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建築とアートの共鳴を体感! 『マツモト建築芸術祭』へ。

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February 7, 2022 | Architecture, Art, Travel | casabrutus.com

国宝〈旧開智学校〉をはじめ、長野県松本市が誇る国登録有形文化財や近代建築が会場となり、アート作品と融合する建築芸術祭が初開催。観覧無料で街歩きも楽しい。

国宝〈旧開智学校〉は明治期の擬洋風建築で、日本の文明開化を象徴する建物として高い評価を得ている。

〈松本城〉を中心に風情のある建物が並ぶ長野県松本市。街を代表する名建築が舞台となるのが『マツモト建築芸術祭』だ。各地に芸術祭はあるけれど、ここまで希少価値の高い建築が主役となってアートが展開されるのはめずらしい。市内19カ所、アーティスト17名が参加する。

総合ディレクターを務めるのはアートディレクター・グラフィックデザイナーのおおうちおさむ。田中一光が〈松本市美術館〉(2002年竣工)のロゴをデザインした際にチーフデザイナーとして関わったことが、松本市との関係の始まりという。今回、キュレーターとデザイナーを兼ねている。

国宝〈旧開智学校〉に設置されたストレッチフィルムを素材とした中島崇のインスタレーション。エントランス部分に無数に張り巡らされている。

●豪華絢爛な広間が美しい〈割烹 松本館〉× 太田南海 × 小畑多丘

〈割烹 松本館〉の大広間〈鳳凰の間〉。1935年頃に建てられた料亭建築で、松本の彫刻家、太田南海が4年の歳月をかけ、細部にまで装飾を施している。

とにかく圧倒されるのが〈割烹 松本館〉。老舗料亭の大広間〈鳳凰の間〉は、通常は結婚披露宴などのために使われる、松本市民でさえなかなか足を踏み入れたことのない格式高い空間だ。昭和初期に松本出身の彫刻家、太田南海によって長い年月をかけて彫刻が施された99畳もある大空間の真ん中に、小畑多丘のシンメトリーな等身大の木彫が展示されている。そんな新旧の対比も魅力で、この芸術祭を代表する展示だ。

●〈NTT東日本松本大名町ビル〉 × 鬼頭健吾のダイナミックな展示

窓に2色の布を吊り下げる作品《hanging colors》。昼はシェアオフィスになっている室内を色で満たし、夜は外に窓の存在を色で示す。

建築自体をダイナミックに使ったインスタレーションで、これぞ建築芸術祭! と唸るのが鬼頭健吾の作品だ。3作品とも屋外展示で、時間によって見え方が変化していく。窓の明かりが外にもれてくる夕景にぜひ見てほしい。

〈NTT東日本松本大名町ビル〉は1930年頃に、松本郵便局電話分室として建設されたもの。「松本市近代遺産」として2019年に登録された建物だ。松本市では、建築当時の魅力を伝え、まちの魅力向上につながる築50年以上などの条件を満たした建物を「松本市近代遺産」として保全の取り組みを行っている。

●伊東豊雄建築と黒曜石が対比する〈まつもと市民芸術館〉× 井村一登

エントランスから大ホールへと続く長い階段に展示作品が。象嵌されたガラスからやわらかな光が落ちる。

松本市の文化の発信地として、2004年に開館した〈まつもと市民芸術館〉は伊東豊雄の設計によるもの。光学的な作品を手掛け、石器づくりが趣味という井村一登がこの中に展示したのは「小さくても、とてつもないオーラを放つ」鉱物だ。太古の昔から鏡として利用されている天然のガラス、鉱物が壁面のガラスと共鳴する。

●長野県最古の西洋館〈旧司祭館〉× 釘町彰・本城直季

1889年築の〈旧司祭館〉、外壁はアーリーアメリカン様式。

ノスタルジックな洋館が写真スポットとしても人気の〈旧司祭館〉。1889年に宣教師の住居として建築され、長野県宝に指定されている本格的な洋風住宅建築だ。〈司祭館1階〉には釘町彰の絵画作品、〈司祭館2階〉では都市の姿をジオラマのように撮影する本城直季の作品が展示されている。

