August 27, 2021 | Food, Architecture, Design | casabrutus.com
多くの常連客に愛され、早朝から連日賑わう渋谷・西原のコーヒーショップ〈PADDLERS COFFEE(パドラーズコーヒー)〉。オープン8年を経てついに今夏、東京・中野に新店舗を開いた。どうやら単なるカフェではない模様。そしてなぜ、中野なのか? その全貌を徹底紹介します!
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【1階・カフェ】中野に出現した理想のカフェ&ダイナー。
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2013年に参宮橋で小さなコーヒースタンドとして誕生し、その2年後、西原店に旗艦店を開いた〈パドラーズコーヒー〉。接客と店の空間作りを担う松島大介、コーヒーの専門家である加藤健宏という2人の絶妙なコンビネーションで、創業から8年、着実な成長を遂げてきた。
そんな人気店が今年7月、〈中野ブロードウェイ〉裏の「ふれあいロード」添いに、待望の新店舗をオープン。その名も〈LOU〉。なぜ中野の、しかも飲み屋ひしめく繁華な通りに?
実はここ、店のフロントマン、松島の実家だった場所。約80年前に祖父が時計店として創業し、二代目の両親が宝飾店を営んだ思い出の地だ。その1階をカフェ、2階をゲストルーム、3階をキッチン併設のイベントスペースという複合空間にフルリノベーションした。
●〈ポスタルコ〉が店舗デザイン&グラフィックを担当。
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その顔というべきカフェの店舗デザインを手がけたのが、真摯なもの作りで知られるプロダクトブランド〈POSTALCO(ポスタルコ)〉のマイク・エーブルソンとエーブルソン友理の2人。まずは出会いから制作風景について、4人に聞いてみた。
松島 僕と加藤は性格も好みも全く違うのですが、唯一の共通点が〈ポスタルコ〉というほど大ファンで(笑)。西原店は自分たちでデザインしましたが、お2人が作るカフェの世界観を見てみたくて、思い切ってお願いしたんです。
加藤 打ち合わせのたびに、マイクさんのスケッチを見て歓声を挙げていました。たとえばショーケースに台車を付けて可動式にするとか、僕らだったら出てこないようなアイデアばかりで。お2人の妥協のない仕事ぶりは本当に勉強になりました。
●全ての出発点となった1枚のアルバムとは?
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空間作りの基盤となったのが、アメリカのソウルシンガー、ルー・コートニーの1974年のアルバムジャケット。この1970年代のダイナーの空気感を共有し合い、全てを組み立てていった。店名も彼の名が由来であり、コースターに描かれたロゴ(なんと〈ポスタルコ〉のお2人の息子さん作!)もコートニーの姿だ。
●背面の手触りが温かい、オーク材を削り出したチェア。
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マイク 考えたのは〈LOU〉らしさ、いかに “Confortable”な場所を作るか。松島さんと中野の街を歩いたり、昔の家の写真を見せてもらううちに、梁や床など実家の記憶をなるべく残そうと思いました。温かさがあり、でも全て木材では家っぽくなり過ぎるので、銅板などを使ってアップデートして。
●膨大なデッサンから生まれたオリジナルアイテムの数々。
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ロゴやメニュー、コースター等のグラフィックは友理さんが担当。「LOUグリーン」と呼んでいる、この店を象徴するキーカラーも彼女の発案だ。
友理 銅の天板に映えて、カウンターのブルーとも相性のいいピスタチオグリーンがいいなと思いました。西原のお店もステキですが、ここはまた違った温かみが出せたらと。2人の人柄に共鳴することが多かったですね。
●空間に表情をもたらす友人アーティストの作品たち。
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松島 カウンターを青にするとか、提案に対してたまに不安になったときも、「エーブルソン先生を信じよう」を合言葉に(笑)全てお任せしました。 でも、任せたら本当に最高で。
マイク 今後5年、10年、木や銅の素材が経年変化していくのを見るのが楽しみだよね。
加藤 ええ。店作りのプロセスが楽し過ぎて、今は完成してしまって少し寂しいです(笑)。
●細部までオリジナル。このポリシーが心地いい“非日常”を作る。
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施工は多くの人気店舗を手がける〈MILESTONE〉の長田篤が担当。木材を削り出した椅子や一枚板の銅製カウンターなど、随所にクラフトマンシップを感じる店内は、徳島の木工職人・小石宗右や清澄白河の工房〈ten〉で活動する金物職人・河合広大らと協働して作り上げた。〈ポスタルコ〉らしい、丁寧な空間が格別の居心地を生む。そして“丁寧な仕事”こそ、〈パドラーズ コーヒー〉が最も大切にしているものだ。
●本格フードにナチュラルワイン、そしてコーヒーの新たな試みも!
