July 2, 2021 | Architecture, Design | casabrutus.com
東京・新橋駅近くの一角に昭和の始めから建つ〈堀ビル〉。カーブした壁や装飾が美しいこのビルがシェアオフィスになりました。意匠を凝らした建物の内外をご紹介します。
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〈堀ビル〉は、1932年(昭和7年)錠前など建築金物の製造販売を行う堀商店のオフィスとして建てられた。小林正紹と公保敏雄の設計によるものだ。小林は大蔵省の官吏であり、〈国会議事堂〉や神宮外苑の〈絵画館〉などに関わったとされる。公保は姓が違うが小林の実弟にあたる。
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建物は昨年まで堀商店が使用しており、90年近くにわたって新橋のランドマークとして親しまれてきた。1階は同社のショールーム、2、3階がオフィス、4階が住居として使われ、5階には塔屋とテラス、地下にもフロアがある。2階の一部はオーナーが集めた鍵や錠前を展示する非公開のギャラリーとなっていた。関東大震災の9年後の竣工ということもあり、建物は頑丈に造られている。地下階は戦時中、防空壕がわりに使われていたこともあったそう。
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建物のデザインは当時流行した洋風スタイルだ。外壁を覆うスクラッチタイルはイギリスからとりよせたものだそう。堀商店のイニシャル「H」や鍵、植物をモチーフにしたレリーフで飾られている。内部にもモザイクタイルや洞窟のような漆喰仕上げの部屋など、独特の意匠が残っている。この価値が認められ、1989年には東京都の選定歴史的建造物に、98年には国の登録有形文化財に登録された。
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今回、シェアオフィス〈GOOD OFFICE新橋〉に生まれ変わるにあたって改修を担当したのは竹中工務店。外壁はできるだけ変更せず、元の雰囲気を保つようにしている。内部では階段室のトップライトを復元し、建具の位置を変えるなどして手が加えられているが、90年の時間の流れを感じることができる。
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オフィスは全20室。外壁がカーブしている角部屋では室内もそのままカーブしている。もとギャラリーだった部屋では洞窟のようにうねる壁が残る。隅を丸めた重そうなドアは潜水艦用に試作したものだそう。とくに面白いのが住居として使われていた4階だ。竹組格子窓や網代天井のある和室、モザイクタイルの浴槽をベンチに転用した浴室、アーチ状のドアや食器棚が残る台所など、家の面影を残しつつ楽しく仕事ができそうなオフィススペースに変身している。
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竹中工務店では2018年から歴史的建造物を保存・活用する「レガシー活用事業」を展開しており、〈GOOD OFFICE新橋〉は九段下の〈Kudan House〉(旧山口萬吉邸)に続く2つめのプロジェクトだ。〈GOOD OFFICE新橋〉は竹中工務店がマスターリースし、不動産業を手がけるグッドルームが運営を担当する。街にとけ込んだ歴史的建造物がこんなふうに活躍してくれるのはうれしいこと。これからも末永く元気な姿を見せてほしい。
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