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【速報】岡本太郎《こどもの樹》を囲む、藤原徹平による緑の道。「パビリオン・トウキョウ2021」メイキングレポート。

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July 10, 2021 | Design, Architecture | casabrutus.com

オリンピックスタジアムとなる〈国立競技場〉を中心とする都心の10か所に、9人の建築家とアーティストが建物やオブジェを設置し、自由で新しい都市のランドスケープを提案する『Tokyo Tokyo スペシャル13「パビリオン・トウキョウ2021」』が7月1日にスタート。その直前に、旧〈こどもの城〉前で《ストリート ガーデン シアター》を施工中の建築家・藤原徹平にインタビュー、建築的な見どころを語ってもらった。

完成した《ストリート ガーデン シアター》全景。旧〈こどもの城〉は改修され、2023年度に〈都民の城〉として再オープン予定。

東京・神宮前の青山通り沿い、旧〈こどもの城〉前はふだんから歩行者が多い。そこで街を見下ろすように立つ岡本太郎のモニュメント《こどもの樹》の周囲が、木材でできた構造物と無数の植物に取り囲まれた。パビリオン設計を手がけた建築家・藤原徹平に、なぜこの場所を選んだのか、その狙いを聞いてみた。

「まず、青山通りが東京にとって重要な道だということがひとつ。1964年の東京オリンピックの時にはまだ都電が一部走っていて、その後、青山車庫の跡に旧〈こどもの城〉や〈国連大学〉ができたりして街が変わるきっかけになったので、青山通り沿いがいいなというのは最初から思ってました。ここは向こうの青山学院脇の道とのT字路で岡本太郎の彫刻《こどもの樹》があって、〈こどもの城〉は東京の子どもにとって非常に大事な、聖地みたいな場所だった。そこが2015年に閉館し、何も使われないまま放置されていた。非常にもったいないというか、場所が死んでいるのがずっと気になっていました。渋谷から歩いてきて表参道に行く中継地点の大事な場所なので、東京にとってもすごく重要な交差点なんじゃないかと思います」

完成した《ストリート ガーデン シアター》を渋谷方面から見る。

今回の展示を機に、岡本太郎《こどもの樹》の周りにあった仮囲いが撤去されている。

「《こどもの樹》を取り囲むようにパビリオンをつくれたら、岡本太郎も喜ぶかなと思いました。太郎が1959年に〈いこい島〉、通称“おばけ東京”という構想を発表したのですが、それは東京湾の島の中に全く違う東京をつくろうという計画で、実は丹下健三の《東京計画1960》につながるという、アートと建築の接点としてすごく面白いプロジェクトだったと思うんです。小さな島で色々な東京の文化が混ざり合うんだという意味のことを太郎が言っているんですけど、今回の『パビリオン・トウキョウ2021』にも似たようなところがあるかなと思います。

東京全体を問題にするのではなくて、一人ひとりの建築家やアーティストが小さなパビリオンをどれだけ面白がれるかということは、そのまま東京の可能性につながるのではないか。つまらなくなった東京を嘆くのではなく、個々に面白いことをやり続けていれば、必然的に東京が面白いことになるんじゃないかという気がするので、建築家としては、この太郎の作品の周りを祝福された場所に変えられたらいいなあと思いました」

完成したパビリオンの最上部から青山通りを見下ろす。

次に、パビリオンのテーマと機能について聞いてみた。

「一番大事なのは道の文化なんだと思うんです。道をつくることが都市をつくるということ。このパビリオンはぐるぐると上まで登っていく坂道になっているんですが、道沿いに渡した梁を“植木梁(うえきばり)”と呼んでいて、ポットに入った植物にみんなで水をあげるという文化を、会期中につくります。観客も一緒に、みんなで街の植物に水をあげて育んでいく。夏だから枯れやすい植物にはけっこう水をあげないと大変なんですが、そういうことも一人ひとりがケアして、花が咲いたとか、ちょっと弱っていたのが元気になったとか、一喜一憂しながら過ごすのが面白いんじゃないかと」

植物が入ったポットのサイズはさまざまだ。 photo_Kenya Abe

植物の入ったポットは事務所で育てたものや民家の軒先から借りたもので、全部で約300個。いわば立体の路地だといえる。

「道路以外には物見台の機能も持っていて、最上部に立つと『ああ、こういう風に東京って見えるんだ』と。ちょっと視点が変わると、街は面白く見えるんですよ。ぼんやり街を眺めてると、意外とこんな場所が面白いなとか、こんな彫刻あったんだとか。建築の力には時間の質を変えるところがあると思うので、急ぎ足で渋谷と表参道を行き来する人が、ふと登ってしまって、なんとなく遅刻してもまあいいか、花が可愛かったから(笑)、と思えるような人が少しでも増えたら、街が豊かになるんじゃないかと思います。

建築基準法上、これは建築ではなく工作物のうちの『物見台』なんです。物を見るための台から何を見るのかと考えて、ひとつはやっぱり太郎の《こどもの樹》。こんなにまじまじと見ることはないと思います。あとは街を見る。僕たちは毎日色々なものを見てますが、果たして本当に見てるのか? じっくり見るということも大事です。ここでは植物の隣に人間が座ることもできるので、横の植物をよく観察できる。家にいる時間が長いと、枯れそうだった植物が株分けしたら育ったとか、コロナ禍でも植物は元気だなと感動します。一つひとつの生命に着目していくというのが建築家にとっても街を生きる人にとっても大事な感性だなと思います」

岡本太郎《こどもの樹》を間近から見ることができる。

最後に、構造と造形について説明してもらおう。

「これは〈エヌ・シー・エヌ〉が構造家の播繁(ばんしげる)さんと開発した“SE構法”を採用しています。ある種の櫓(やぐら)のような感じで人が鈴なりになれば、劇場的な状況もつくれる。パビリオンを大小2つに分けたのは、東京オリンピック・パラリンピックのボランティアセンターが旧〈こどもの城〉内に設けられたから。その間が通路になり、太郎の彫刻に迎えられて入っていく。街に人を迎える役割の人が太郎に迎え入れられるというのも、すごくいいんじゃないかと思います」

道をテーマに、植物や劇場など複合的な要素がつながっている。パビリオン名はそのまま《ストリート ガーデン シアター》だ。

藤原徹平《ストリート ガーデン シアター》本プロジェクト案。

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ストリート ガーデン シアター:「パビリオン・トウキョウ2021」

東京都渋谷区神宮前5-53-1 旧こどもの城前。〜2021年9月5日。10時〜18時。無休。無料。

藤原徹平

ふじわら てっぺい 1975年生まれ。横浜国立大学大学院工学研究科修士課程修了。2001年より隈研吾建築都市設計事務所にて〈ティファニー銀座〉〈北京・三里屯SOHO〉〈浅草文化観光センター〉〈マルセイユ現代美術センター〉など世界20都市以上のプロジェクトを担当。09年より〈フジワラテッペイアーキテクツラボ〉代表。10年よりNPO法人ドリフターズインターナショナル理事。12年より横浜国立大学大学院Y-GSA准教授。アートや演劇、都市など他分野に越境した活動を行っている。主な作品に〈クルックフィールズ〉〈那須塩原市まちなか交流センター くるる〉〈稲村の森の家〉〈リボーンアートフェスティバル2017会場デザイン〉など。

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