July 30, 2021 | Food, Architecture, Design
2015年に日本初上陸し、サードウェーブブームの火付け役となった〈ブルーボトルコーヒー〉。 東京・清澄白河の日本1号店以降、多くの店舗の設計を手がける建築家・長坂常とともに、ブルーボトルの空間デザインを徹底分析。Casa BRUTUS特別編集『カフェとロースター』掲載の企画の一部をご紹介します。
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「高い天井と大きな窓、光いっぱいの明るい店。多くのコーヒー好きが思うブルーボトルコーヒー(以下ブルーボトル)のイメージは守りつつ、“ゆっくり過ごす”という新機軸も取り入れた空間です」
2019年の日本1号店である清澄白河フラッグシップカフェがリニューアルオープンした。設計は〈スキーマ建築計画〉の長坂常。初上陸時に清澄白河ロースタリー&カフェを設計して以来、国内全16店舗と海外3店舗のデザインを手がけてきた(※注1)。
リニューアルのテーマはゆったりした時空間。バリスタが客のテーブルまでコーヒーを運ぶ“フルサービス”も、国内店舗では初の試みだ。入口近くには気軽に利用できるカウンターバーや大テーブル。奥の広い空間は、ソファやテーブルが並ぶカフェにした。意外なのは家具。レザーのチェアや角に丸みのついたテーブルは、シンプル好みのブルーボトルでは珍しいし長坂の作風ともちょっと違う。
「そうなんですよ、僕としてはクッション性のある優しい椅子をカフェに使うのは抵抗があった。でも新しい店のコンセプトを考えたらそれも必要かな、と」
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色のトーンもしかり。これまで甘くなりがちなベージュ系は避けていたという長坂だが、素材やニュアンスの違うベージュを重ねて使えば、意外とニュートラルだし柔らかな印象もつくりやすい。
「カフェには“動きのある気持ちよさ”と“ゆったりした心地よさ”の両方がある。これまでは前者の印象が強かったけど、これからのブルーボトルには後者も加わっていくのだと思います」
出店にかかわってきたブルーボトルコーヒージャパン事業本部長の伊藤諒(※注2)も言う。
「お客様にどういう過ごし方をしてほしいかという考慮も含めた提案を、毎回長坂さんに伝えています。基本は町の表情を豊かにする場所をつくること(1)。この町、この空間でコーヒーを飲んで過ごしたらどんな気持ちになるかな?とシミュレーションするんです」
清澄白河に続けて2019年12月にオープンしたばかりの京都六角カフェも、まさに「町との調和」が課題だった。ブルーボトルが提案したのは、100年以上続く自転車店の建物の一画を活用すること。その案を受けた長坂いわく、「自転車店そのものが町の人に愛されているうえ、窓の形や手すりの形状など建物のつくりも六角地域に根差したものだった。町の景色になじませるだけでなく、町の人の期待にいい形で応えることが大切だと感じました」。
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町家の外観は生かしつつ、長坂がブルーボトルで常に意識している「素材や色の数を抑えること(2)」を踏襲。既存の土壁や梁・柱の色を基調にし、家具はアンティークの塗装を剥がして使用した。
「居心地のいいスケール感は従来のブルーボトルとは違いますが、“人が集まる場所/コーヒーを飲むいい体験ができる空間”という、ブルーボトルらしいコーヒーショップの在り方を新しい形で実現できたと思う」と長坂。
さて、東京と京都でタイプの違う店を同時期に手がけた長坂だが、実はこれまでの店舗もかなりバラエティに富んでいる。映画に使われたビルやクレーンのある工場では、建物の個性を最大限に生かして改築し(3)、駅や商業施設のインショップでは、周りの共用スペースを巧みに利用して面積以上の広がりを感じさせた(4)。時には創業者のジェームス・フリーマンから謎めいた指令が届くこともある(5)。三軒茶屋カフェでは、「設計前に聴いてみて!」と、『荒い吐息となめらかな吐息』という曲が送られてきた。ゴリゴリのノイズと清冽な音色がミックスされたその音源を聴いた長坂は、コンクリートの荒々しい躯体とクリーンな白壁との対比が印象的な空間をデザインした。
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「制限や条件があるからこそ想定外の面白さが生まれ得る。それはリノベで店舗をつくる醍醐味です。あと、これだけ毎回違うお題を出されちゃうと、手持ちのテクニックだけでは勝負できなくなる。僕にとって未経験の素材や手法に挑戦せざるを得ないんです(6)。でもそうやって〝手持ち〟が増えていくのも楽しいのかな」
ブルーボトルとの二人三脚では、回ごとに最もふさわしい店の在り方を模索できる、と長坂。
「効率は悪いと思う。でも町の表情を豊かにするためには、そこが絶対に譲れない要なんですよね」
…つづきのブルーボトルの各店舗の解説は、ぜひCasa BRUTUS特別編集『カフェとロースター』の誌面でご覧ください。