June 15, 2021 | Travel, Architecture, Art, Culture, Design | casabrutus.com
歴史ある寺院や木造家屋が並び、下町情緒あふれる東京・谷中に、ホテル〈YANAKA SOW〉がオープン。和モダンテイストの館内でくつろぎつつ、町に出て、谷中の文化や人の温かさにも触れられる、暮らすような旅時間を提供する新スタイルのホテルだ。
昔ながらの個人商店や古民家が並ぶ谷中のメインストリートから一歩入った静かな通りに、凛と佇むホテル〈YANAKA SOW(ヤナカソウ)〉。ここは、放送作家やプロデューサーなど、多彩な顔をもつ小山薫堂率いる〈オレンジ・アンド・パートナーズ〉と旅行コミュニティプラットホーム〈Airbnb(エアビーアンドビー)〉が手がける、「旅するように暮らす」をテーマにした宿泊施設だ。建築・設計は積水ハウス、内装・デザインはGCC。
〈YANAKA SOW〉の“SOW”には、「荘」「添う」「層」の意味があり、住むと泊まるの間のような場で、町の空気に寄り添い、何層にも谷中の文化を掘り探るように楽しんでほしいという想いが込められている。
エントランスを抜けると、真っ先に目に飛び込んでくるのは小上がりになった畳スペース。フロントデスクはなく、ライブラリーやキッチン、ランドリーコーナーなど、居心地よく過ごせる共用スペースが広がる。宿泊は事前予約制で現地決済はなし。タブレットを活用した無人チェックイン・アウトのため、煩わしい手続きがなく、気兼ねなく出入りできるのが特徴だ。
客室は全部で13室あり、快適に過ごせる4名の部屋、ゆったりくつろげる和室つきの6名の部屋など計5タイプある。部屋はシックなグレーを基調に、畳や障子窓、低座椅子などが設けられた和モダンテイスト。床の間には、「禅と仏教」「日本の家」など、部屋ごとに異なるテーマのもと、ブックディレクター幅允孝による選書が並ぶ。
シンプルな空間ながら、IHキッチンや大型冷蔵庫、デスクやスピーカーなどが配され、設備は驚くほど充実している。調理をしたり、音楽を聞いたり、仕事や読書をしたりと、思い思いの時間を過ごすことができる。
そんな客室で一際目を引くのが、現代アーティストによる個性的なアートピース。谷中は昔、遊郭として栄えたことから、その雰囲気を現代風に表したものだ。見渡すと、〈YANAKA SOW〉の随所にカラフルなネオンやビビッドな作品が散りばめられており、モダンでミニマムな空間がアートによって、土地の歴史と呼応している。
滞在をより充実させてくれる〈YANAKA SOW〉ならではの試みとして、町案内専門スタッフの存在がある。ガイドブックではなかなかたどり着けないディープな情報を聞くことができ、谷中の街歩きをサポート。少し目線を変えて谷中の地形や歴史への理解を深めたり、食事処の店主との会話を楽しんだりと、谷中の町を掘り下げ、そこに住む人とつながる楽しさを教えてくれる。
暮らしの延長のように館内でリラックスして過ごしつつ、谷中の町に溶け込み、濃密な体験ができる〈YANAKA SOW〉。訪れる度に谷中の違った顔を楽しめ、その魅力は尽きることがない。ホテルを後にする頃には、また訪れたいと思わせてくれる、特別な存在になるはずだ。