August 15, 2020 | Travel, Architecture, Art, Design, Food | casabrutus.com
三重県・湯の山温泉に、12のヴィラを持つ宿〈湯の山 素粋居(そすいきょ)〉がオープンした。見どころは、様々なジャンルのクリエイターが集結してつくりあげた上質な空間。プロデュースした陶芸家・造形作家の内田鋼一に話を聞きました。
●8つの素材をテーマにした、美術館のような宿。
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緑深い鈴鹿山脈の麓、古くから名湯で知られる湯の山温泉に、日本が誇る才能と技を集結させたヴィラ〈湯の山 素粋居〉がひそやかにオープンした。13,928㎡の敷地には独立したヴィラとレストラン、レセプション棟が点在。建築デザイン監修、アートキュレーションを手がけたのは、世界で高い評価を得る陶芸家にして造形作家の内田鋼一。また、茶人・千宗屋やパティシエ・辻口博啓ら幅広いジャンルのトップランナーが、上質で心地よい空間づくりに携わっている。
「この敷地全体がひとつの美術館で、建物すべてが作品として存在する。そんな空間を目指しました。客室棟はひとつとして同じ間取り、同じしつらえはありません。それぞれ土、石、漆喰、木、漆、和紙、硝子、鉄というマテリアルをテーマに、その力を引き出す設計やデザインを熟考しました。壁の版画ひとつ、書架の本ひとつなおざりにせず、個を際立たせる仕掛けを散りばめる。そのために物事の本質を知るその道のプロや、信頼を寄せるものづくりの作家・職人と一緒につくりこみました」(内田鋼一)
普段は改めて触れる機会のない無垢木や大きな石の手触りを感じ、本来ならガラスケース越しにしか見られない貴重な美術品を身近に感じながら過ごす。そんな贅沢がここにはある。
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「それもこれ見よがしだと野暮になるから、あくまでさりげなく。本物の持つ“素”の力をいかに“粋”にプレゼンテーションするか。辿り着いた落としどころが“居”心地の良さを醸すものになれば。“素粋居”という名前には、そんな思いも込めています」
客室棟ごとに選書家の幅允孝が選んだ本も、〈猿田彦珈琲〉大塚朝之によるオリジナルブレンドも、パティシエ・辻口博啓によるウエルカムスイーツも、客室ごとに異なる8つの素材がテーマ。アメニティや部屋着、ライティングデスクのレターセットも、さりげなく自然素材由来のもので整えられている。
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土、石、漆喰、木、漆、和紙、硝子、鉄。8つの素材をテーマにしたヴィラは12棟。茶人、漆作家、ガラス作家らによる調度や装飾は、ここだけの特別あつらえも。1泊では到底、味わいきれないほど見どころが多い。一棟ずつに設けられた源泉掛け流し露天風呂も形や素材がそれぞれ異なり、「次回はあのヴィラに泊まってみたい」と期待が高まる。
●クリエイターが手がけた、4つのヴィラを紹介!
「石砬」
造形作家・内田鋼一×石。伊勢神宮の玉砂利にも使われる地元産の花崗岩・菰野石(こものいし)がテーマの客室。内田が山の石置き場で見定めた巨石を据えてから、建物を建てていった。菰野石は柔らかい色合いと質感があり、そばにいると不思議と落ち着いた気持ちになれる。
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「土逢」
茶人・千宗屋×土。土壁のあたたかみと懐かしさを感じる客室。武者小路千家15代家元後嗣・千宗屋監修の茶座敷「抱土」を擁する。床の間やにじり口、水屋を備え、玄関と茶座敷を結ぶ場所には待合の機能を果たす小さな部屋もある。リビングの茶机は千宗屋がプロデュースしたもので、テーブルとしても使える。
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「玄漆」
塗師・赤木明登×黒漆。拭き漆の外壁に囲まれた通り庭の奥には黒い革張りのソファ。家具や調度も黒で整えられている。注目すべきは輪島塗の塗師・赤木明登に特注した黒漆の浴槽。雑誌編集者から転身して30年、海外でも高い評価を得る作家の湯船は、重厚さとぽったりとしたまろやかさを兼ね備えている。
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「硝白」
