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日本勢が大健闘! 『ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展』各賞、現地詳細レポート。

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September 24, 2021 | Architecture, Design | casabrutus.com

“How will we live together?ー我々はいかに共存していくのか?”、をテーマに開催中の第17回『ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展』。妹島和世を審査員長に選ばれた各賞の発表が、9月1日に行われた。コロナ禍でも世界はつながっている──そんな希望が感じられる展示の数々を、各国の建築家の言葉とともにお届けします。

9月1日、妹島和代を審査員長にビエンナーレの金獅子ほか各賞が発表になった。 photo_Andrea Avezzu - courtesy La Biennale di Venezia

コロナ規制が少し緩和になった8月末のヴェネチア。5月のオープニング時には渡航できなかった展示者も一同に集まり、妹島和世を審査員長に「建築界のオリンピック」とも称される『ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展』の各賞が発表された。

「“共存”がテーマの今回は、特定の建築家に関する展示に代わって、ほぼ全てがグループやコミュニティによる取り組みが展示されています。同時に国や分野の枠を越えたコラボレーションが見られたのも特徴的でした。日本館は賞には漏れましたが好評で、受賞作のうち2つは日本人が参加したプロジェクトと、私としても嬉しい驚きがありました」(妹島和代)

各賞とともに、日本館についてもレポートしたい。

●金獅子賞:アラブ首長国連邦館 『Wetland 』

アラブ首長国連邦館の前で金獅子を掲げるのは、レバノン出身のワイル・アル・アワール。共同キュレーター・寺本健一は、現在〈waiwai〉を離れ独立している。 photo_Megumi Yamashita

アラブ首長国連邦(UAE)にある「サブカ」と呼ばれる塩で覆われた湿原「ウェットランド」をテーマに、サステナブルなセメントのプロトタイプの展示が金獅子賞を受賞。ドバイと東京にスタジオを置く〈waiwai〉のワイル・アル・アワールと寺本健一がキュレーションを担当している。

石油産出によって急激に近代から進み、アブダビ、ドバイなど高層ビルが林立するUAEは、国民一人当たりのCO2排出量では世界のトップ5。パリ協定に基づき2030年までに排出量の大幅削減が喫緊の課題になっている。どうしたらいいものか? ワイル・アル・アワールに話を聞いた。

サステナブルなセメントをキャストした2400個のパーツが積み上げられた展示の様子。 photo_Megumi Yamashita

●高塩度排水を再利用したセメント

「まずは昔ながらの建築に注目しました。エジプトのシワという街には紀元前1万年前に、塩と土を混ぜたブロックで建てられた家並みが今も残っています。また、ドバイをはじめ、湾岸諸国にはサンゴ礁を建材にした建物もあります。

一方、今ではほとんどの建物がセメントを結合材とするコンクリートで作られています。実際、セメントは水に次ぎ世界で2番目に消費量の多い材料で、セメント産業によるCO2排出量は人為的排出量の約8%にもなります。そこで持続可能な代替セメントはできないものか、と考えました。

サブカを観察すると、塩が結晶化していることがわかります。となると、そこには『結合させる物質』が含まれているはず。そこでアメリカ大学シャルジャ校の協力でリサーチを進め、その物質が酸化マグネシウムであることを突き止めました。

サブカは不毛の地のように見えますが、そこには何層にも渡って生物、植物、微生物らの生態系が形成され、1平方メートルあたりでは熱帯雨林より二酸化炭素を多く吸収することがわかっています。となると、ここから塩を採集するわけにはいきません。

そこで着目したのが、海水の淡水化で発生する高塩度の排水です。UAEは海水の淡水化が世界で3番目に多く、垂れ流しにされる濃縮塩水が海の生態系に与える影響が問題になっています。そこでニューヨーク大学アブダビ校の協力を得て、この濃縮塩水から酸化マグネシウムを分離し、それを使ったセメントの製造に成功しました」

酸化マグネシウムを結合材にしたセメントのプロトタイプは東京大学の佐藤淳研究室と小渕祐介研究室が協力で製作された。 photo_Courtesy of National Pavilion UAE – La Biennale di Venezia and waiwai

「最終的なプロトタイプの製作と、構造的に最適な積み上げ方などに関しては、東京大学の佐藤淳研究室と小渕祐介研究室に協力いただきました。プロトタイプはパーツから成り、砂に手作業で描いた窪みにこのセメントを流し込んで作っています。フォルムはサンゴをイメージしたもので、UAEの地質的、また歴史的なアイデンティティを表現したものです」(ワイル・アル・アワール)

館内の展示は工業化と隣り合わせたサブカの様子を捉えた写真と、2400個のサンゴ型のプロトタイプを積み上げたストラクチャーによるシンプルな構成。詳しい内容は本にまとめられている。アーティスティックに表現された展示は、環境破壊への問題提起にとどまらず、国境を越えたコラボレーションによる具体的な解決策の提案でもある。そのことが高く評価されての金獅子受賞となった。

