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エルメス財団の書籍で学ぶ「木」という素材の多面性。

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August 15, 2021 | Culture, Architecture, Art, Design | casabrutus.com

1837年の創業以来、職人の手わざとものづくりの核となる素材を大切にしてきたエルメスが、「木」という素材に多角的な視点でアプローチした書籍を出版しました。

講談社選書メチエの特装版シリーズとして刊行された函入り装丁の『Savoir&Faire 木』(エルメス財団編)。Savoir&Faire=サヴォワール・フェールとはフランス語でものづくりの知識と技のこと。

エルメス財団では2014年から〈スキル・アカデミー〉という社会貢献プログラムをフランスで企画・開催してきた。創業以来、手わざとものづくりを重要視してきたメゾンが、その核となる「素材」に光を当て、素材にまつわるスキル(職人技術や手わざ)への理解を深め、普及していこうという取り組みだ。2014年のテーマは「木」、その後も「土」「金属」「布」「ガラス」と隔年で1つの素材を取り上げ、講演会やワークショップ、マスタークラスなどを実施し、素材名を冠した書籍を出版してきた。これまでにフランス語版で4つの素材の研究をまとめた4冊が刊行されている。

この〈スキル・アカデミー〉の日本版が今年の夏スタート。まずは「木」をテーマにした書籍『Savoir&Faire 木』を講談社選書メチエの1冊として刊行した。既刊のフランス語版『Le Bois』から8本の論文を抜粋・翻訳し、日本人著者・作家11名に依頼したオリジナルの寄稿・インタビューなど9本を新たに加えた。

応用美術教授のエリック・デュボワによる「パリ工芸博物館所蔵の道具についての考察」から。左の写真は19世紀の木工旋盤職人の道具一式。

中世ヨーロッパの生活や信仰の中で「木」という存在がどのように捉えられてきたかを写本のミニアチュール(装画)を通じて読み解いたり、デザインや工芸の分野で木材がどのように導入されてきたか、また木工芸を支える道具の発展を〈パリ工芸博物館〉の所蔵品を通して考察したり。様々な視点から「木」と人間の関わりを深掘りしていて、興味深い。

建築史家・藤森照信は日本における木造建築の歴史を、神社・寺院・上層住宅・茶室・天守閣のカテゴリーで説明する。

日本オリジナルコンテンツから例を挙げると、建築史家の藤森照信が日本の木造建築の歴史と特質について豊富な写真とともに解説するほか、発酵学者の小泉武夫は木が支えてきた食の道具(臼、杵、蒸籠、杓子、樽など)について文章を寄せた。また公共工房として木工DIYの可能性を探る「石巻工房」と、岡山県に工房を構える漆器作家、仁城義勝・逸景父子のインタビューと製作風景の写真を掲載。文章以外にも、美術家・内藤礼や写真家・山本昌男の作品が木の世界をさらに豊かに見せている。

従来の分業制の漆器業界と異なり、丸太の仕入れから器の形の削り出し、漆塗りまですべての工程を自身で担う漆器作家の仁城義勝(写真)・逸景の工房を取材。

この本は選書メチエの中でも特装版シリーズとして位置づけられ、初めての函入り装丁はデザイナーの菊地敦己が手がけた。いかにもエルメスらしく端正な仕上がりだ。内容は深い考察に満ちているが専門家向けというわけではなく、一般読者が興味のおもむくままに章を自由に選んで読める内容になっている。建築や工芸、庭園など様々な場面で太古の時代から「木」と密接に関わってきた日本。この本を読めば、一番身近な存在と言っていい「木」について、あらためて目を見開かされるだろう。フランスと日本の、木への向き合い方への共通点や違いも面白い。

モノクロームの写真家、山本昌男の作品「木と𤋮」より。

なお「スキルアカデミー」では、中高生向けのワークショップ《木に学ぶ、五感で考えるWood-Life Learning》を秋に開催予定。週末2日間を利用して、各回限定15名の生徒たちが森の中での香りの蒸留体験や、修復室での仏像解剖など、木に触れながら多彩な学びを得る内容だ。詳細告知と募集はもうすぐとのことで、こちらも楽しみだ。

『Savoir&Faire 木』

エルメス財団編/講談社選書メチエ刊。2,750円。函入392ページ。

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