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【追悼】建築家リチャード・ロジャースが逝去。建築を超えて時代をリードしたカリスマの軌跡を振り返る。

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December 24, 2021 | Architecture | casabrutus.com

建築界をリードしたイギリスの建築家、リチャード・ロジャースが88歳で他界。

建築にも使われたトレードマークのグリーンのシャツを着たリチャード・ロジャース(1933-2021)。 photo_Andrew Zuckerman

ノーマン・フォスターとともにイギリス建築界の巨頭として知られるリチャード・ロジャースが、12月18日に逝去。各界から追悼とともに、彼の功績を讃える声が続いている。

数ある作品の中でも彼が手がけた最も有名な建築は、レンゾ・ピアノとの共作になるパリの〈ポンピドゥー・センター〉だろう。歴史ある街並みに1977年にオープンしたラディカルな作品は、建築の既成概念を塗り替え、建築の新時代の幕開けを意味するものとなった。40年以上経つ今でも “前衛” に見えるパワフルな作品だ。

前庭に大きなプラザを設けた〈ポンピドゥー・センター〉は、あらゆる意味で画期的な建築だった。(c) Katsuhisa Kida

これに続いて、同様に構造及び配管、エレベーターなど設備を外側に露出し、巨大な吹き抜け内観を実現した建築が、〈ロイズ・オブ・ロンドン〉(1986)だ。いわゆる「ハイテク建築」と言われるひとつのジャンルを築いた。

ちなみに、〈ロイズ・オブ・ロンドン〉のプロジェクトに参加後〈ウィルキンソン・エア〉を立ち上げた建築家、クリス・ウィルキンソンもロジャースの4日前に他界している。

ロンドンの金融街にあるロイズ保険のビル〈ロイズ・オブ・ロンドン〉。 (c) Richard Bryant

住宅から空港まで、さまざまなプロジェクトを手がけたロジャースだが、「建築」に止まらず、豊かな暮らしを実現するための「都市のあり方」にも力を注いだ。ロンドンの建築都市デザイン委員会議長など、都市関係の任務を歴任。公正で美しく、創造的でエコロジカルな都市、郊外へと広がらないコンパクトで多核的な都市を提唱する。建築への保守的な視点を持つチャールズ皇太子と論争を繰り広げるなど、建築界のご意見番として常に前線に立ち続けた。

若き日のリチャード・ロジャース(中央)。左はノーマン・フォスター。 photo_Su Rogers

ロジャースは1933年にイタリアのフィレンツェに生まれる。ファシズムの台頭から逃れるため、39年、一家は父の祖国であるイギリスに移住。

難読症で絵もまともに描けないというハンデを負いながら、叔父で建築家のエルネスト・ロジャースに触発されて建築を目指す。公共広場やコミュニティがあるイタリア的な都市のあり方は、常に彼の建築や都市設計のベースにあり続けた。

ロンドンのAAスクールで建築を学んだのち、ロジャースはフルブライト奨学金を得てイェール大学に留学。ここでノーマン・フォスターに出会う。イギリスに帰国後、ふたりは〈チーム4〉を結成。4つの作品を建てている。

その後、両親の家である〈パークサイド〉(1969)を設計。ガラス張りのボックス型の住宅は当時のイギリスでは全く前例のないものだった。そして、1971年、ジャン・プルーヴェが審査員長を務める〈ポンピドゥー・センター〉のコンペを勝ち取るに至る。

両親のために建てた〈パークサイド〉。息子のエイブの一家が暮らした後、ハーバード大学デザイン大学院に寄贈されている。

「建築は複雑なものでひとりの力では解決できない。自分の仕事の中心はコラボレーションによるもの」とチームワークを重んじてきたロジャース。ポンピドゥー完成後は、ロンドンでリチャード・ロジャース&パートナーズ(2007年よりロジャース・スターク・ハーバー&パートナーズ)を創設し、次々と大きなプロジェクトを手がけることになる。

代表作には〈ヨーロッパ人権裁判所〉(1994)、〈ミレニアムドーム〉(1999)、〈ウェールズ国会議事堂〉(2006)、〈マドリード・バラハス空港〉(2006)、〈3ワールドトレードセンター〉(2018)などが挙げられるが、2013年には〈ロイズ・オブ・ロンドン〉の正面に高層ビル〈レデンホール・ビル〉(通称:チーズ削り)が完成。そのワンフロアに本社を移動した。

その後も精力的に仕事に携わってきたが、昨年には引退を発表している。英国王立建築家協会ゴールドメダル(1985)、高松宮殿下記念世界文化賞 (2000)、プリツカー賞(2007)などの受賞ほか、男爵の称号も授与されている。

2000年の記念行事会場としてして建てられた〈ミレニアムドーム〉。ロンドンオリンピックの会場にも使われ、現在は〈O2アリーナ〉に。

ロジャースの功績としてもうひとつ挙げたいのが、社員食堂としてスタートしたレストラン〈リバー・カフェ〉の存在である。妻のルースが切り盛りするイタリア料理レストランは、イギリスの食の改善に大きな役割を果たした。ジェイミー・オリバーなど多くの有名シェフもここで修行を積んでいる。

グリーンやピンクのカラフルな服を着て、美味しいものを食べ、自転車で移動するなど、彼のライフスタイルに感化された人は少なからず。そして所員に給与の一部をチャリティーに寄付することを促すなど、平等な社会実現を追求した。激動の時代にあって、その一歩先を歩き続けたカリスマ的建築家、リチャード・ロジャース。その人生から学ぶところは多い。


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