●特別賞:ロシア館『OPEN』

100年以上の歴史を持つロシア館の改修を手掛けたロシア人・アレクサンドラ・コヴァレヴァと日本人・佐藤敬による建築ユニット〈KASA〉の2人。 photo_Megumi Yamashita

1914年にアレクセイ・シューセフが設計で開館したロシア館。今年はこのパビリオンの改修自体が、「展示」になっている。改修を手掛けたのはコンペで100作余りから選ばれた〈KASA〉。石上純也のアトリエで7年間経験を積んだアレクサンドラ・コヴァレヴァと佐藤敬による建築ユニットだ。2人に話を聞いた。

重い雰囲気のロシア館のイメージが一新した。左は吉阪隆正設計の日本館、右はカルロ・スカルパ設計のベネズエラ館に隣接する。 ©︎ Marco Cappelletti

明るく開かれたオープンなパビリオンに

「ロシアには週末や休暇に野菜を育てたりしながら過ごす、緑に囲まれた別荘『ダーチャ』というものがあります。そのダーチャのようにあたたかく、みんなのための開かれたパビリオンにしたいと思いました。

当初は、会期中、東京のスタジオをロシア館内に移動して、デザイン作業を公開で進行し、実際の改修は会期が終わってから行われる予定でした。ところがコロナ禍で開催が一年延期になり、渡航もできなくなってしまって。それで、資料を元に東京で改修の設計作業を進め、地元の建築士とリモートで連携を取りながら、会期に間に合うように改修工事をしました。

ロシア館はこれまで何度も改装され、ソ連時代には窓も塞がれていて、暗くて威圧的な雰囲気が不評でした。今回、建物に刻まれた歴史を掘り起こすと、シューセフは周囲の風景に溶け込むようにデザインしていたことがわかってきました。まずは元の状態に近づけるため、ラグーンを望むテラスも修復し、塞がれていた窓や屋根の天窓も開放しました。

オリジナル建築の痕跡を明らかにする一方で、今の時代にふさわしいフレキシブルに使えるスペースにアップデートしています。2階のメインギャラリーは、中央に天窓からの光が1階まで届くように床が吹き抜かれていましたが、広く空間を使いたい時には、床を設置できるようにしました。一方、その横のギャラリーは、床の3分の2を可動式のものに改修しました」
(KASA)

通りに面して3つアーチ型に開口された1階のギャラリー。左側の吹き抜けの部分は梁が可動式で、この上に床を載せると2階のギャラリーが拡張するデザイン。 ©︎ Marco Cappelletti
塞がれていた天窓と窓が開放され、展示のタイトルの通り「オープン」なスペースに生まれ変わった。©︎ Marco Cappelletti

ギャラリーの壁には改修の過程など絵本のように綴った手描きのイラスト作品が展示されている。

また、空間を使ったビデオゲームもあり、実質的な改修でありながら、リモート作業やデジタルによる可能性も示された。長期的な貢献であることも今回の受賞につながったようだ。

●特別賞:フィリピン館『Structures of Mutual Supportー助けあいの仕組み』

フィリピン館のキュレーションを務めたノルウェー人のアレクサンダー・エリクソン・フルネスとフィリピン人のスダルシャン・カードゥカ。 photo_Megumi Yamashita

アルセナーレ内の一室を使ったフィリピン館のテーマは、相互の助け合い。会場には住民がデザインに参加して建てた木造のコミュニティ図書館が移築されている。ノルウェー人のアレクサンダー・エリクソン・フルネスとフィリピン人のスダルシャン・カードゥカによるプロジェクトだ。2人に話を聞いた。

地元の人がデザインにも建設にも参加

「フィリピンでは村落の人々が共同で道路や橋を作ったり、農作業や家を建てたりする『バヤニハン』という伝統的慣習があると知り、2010年から現地に足を運ぶようになりました。また、AAスクールでの学生時代、江頭慎先生が主催する新潟の集落、小白倉でのサマースクールでは、地元の人たちと交流しながらセルフビルドするプロジェクトに参加しました。こうした体験からコミュニティーベースの参加型の建築を追求するようになったのです」(アレクサンダー・エリクソン・フルネス)

フィリピンの村落に建てられた図書館を一旦解体し、アルセナーレの会場に移築している。photo_Andrea D. Altoe

2013年のスーパー台風ハイヤンで、フィリピンは大被害を受けた。フルネスとカードゥカの2人はスタディセンターや孤児院の再建に参加している。

「再建は地元コミュニティと共同でデザインと建設を行いました。その体験を通して人々が具体的に参加することは、心理的な意味でも復興に重要なことだと学びました。今回、ビエンナーレで発表したプロジェクトはその延長で、フィリピンの集落の拠り所になる図書館を地元の住人と共同でデザインして建てたものです。ワークショップを通して話し合いながら、地元の人が求めるものを共にデザインし、そしてみんなで共同で建てました。できたものを一旦解体してヴェネチアに輸送し、会場内に建てています。会期後は再びフィリピンのコミュニティに送り、パーマネントな施設として組み立てる計画です」(スダルシャン・カードゥカ)

