October 4, 2019 | Architecture | casabrutus.com
瀬戸内国際芸術祭の秋会期も始まり、盛り上がりを見せる瀬戸内エリアで、建築をテーマとした展覧会が3つ同時開催される。香川、岡山、広島の3県を巡りながら、建築について学ぶ絶好の機会だ。
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今秋、瀬戸内で同時開催されるのは、香川県の『日本建築の自画像 探求者たちの もの語り』展、岡山県の『建築家 浦辺鎮太郎の仕事―倉敷から世界へ、工芸からまちづくりへ』展、広島県に巡回した『インポッシブル・アーキテクチャー もうひとつの建築史』の3展。いずれも近代以降の日本建築史を、何らかの形で掘り下げた内容だ。さっそくひとつひとつの見どころを見ていこう。
1. 香川県立ミュージアム『日本建築の自画像 探求者たちの もの語り』
最初に紹介するのは、〈香川県立ミュージアム〉の企画展。日本建築とは何か? この問いに、建築史家や建築家、地域の人々も巻き込んで向き合う大規模な展覧会だ。展覧会タイトルにある “自画像” が意味するのは「建築史家」「建築家」「地域の人々」という異なる3つの視点のこと。会場は3部から構成され、〈第一の自画像〉では、海外の万博で発表された日本のパビリオンや伊東忠太の作品などを通して、明治時代以降の近代化の中で「日本的なるもの」がいかに捉えられていたのかを考察。〈第二の自画像〉では、その「日本的なるもの」に対して、建築家が創造した作品を取り上げ、丹下健三や大江宏、石井和紘といった瀬戸内ゆかりの建築家の仕事に迫る。そして、〈第三の自画像〉では地域性に注目。瀬戸内の島々や港町のフィールドワークから、風土の中で蓄積されてきた民家などに意識を向ける。これらから浮かび上がるのは、建築に宿る“日本的”という意識の複雑さ。日本建築を紐解く過程で、日本人の精神性にも触れられる内容だ。
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『日本建築の自画像 探求者たちの もの語り』展
開催中〜2019年12月15日。会場の〈香川県立ミュージアム〉は高松港にも近い海沿いに立つ文化施設。常設展ではイサム・ノグチの彫刻などを展示。 香川県高松市玉藻町5-5。9時〜17時(入館は16時30分まで)。9月~11月の土曜日、10月13日、11月3日は20時まで開館(入館は19時30分まで)。月曜休(祝日の場合は翌日休)。観覧料1200円。2. 倉敷アイビースクエア『建築家 浦辺鎮太郎の仕事─倉敷から世界へ、工芸からまちづくりへ』展
続けて、岡山県の倉敷へ。ここでは、建築家・浦辺鎮太郎の仕事を振り返る展覧会が開催されている。浦辺は故郷・倉敷を拠点に数々の名建築を残した建築家。2019年は生誕110周年にもあたる。会場は、浦辺の代表作の一つである〈倉敷アイビースクエア〉。浦辺の活動を3つの時期に分け、1期では1950年代のクラレ営繕時代や実業家・大原總一郎との倉敷のまちづくりを。2期では〈倉敷市民会館〉や〈倉敷アイビースクエア〉などの代表作が生まれた “黒と白” の時代を。3期ではレンガタイルや万成石、玄昌石、スタッコ、銅板等を用いた後期作品と最晩年における横浜での活動を追う。
浦辺の愛した倉敷で、彼の仕事を辿れる貴重な機会。この土地の何が建築家の美意識を育み、想像力を刺激したのか。そんなことにも思いを馳せながら、展覧会を堪能した後は実際に倉敷にある、浦辺の建築作品を訪ねてみるのもおすすめだ。
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『建築家 浦辺鎮太郎の仕事―倉敷から世界へ、工芸からまちづくりへ』展
2019年10月26日〜12月22日。〈倉敷アイビースクエア アイビー学館〉 岡山県倉敷市本町7-2 TEL 086 422 0011。10時〜18時(最終入館は17時30分まで)。月曜休(祝日の場合は翌日休)。観覧料1000円、大学生500円。3. 広島市現代美術館『インポッシブル・アーキテクチャー もうひとつの建築史』
最後は日本各地を巡回中の展覧会。アンビルト、つまり実現に至らなかった建築に宿る、熱意や夢、その壮大さに触れられる『インポッシブル・アーキテクチャー もうひとつの建築史』展だ。埼玉、新潟を経て、広島に巡回されている。20世紀以降の国内外のアンビルト建築に焦点をあてているのは広島でも同じ。約40人の建築家・美術家による建築構想を、図面や模型、関連資料などを通して考察する。さらに広島会場から、安藤忠雄の〈中之島プロジェクトⅡ ―アーバンエッグ(計画案)〉の模型が追加で展示されるほか、会場に英語の解説文が設置され、海外の建築ファンも楽しめる構成となっている。会場は黒川紀章が設計した広島市現代美術館。展示内で紹介される、黒川紀章のプロジェクトにも注目したい。
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『インポッシブル・アーキテクチャ― もうひとつの建築史』
〜12月8日。会場となる〈広島市現代美術館〉は1989年に開館。設計は黒川紀章で、広島市内を見渡す比治山の丘陵に建つ。 広島県広島市南区比治山公園1-1 TEL 082 264 1121。10時〜17時(最終入館は16時30分)。月曜休(祝日の場合は翌日休)。観覧料1200円。瀬戸内を巡りながら3つの展覧会を巡れば、土地と建築との関係性もより深く理解できるだろう。3会場が実施するスタンプラリーもあり、3館を制覇するとグッズも進呈されるという。学びの秋に、ぜひ足を運んでみてほしい。