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ル・コルビュジエが手がけた浮かぶ建築、アジール・フロッタン。

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August 11, 2017 | Architecture | a wall newspaper | text_Jun Kato editor_Tami Okano

1929年に完成したコルビュジエによる難民避難所が90年近い時を経て、再生されようとしています。

アジール・フロッタンを計画中に描いた外観パース。セーヌ川の岸に、長い桟橋を架けて係留されるイメージ。 ©Fondation Le Corbusier

繊細なタッチで描き込まれた、1枚のパース。場所はフランス、セーヌ川。川の流れに沿って留められた細長い船に、桟橋を使って人々が乗り降りをしている。

これは、はためく旗や船首に記された〈アジール・フロッタン〉という名の船の完成予定図。近代建築の巨匠、ル・コルビュジエが描いたものだ。どこか祝祭的な雰囲気が漂っているが、名前は「浮かぶ避難所」を意味する。第一次世界大戦後の混乱期に生じた難民を収容するため、石炭を運ぶコンクリート船をリノベーションし、住居とするものであった。1929年に完成、その後、90年代の後半まで使われていたという。

この船は今も、パリのノートルダム大聖堂から上流1kmのセーヌ川左岸に浮かんでいる。現在修復工事が進み、来年には文化施設として再生される予定だ。

現在はセーヌ川左岸のオステルリッツ橋のたもとに浮かんでいる。

「実は、ル・コルビュジエは大型客船を設計したいと何度も提案していました。アジール・フロッタンは、彼の願望をかなえた唯一のプロジェクトです」と話すのは、船の再生計画に長年携わる建築家、遠藤秀平。実際にル・コルビュジエの作品の中には集合住宅〈ユニテ・ダビタシオン〉のように客船を思わせるものもあり、ル・コルビュジエの船への思いがうかがえる。「そもそもコルビュジエは、建築は陸に留まった船だと考えていたのではないか」と遠藤は推察する。

林立する柱と、高い位置で連続する水平窓が特徴の内部空間。

また、遠藤はこのアジール・フロッタンには、ル・コルビュジエが提唱した「近代建築の五原則」が典型的に表れていると指摘する。柱で建物を土地から持ち上げて浮かべ、地面の制約から離れる「ピロティ」は、岸から8mも離して船を浮かべる設計で表現した。コンクリートの柱で屋根全体を支えることで建物内部の壁をなくし、室内を自由に仕切る「自由な平面」を実現。実際には全長約80mの船の真ん中を食堂に、その両側をベッドの並ぶ居室としていた。内壁がなくなることで「水平連続窓」、そして伝統的な様式にとらわれない外観で「自由な立面」も実現された。当初は「屋上庭園」の計画もあったという。

かの名作〈サヴォア邸〉と同じ年に「近代建築の五原則」を具現化していた、もう一つの名作。展覧会では1/5模型も登場し、日本初公開となる資料も数多く展示されている。

©Fondation Le Corbusier

Le Corbusier
ル・コルビュジエ スイスに生まれフランスで活躍した、モダニズム建築の礎を築いた20世紀を代表する建築家。実作とともに「ドミノシステム」「モデュロール」などの理論も多く、「近代建築の五原則」はその一つ。

アジール・フロッタン再生展-浮かぶ避難所 ル・コルビュジエが見た争乱・難民・抵抗-

〈ASJ TOKYO CELL〉
東京都千代田区丸の内3-4-2-1F
。〜8月22日。10時〜19時。会期中無休。入場無料。

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