ワークショップを通して、どういうものがなぜ欲しいのかを突き詰めていく。 photo_Ron Stephen Reyes

●日本館とのコラボレーションが実現

日本館のキュレーターを務めた建築家で明治大学准教授の門脇耕三。 photo_Megumi Yamashita

実は今回、そんなフィリピン館とコラボレーションしているのが、日本館なのだ。

日本館の展示のタイトルは『ふるまいの連鎖:エレメントの軌跡』。1954年に建てられ、何度か増改築を繰り返した後に解体された「高見澤邸」の建材や建具などを会場に持ち込み、そこに刻まれた建物の歴史とともに時代背景や技術の変遷などをひもとくという内容だ。会期後、その部材はどうなるのか? ヴェネチア入りしていた日本館キュレーターの門脇耕三と長坂常に話を聞いた。

ブルーシートの上に年代順に拡げられた「高見澤邸」の残骸。下のピロティでのワークショップの様子も見える。 photo_Francesco Galli

ノルウェーで再利用される「高見澤邸」

「ヴェネチア建築ビエンナーレは、建築界のオリンピックと言われたりもする各国が受賞を競うものではありますが、コロナ禍の会期延期で各国のキュレーターとオンラインで話し合うなか、『競争ではなく連帯を示す展覧会にしたい』という話になりました。フィリピン館とは、日本の相互扶助『結』の話に始まり、『一緒に作る』というテーマに共通点を感じました」(門脇耕三)

「日本館も当初は、建築家チーム(長坂常、岩瀬諒子、木内俊克、砂山太一、元木大輔)が順番で日本の職人と現地入りし、そこで部材をリサイクルしながら知恵を出し合って作品を制作する予定だったんです。ところが、コロナで現地入りができなくなってしまって。そこで、現地の職人とオンラインでコミュニケーションをとりながら、外に展示する作品の制作をするなど、リモートで実験的な試みが行われました」(長坂常)

エントランスに向かう部分にある、木内俊克+砂山太一による「高見澤邸」のかつての様子を伝える展示壁と階段室。 photo_Francesco Galli

「部材の一部は3Dスキャンしてデータ化されており、QRコードからデータにアクセスできます。欲しい人には譲ったり、家具にアップサイクルして販売もしますが、それでもおそらく大量の部材が残るはず。それらをどうしたらいいか、と悩んでいたところ、フィリピン館の2人から声がかかったんです。会期後、部材はノルウェーに輸送され、オスロの郊外のスレッテロッカと言う街で、移民の多い地区のコミュニティセンターとしてリサイクルされることになっています。

建築物とは時間と空間を飛び交うたくさんの部材が一時的に姿を与えられ、また変容していくものなのかもしれません。今回の展示ではそのことを表現したかった。そして、コロナ禍による延期という事態から、部材が東京ーヴェネチアに留まらず、オスロに渡って生き続けることになったのです。これによって、建築は本来的にみんなの協働制作物なのだということが、具体的に提示できたように思います。だからフィリピン館の受賞は我が事のように嬉しいです」
(門脇耕三)

岩瀬諒子は、看板建築の「看板」部分を転用し、壊れてしまったグリーンのモルタル壁をメッシュスクリーンとして「想像的に復元」している。 photo_Megumi Yamashita

そのほか、展示に与えられる金獅子賞はドイツの建築家集団〈ラウムラボア・ベルリン〉が受賞。ベルリンでの空港跡地に仮設運営される〈Floating University Berlin〉や、旧東ドイツの旧統計局ビルの再生など、草の根的なコミュニティプロジェクトの展示だ。

妹島和代から金獅子を授与された〈ラウムラボア・ベルリン〉の面々。 photo_Megumi Yamashita

新人賞に当たる銀獅子賞はアムステルダムの〈Foundation for Achieving Seamless Territory (FAST) 〉が受賞。イスラエルの攻撃を受けながらも野菜や果物作りをよりどころに暮らすパラスチナのガザのコミュニティの様子を伝える展示である。

アムステルダムのFoundation for Achieving Seamless Territory (FAST) は、Watermelons, Sardines, Crabs, Sands, and Sedimentsがタイトルの作品が評価され、銀獅子賞を受賞。 photo_Megumi Yamashita

全体のキュレーターを務めたMIT建築計画学部長、ハシム・サルキスは「誰もが寛大に共生できる空間を想像するように」、また「建築の専門的視点を持って、この課題に具体的に取り組むように」と呼びかけた。パンデミックという不測の事態が起こり、この呼びかけへの応えはリモートでのコミュニケーションやコラボレーションにも拡大された。コロナ禍でも世界はつながっている、そんな希望が感じられた第17回『ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展』は、11月21日まで開催中。

第17回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展

La Biennale di Venezia 17th International Architecture Exhibition Giardini and Arsenale, Venice, ~2021年11月21日。11時~19時。入場料25ユーロ(事前オンライン購入必須)。

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