でも気軽に自由に訪れることができる賑わいのあるオープンな屋内空間」を意図している。
パッサージュは、建物内外の回遊性を生み出す重要な役割を果たしている。向きを変えて各階に設けられ、吹き抜けを介して立体的に連続し、開口部を通じて都市へと美術館の活動を広げていく。たとえば4階では東西方向、5階では南北方向にパッサージュが貫かれ、開口部から堂島川や阪神高速越しのビル街などの中之島の風景が切り取られる。
そのパッサージュの抑制された空間は、美術館内部の上質で気品のある印象を生み出している。遠藤によると「パッサージュはコンペ段階では金色に近い華やかな色合いだったが、学芸員の方々とディスカッションを重ね、作品展示などさまざまな用途に使えるようにニュートラルなプラチナシルバーとした」とのことで、作品が置かれたとしても映えそうだ。
全体的に寡黙な空間の中、エレベーターや階段が良きアクセントとなっている。「空間に引っ掛けるようにエスカレーターを配置するなど、人が動くところに形を与えることを意識した」と遠藤は説明する。大型の施設だが、アプローチや動線に退屈な部分がなく、館全体でアートに浸ることができそうだ。
〈大阪中之島美術館〉は、2022年2月2日開館予定。オープニングを飾るのはコレクション約6,000点から代表的作品を選び、全展示室を使って公開する『Hello! Super Collection 超コレクション展─99のものがたり─』だ。これから約半年の間に共⽤空間にはカンディハウスと藤森泰司アトリエによる家具、作品の設置などが行われ、館内の環境が整備される予定だ。この建物に作品が入ることで、どのような表情を見せるのか。開館の日を楽しみに待ちたい。