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メニューにもダイナーらしい一面が。〈パドラーズコーヒー〉では初となるフード類が登場し、マフィンなどの朝食メニューから、ヘルシー&パワフルなスープやサラダボウル、15時以降はタコスなども楽しめる。この味を担うのが、実は松島のお姉さんである松島宏美シェフ。コーヒーは初めて国内のロースタリーの豆を扱うほか、常連が待ちわびたアルコールも登場。銅板のロングカウンターで軽く一杯、立ち呑みするのも最高だ。
●モーニングから夕暮れの一杯まで、オールデイ楽しめるダイナー。
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【 2階・3階】長年温めていた“夢の遊び場”を、特別公開!
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さて、いよいよカフェを出てもう一つの〈LOU〉へ。2階はゲストルーム、3階はイベントルームになっており、こちらはイベント開催時のみの営業。松島の「知り合いや友人が集える“遊び場”のような空間を作りたい」という長年の思いを形にした場所だ。この2・3階はデザインを松島自身が担当し、設計を建築家・山越裕之、施工は松島の中学時代の同級生でもある吉良貴之という同世代チーム(仮称「LOU STUDIO」)で創り上げた。
●手摺りやドアノブ…。木工職人の仕事の数々。
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まず驚かされるのが、玄関から3階まで壁面を沿うように螺旋を描くオーク材の手摺り。松島がかつて訪れたアメリカの〈シェーカー・ビレッジ〉で、木製の手摺りの美しさに感動したのがきっかけとなり、小石が3DのNCルーターで削り出した力作だ。
●客を出迎えるのは、作り込んだ空間とアート&ヴィンテージ。
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松島姉弟の元子供部屋を改装したというゲストルームを始め、邸内にはフィリップ・ワイズベッカーやハワイの画家、ペギー・ホッパーなどの作品、ミッドセンチュリーの照明…と、松島が心惹かれ蒐集したアートやヴィンテージのアイテムが散りばめられている。これを眺めるだけで会話が弾みそうだ。
●みごとな“中野的View”が広がる最上階で、様々なイベントを。
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キッチンを併設した最上階のイベントルームは、料理やスイーツのワークショップのほか、今後は海外のシェフを呼んでのイベントも開催予定。複数の木材を使い、テーブルや木製のルーバー、ベッド脇の読書灯まで妥協なく作り込んだ2階のゲストルームも、遠方から訪れたゲストたちに快適に過ごしてほしいという思いからだ。
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思えば、チャージも取らないコーヒーショップで、松島のような接客を専門とする人間がいる店は珍しい。「接客は僕の天職。コーヒー代の500円は言わば入場料で、それでどこまで“非日常”の時間を過ごしてもらえるか。僕はそこに力を注ぎたいんです」と彼は語る。だからこそ、西原店もこの店も、老若男女で賑わい、愛されるのだろう。
〈中野ブロードウェイ〉の真裏で生まれ育った天性のフロントマンが、自身の好きなものと好きな人たちでとことん創り上げた空間〈LOU〉。人々が集う新たな場として、ゆっくりと進化していくはずだ。
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