●市民に愛された建物が復活〈旧宮島肉店〉×五月女哲平

芸術祭のポスターにも採用されたペインティング作品(中央)。約10年ぶりの展示となる。

廃墟のようになっていた建物が復活。「会場を壊すところから作品づくりが始まった」という五月女哲平はボランティア総勢10名とともに室内を解体。そこに絵画、映像、立体、写真と様々な作品が展示され、新たな記憶として積層されていく。歴史ある建物が次々と失われていく中、松本で愛されてきた場所の再生はこの芸術祭が目指すもののひとつだ。

●生誕100周年のアーティストに出会う〈池上百竹亭 茶室〉×松澤宥

松澤宥が描いた茶室のスケッチは鮮やかなピンクであった。それがインスタレーションのアイディアに。
当時、様々な文化人が集まったというサロン的な場所。

1958年に作られた私邸の茶室に、日本のコンセプチュアルアートの先駆者で長野生まれの松澤宥のドローイングやスケッチを展示。閑静な庭に囲まれた茶室とコンセプチュアルな作品が味わい深い。2022年で生誕100周年の松澤は早稲田大学で建築を学び、20歳頃から日本各地の古美術や建築を独自に調査、同時に茶室のスケッチを描いていたという。現在、〈長野県立美術館〉では『生誕100周年 松澤宥』展(〜2022年3月21日)が開催中。さらに興味がわいてくる。

●〈上土劇場(旧ピカデリーホール)〉・〈白鳥写真館〉×白鳥真太郎

写真館の4代目でライフワークでもあるポートレート作品を〈上土劇場〉に展示。

松本に縁のあるアーティストと場所をつなぐのも『マツモト建築芸術祭』らしさ。松本生まれで1980年代から広告写真家として活躍する白鳥真太郎は劇場にポートレート写真、写真館にインパクトのある広告写真を展示する。

●国登録有形文化財〈レストランヒカリヤ〉×石川直樹

国登録有形文化財〈レストランヒカリヤ〉。右が今回のエントランスとなるフレンチの「ニシ」。手前は日本料理の「ヒガシ」。

名門商家であった古民家を飲食店として再生した〈レストラン ヒカリヤ〉。ここでは写真家、石川直樹がカトマンズで撮影した作品を展示する。ヒマラヤ遠征の拠点となるカトマンズは松本市と姉妹都市で、登山家としても知られる石川直樹とも親和性が高い。市内の〈信毎メディアガーデン〉では石川直樹写真展『8848/8611』(〜2022年2月14日。有料)が開催中。併せて見学したい。

●歩いて回れる範囲に、見どころがたくさん

1928年、薬屋として建設された木造3階建ての建物をリノベーションし、まちづくりの拠点施設とした〈下町会館〉。ロマンティックな階段を登って、展示室へ。

会場の多くは松本市の中心地に点在。歩いて回れるコンパクトさも魅力だ。きっと松本が好きになります。

会場は少し離れた場所もあるので、一日でコンプリートするならレンタサイクルがおすすめ。長野県のまん延防止等重点措置適用の期間は飲食店の営業時間などが変更になる場合があるので確認を。

2008年に惜しまれつつも閉館した老舗映画館〈上土シネマ〉では、鴻池朋子による映像作品を上映している。 ©Tomoko Konoike photo_Kazumi Kiuchi

マツモト建築芸術祭

〈旧開智学校〉含め、市内19カ所で展開。〜2022年2月20日。会期中無休。ただし〈割烹 松本館〉は2月7・8日休。無料。開館時間は会場によって異なる。トークセッションなどのイベントは公式サイトにてご確認を。

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