ガラスアーティスト・イイノナホ×硝子。大きく取られたガラス窓越しの光が白色で統一した室内に差し込む。印象的なのはシャンデリア。イイノナホによる作品で、白をベースにした様々な手吹きガラスの玉がブドウの房のように連なっており、リビングに優しい光と影を投げかける。
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●内田が空間を構成した3つのレストラン。
〈湯の山 素粋居〉のレストランは3つ。それぞれ独立棟をなしており、いずれも内田が料理人との対話の中で料理の個性が際立つ空間に作り上げた。3つのレストランに共通するのは、湯の山の自然に根ざしていること、妥協なく見極めた力ある素材を使っていること、その日その客のために包丁を入れ料理すること。命のみずみずしさが際立つ料理は、滞在をより豊かなものにしてくれる。
〈HINOMORI〉
洞窟のようなエントランスを抜けると天井の高いダイニング。中央には柾目の通った檜の巨大テーブルが鎮座する。その上に並ぶのはワタリガニや伊勢エビ、アワビなど伊勢志摩の朝どれ魚介や、熟成により旨味を蓄えた松阪牛ややまびこ牛など三重のスペシャルな食材。それらを料理人が鈴鹿山脈のナラ材の薪で火を起こし、絶妙の火加減で調理し燻香をまとわせる。パリのミシュラン一つ星〈PAGES〉シェフ、手島竜司監修のコースは前菜からデザートまで約11品。劇場で舞台を楽しむようにじっくり堪能できる。
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翌日の朝食は前夜と打って変わって端正な日本料理。しぼりたての人参ジュースをスターターに、炊きたてご飯に滋味深い味噌汁、香の物などを載せた一の膳が供され、続いて炭火焼の魚と野菜、4種の惣菜を載せた二の膳が供される。デザートもついてたっぷり1時間の朝食は、鮮やかな旅の思い出になる。
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〈そば切り 石垣〉
店主は〈翁達磨〉の流れをくむミシュラン1つ星〈なにわ翁〉で研鑽を積んだ石垣雄介。玄ソバを毎日石臼で自家製粉し蕎麦を打つ。ここで蕎麦の味の決め手となるのが湯の山の水。鈴鹿の山に磨かれた地下水が蕎麦の香りを開かせ、しなやかなコシとなめらかな喉越しをもたらす。蕎麦味噌など気の利いた蕎麦前や日本酒も充実。料理は内田の器や江戸時代の骨董の器で供される。到着したらここでまずは軽く一杯、蕎麦をたぐってから温泉を楽しむのも粋な過ごし方だろう。
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〈うなぎ 四代目 菊川〉
江戸時代に屋台の味として親しまれたうなぎが今やハレの日のご馳走に。その価値にふさわしいシチュエーションをと、内田とともに空間や器を吟味。川魚専門に90年の老舗問屋を母体とするだけに素材の目利きと技は本物。生産者から生きて届くうなぎを湯の山の地下水で生かし、当日に捌いて備長炭の炭火で地焼きにする。名物、一本うなぎのうな重は特注の信楽焼きの器でテーブルへ。パリッ、フワッ、トロッの感触は天国に上る味わい。
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今回の〈湯の山 素粋居〉プロデュースにあたり、内田は完成間際までじっくり現場に立ち会った。1年の半分は海外など出先にいる内田にとって、めったにない経験だったという。
「5年先まで予定が詰まっていて、本来なら海外にいるはずがコロナ禍の渡航制限で地元・四日市にいることに。ほぼ毎日、現場に顔を出して、仕上げの微妙なさじ加減など細かいところまで職人さんと直接やり取りできた。そうすると職人さんも俄然やる気が起きる。お互いに全力投球。一球入魂ならぬ全棟入魂の宿ができたと思っています」
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日本初の顔認証による入退室システム、自動運転モビリティによる送迎など、人との接触を最小限に抑えるためのサービスも導入。〈湯の山 素粋居〉はwithコロナ時代の新たな滞在スタイルの先駆になるのかもしれない。
〈湯の山 素粋居〉
三重県三重郡菰野町菰野4842-1。 TEL 059 390 0068。 2020年7月10日グランドオープン。全12棟。1泊2食付き1名57,000円~。![](http://casabrutus.com/wp-content/uploads/2021/08/0812sosuikyo09_1104-1024x1024.jpg)