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丹下健三の名建築が、あなたのアイデア次第で生き残る!?

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August 26, 2021 | Architecture, Design | casabrutus.com

丹下健三が1964年に設計した名建築〈香川県立体育館〉が取り壊しの一歩手前だ。しかし、有効活用のアイデア次第では存続の道が開ける。その建築的価値や魅力、希少性について、注目のカルチャー本『世界のビックリ建築を追え』(扶桑社)の著者、白井良邦が語る。

建築家・丹下健三が設計した〈香川県立体育館〉。竣工は1964年。〈国立代々木競技場〉と同じ年の完成だ。

1964年(昭和39年)の東京オリンピックのため建てられた建築家・丹下健三の代表作〈国立代々木競技場〉は、その文化的・建築的価値が高く評価され、国の重要文化財に指定される見込みだ。

だが、その陰で貴重なモダニズム建築のひとつがこの世から失われようとしている……。その名も〈香川県立体育館〉。こちらも丹下健三の設計で、〈国立代々木競技場〉と同じ64年に完成した“双子”とも言える体育館である。なぜ双子かというと、これらは「吊り屋根構造」と呼ばれる、当時の世界最先端の特殊な構造でつくられているからだ。

施設建設中の様子。〈国立代々木競技場〉と同じ「吊り屋根構造」でできている。

簡単に「吊り屋根構造」を説明すると、敷地の両側に柱を立て、柱と柱をワイヤーで結び、そのワイヤーに屋根を取り付けるとでも言おうか。お台場にかかるレインボーブリッジのワイヤー部分に屋根をひっかけたものを想像してもらうと、わかりやすいかもしれない。「吊り屋根構造」の最大の利点は、柱のない大空間をつくれること。だから屋内競技場や体育館建築とは相性がいいのである。

体育館内観。アリーナの天井の曲線のラインをみると、「吊り屋根構造」であることがよくわかる。

この双子建築のもうひとつの魅力が、特異な外観だ。吊り屋根とそれを支える巨大なコンクリート壁(縁梁)の組み合わせは、丹下の独創的な造形力が爆発的に開花した、世界に類をみない独自の形態をもったモダニズム建築と言える。

〈香川県立体育館〉のそのビックリ建築的な外観デザインは、古より海上交通の要所として栄えた瀬戸内の土地柄もあり、県民の間では早くから「和船」のイメージで親しまれたが、丹下自身は、ぐっと前後にせり出した屋根の形状に、日本刀の反りを重ねていたという。

日本刀の“反り”を意識してデザインされたという、屋根と壁(縁梁)の絶妙なラインが美しい。

実際、体育館内部に足を踏み入れると、ギュッと屋根が中央から東西方向の隅へとせり上がり、独特の雰囲気を醸し出している。1階のホワイエに目を向ければ、デザイナー剣持勇が手がけたオリジナルスツールが並び、その外にはイサム・ノグチの制作パートナーであった彫刻家・和泉正敏デザインの池と庭があり、雨の日には巨大なガーゴイル(雨どい)から大量の水が池へと注ぎ込む。

ホワイエ部分。床、天井、手すりなどのディティールにも職人技が光る。
体育館の脇に設けられた庭園。香川県出身の彫刻家・和泉正敏のデザインだ。

しかし、県民から「船の体育館」と呼ばれ、長年親しまれてきたこの建築も、老朽化により耐震補強が求められた。2012年、丹下都市建築設計が改修案をまとめ、県が業者選定の入札を3度実施するもどれも不調に終わり、竣工から50年経った14年9月に体育館は閉鎖となった。

翌年には新たな県立体育館建設の動きが起こり、高松港近くにコンサートなど多目的で使用できる1万人収容の施設建設が決まった。18年、コンペで妹島和世+西沢立衛/SANAAの案が選ばれ、24年度のオープンへ向け着々と整備事業が進められている。そう、巨匠・丹下設計の体育館はお役御免となり、ついに今年で丸7年、閉鎖されたままの状態なのである。

〈香川県立体育館〉は1966年、建設業協会賞を受賞している。

そして今回、〈香川県立体育館〉の「サウンディング型市場調査」が行われることになった。これは、建物や土地を有効活用するアイデアを広く民間事業者に求めるもので、21年9月30日まで参加申し込みができる(提案書の提出締め切りは、10月21日)。

建物に耐震性能がないので耐震補強を行う必要はあるが、自由な発想で、体育館以外の用途・機能をもった建物として再生・使用することも認められている。また土地・建物の権利については、売却・譲渡・賃貸借など、提案内容に応じて県側も対応するという。

グッと前に張り出す、迫力ある外観。

雑誌『Casa BRUTUS』では、この建築に注目し、「丹下健三特集」や「モダニズム建築特集」など、幾度となく誌面で取り上げてきた。連載「櫻井翔のケンチクを学ぶ旅」の第4回(2011年7月号)では、高松にある丹下の代表作のひとつ〈香川県庁舎〉(1958年竣工)とともに、この体育館を櫻井翔さんが訪れ、その貴重さを建築があまり詳しくない読者にまで訴えた。

階段部分。コンクリート打ち放しの質感に、明るい差し色が映える。

イタリアのラグジュアリーブランド〈ボッテガ・ヴェネタ〉のクリエイティブ・ディレクター、トーマス・マイヤー(当時)を日本へ招いての取材(Casa BRUTUS特別編集『ニッポンが誇るモダニズム建築』ムックに収録)では、2014年秋にこの建築を訪ねた。その時点で既に施設は閉鎖されていたが、魅力は十分に伝わり、「これはすごい、世界に類をみないデザインだ」と、建築通として知られるデザイナーを唸らせた。また彼は、「これを壊すのは惜しい。建築博物館にしてはどうだろうか?」と真剣に考えてもくれた。

今年撮影された〈香川県立体育館〉の全景。その独創的、かつ特異な形態が際立つ。

一体この名建築の明暗はいかに……。時間はあまり残されていないが、最後のチャンスとも言える。次世代になんとかこの価値ある建築を残せないものか。貴重な建築の図面や模型を展示・保管する建築ミュージアムか? それともホテルやサウナ、スポーツクラブを併設した複合施設か? あなたや、あなたの周囲からの名案に期待したい。

〈旧香川県立体育館サウンディング型市場調査〉

参加申し込みは、2021年9月30日まで。提案書の提出は、10月21日まで。調査結果の公表は、12月を予定しているとのこと。

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