July 19, 2021 | Art, Architecture, Culture, Design | casabrutus.com
気鋭のアーティスト奈良祐希が個展の場に選んだのは、村野藤吾の名作〈佳水園〉。西陣織〈細尾〉12代目・細尾真孝、いけばなの小原流五世家元・小原宏貴、そして建築とのコラボレーションを果たし、高い評価を受ける「Bone Flower」シリーズと共に新作「Lotus」シリーズを披露している。
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金沢に350年続く茶陶、大樋焼・11代大樋長左衛門を父に持つ奈良祐希。ところが世襲制をものともせず、高校時代に目にした〈金沢21世紀美術館〉に建築の持つ社会への影響力を感じ、建築の世界へと進む。東京藝術大学で建築を学ぶものの、優れた陶芸の作品に触れ、「同じ土という素材であっても、自分が思っているとはまったく違う、陶芸の未来があるのかもしれない」と感じて多治見市陶磁器意匠研究所へ入所。陶芸を学んだ後に再び建築の世界へと戻り、東京藝術大学大学院を首席で卒業するというユニークな経歴の持ち主だ。
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「自分のオリジナリティやバックボーンから、陶芸を考えるというのが最初の課題。建築的な技法が陶芸の伝統的な技法と出合い、新しい未来を考えるイメージはあって、そこから建築から陶芸を見つめるアプローチへの挑戦が始まりました」。
処女作として発表した「Bone Flower」シリーズは、建築CADのテクノロジーと陶芸の伝統的な技法を融合した作品。板状の白磁が層となって組み立てられ、立体を形作る。そこには内と外との境界の曖昧さ、光と陰によりもたらされる表情の変化が備わっている。
「僕が作品を作るにあたり、とても大事にしていることが3つあります。曖昧な境界、シャープネス。そして繊細さ、これは言い換えれば軽さとも。それらは日本建築が体現していることでもあり、強みや輝きでもある」。
そんな奈良にとって、日本モダニズム建築を代表する名建築〈佳水園〉での個展を開く機会を得たのは、願ってもないことだったという。
「日本建築、ないしは数寄屋建築が西洋建築と違うのは、内と外がニュートラルであること。西洋建築は厚い壁で内と外がきっちり区切られている一方で、日本建築は広い軒があり、縁側がある。それは陶芸に置き換えて考えることもできて、土というのは素材のしがらみでどうしても重い存在になる。それをレイヤー状に組むことで軽やかさを持ち、光と影を取り込んでいます。そもそもの発想は日本建築にある作品を、〈佳水園〉のバッファー空間に置くことで作品の精神性やフィロソフィーを体現できるんじゃないかと」。
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今回の個展のタイトルは調和、掛け合いを意味する「ENSEMBLE」と名付けられた。「個展であっても、その土地土地の方々とのコラボレーションを取り入れたら、おもしろいものになるのではと考えました」と奈良。そこでタッグを組んだのが西陣織の老舗〈細尾〉12代目の細尾真孝と、京都にゆかりも深いいけばな小原流五世家元・小原宏貴だ。
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「3人に共通しているのは家業が世襲制であること。とはいえ古いしきたりや慣習、固定概念にとらわれず自由な気質で伝統の未来を考えている部分に共感するものがあります」。
「Lotus」は細尾のテキスタイルから閃きを受けて完成した新作。
「細尾さんが作るテキスタイルのフィロソフィーや製法を陶芸技法に落とし込むことで、織物のような立体性を持つ作品が生まれました。一方で華道家である小原さんには小原流独自の水平性からインスピレーションを受け、『Bone Flower』の新作を」。
それと同時に〈佳水園〉という建築、環境とのアンサンブルも見所となる。
「軒の下に作品を置くと、太陽の動きに合わせて影が変化し、作品の表情が刻一刻と移ろっていきます。作品を設置して、これこそが僕の作品で体現したかったことだと改めて実感しています」。
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