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設計図も公開! 中村好文が手がけた6つの”朗らかな台所”とは?

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January 14, 2022 | Architecture, Culture, Design, Food | casabrutus.com

建築家・中村好文が住宅を設計する際、とりわけこだわりを見せるのが台所だ。施主と心ゆくまで対話をし、隅々まで工夫を凝らした台所のつくり方が、著作『百戦錬磨の台所 vol.2』で余すところなく紹介されている。中村が携わった6つのキッチンは、どんな夢の台所に仕上がったのか?

江波戸玲子さんの自邸。アイランドカウンターにもシンクとIHコンロを設けることで、ゲストも気軽に洗い物や料理の手伝いができるように。

家を建てるとき、リノベーションをするとき、料理好きな人がもっとも頭を悩ませるのは、台所のつくり方だろう。自分にあった調理台の素材は? 手を伸ばしやすい棚の高さは? パントリーは作った方がいい? その動線は? ストレスなく、使いやすく、美しい台所にするために考えることは尽きない。まして、火と水を同時に使う台所は、耐久性にも優れていなければいけないのだから。

中村好文は、料理と食べることを愛する建築家だ。数々の住宅を手がけてきた彼が、最もこだわりを見せるのが台所。曰く、台所は「住宅の中で、合理性、効率性、機能性、有用性の四つが要求され、そのことが最も顕著に表れるところ」。最も難しく、腕の見せどころでもあるという。

昨年11月に発売された著作『百戦錬磨の台所 vol.2』では、中村が手がけた6つの台所が紹介されている。施主はみな料理好きで、こだわりが強く、一筋縄ではいかない人ばかり。彼らの要求を中村が対話により一つひとつ解きほぐし、理想の台所に近づけた工夫の一部始終が紹介されているのがこの本だ。間口やカウンターのサイズ、素材、ときにはどんな皿がしまわれるのかまでを考慮して作られた食器棚など、そのすべてが設計図とともに公開されている。いくつかの台所をのぞいてみよう。

●木工作家・三谷龍二さんの「収納たっぷりの台所」。

木工作家・三谷龍二さんの台所。増え続ける食器と台所道具をどう収納するかが課題だった。

36、7年前、中村がまだ吉村順三設計事務所に属していた際、ある縁から中村は木工作家・三谷龍二さんの自邸の設計を担当することになった。それから歳月が経ち、老朽化が進んだ家の大掛かりな改修を手がけることに。

台所平面図。コの字型をニの字型に変更し、シンク側のカウンターを広げて食器棚にした。

三谷さんは食器も手がけている作家ゆえ、様々な素材の食器が大量にある。これをいかに収納するかが三谷家の課題だった。台所の改修にあたり、一番大きく変更したのは「コの字型」の配置を「ニの字型」にしたこと。これによってコーナーのデッドスペースをなくすことができる。また、シンク側のカウンターの奥行きを広げて立ち上がりをなくし、フラットに変更。食堂側から使える食器棚とした。長さ2m強、奥行き93cmの巨大カウンターは、収納量に優れているだけでなく広々と気持ちよく調理ができそうだ。

幅71.5cmの大型の引き出し。奥の食器を取り出しやすいようフル・スライドにしてある。

●江波戸玲子さんの「人が集まる台所」。

台所と食堂、庭はシームレスに繋がっている。庭に面した4枚のガラス戸を壁に引き込める造りで、開放感を与えた。

着尺・帯ブランド〈ポンナレット〉を主宰する江波戸玲子さんは、葉山の自邸に頻繁に友人・知人を招くおもてなし上手。料理家の友人を招いて自宅で調理してもらうこともあるという。設計する際も、「家族はもちろん、友人知人も気兼ねなく集まれる家にしてくださいね」という要望があった。それに応えるよう、中村は玄関だけでなく庭づたいにテラスからも家に入ることができる、オープンマインドな家を考えた。

その「オープンマインド」は、台所にも生かされている。中村が思い描いたのは、一つの場を中心に人が集まり、緩やかに会話と料理を楽しむシームレスな台所。その目論見通り、テラスから入ってきた人々は挨拶もそこそこに「台所の主」ともいえる巨大なアイランド・カウンターに直行する。このカウンターにはIHレンジとパーティ用の小型シンクが設えられているので、ゲストも台所仕事を手伝ったり、洗い物をしたりということが気軽に行える。ホストとゲストの境界線を曖昧にし、フラットで賑やかな食事の時間が楽しめるようになったという。

台所・パントリー平面図。大ぶりのアイランド・カウンターの長さは2m強。

●手直ししながら理想に近づける中村の小さな台所。

中村が週末を過ごす、セカンドハウスの台所。食堂と合わせて約9畳ほどの面積で、窓台の高さまであったワインラックを切り詰め、現在のカウンターの高さに改造した。

近年、中村は神奈川県・大磯にある小さな住宅で週末を過ごしている。この家はもともと年若いクライアントの別荘として設計したが、その後中村が引き継ぐことになったという。「海を眺めて暮らしたい」「小さな家に住みたい」と考えていた中村には、おあつらえ向きの家だった。

台所平面図。コの字型の小さな空間。配膳カウンターの高さを切り詰め、開放感を出した。

海風にさらされていた外部を修理し、様々な手直しを加える中、居心地に一番大きな変化をもたらしたのは台所だった。もともと台所と食堂の間には前所有者の要望で高さ110cmのワインラックを取り付けてあったが、これがキッチンとダイニングを気分的に隔てていると考えた中村は、高さを切り詰めることに。造り付けのカウンターを現場で切断するという離れ業を使う。言葉にすれば、カウンターの高さを数十センチ変えただけ。しかし、台が低くなり目の前が開けることで、この空間は驚くほどの変貌を見せたという。決定的な使いにくさではない。だが、使い手に合わせて少しばかりの調整をするだけで、台所の居心地は随分変わるものだ。

二人で料理をする中村夫妻。朝食は可能な限りテラスでとるようにしているという。

『百戦錬磨の台所 vol.2』には、このほか全6軒の台所のつくり方と、中村の試行錯誤を形にする2人の家具職人との対談などが収録されている。中村が施主とどんな対話を重ね、予算もある中、どのように”夢の台所”を設計したのか、その一部始終を読むことができる。台所だけではなく家の間取り図も紹介されているのは、部屋全体における台所の動線も見てほしいという思いからだ。家の要となる台所を、理想に近づけるためのヒントを探している人には最適の一冊に違いない。

造作家具などを手がける2人の職人との対談も。

『百戦錬磨の台所 vol.2』

中村好文著。学芸出版社刊。2970円。中村好文が手がけた6つの台所のつくり方の一部始終を収録。『百戦錬磨の台所 vol.1』も好評発売中。

中村好文

なかむらよしふみ 建築家。1948年千葉県生まれ。武蔵野美術大学建築学科卒業。1981年〈レミングハウス〉設立。主な作品に〈三谷さんの家〉〈伊丹十三記念館〉〈明月谷の家〉など。著書も多数。

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