August 13, 2020 | Travel, Architecture, Culture | casabrutus.com
京都一の繁華街・四条河原町からほど近い場所にオープンした〈ザ・ゲートホテル高瀬川 by HULIC〉は1927年に竣工した元立誠小学校の貴重な近代建築の校舎を保存・再生したホテルだ。
ホテルのオープンラッシュが続く京都。2020年は、ほぼ毎月のように新しいホテルが誕生しており、ロケーションや設備、サービス面に加え、ゲストは滞在スタイルによってホテルを自由に選ぶということが当たり前になりつつある。京都の風情を感じながら、ゆったりとくつろげるホテルのなかでも、7月21日にオープンした〈ザ・ゲートホテル京都高瀬川 by HULIC〉は、築93年の小学校をリノベーションしたことでも話題に。多様化するゲストの宿泊スタイルに着目した個性豊かな客室が注目を集めている。
図書館や商業施設などが入る、京都の最新スポット〈立誠ガーデン ヒューリック京都〉のエントランスを抜け、エレベーターで8階へ。ホテルのレセプションの大窓からは東山の街並みをのぞみ、京都らしい風景に心がふっと和らぐ。
“外気を感じるホテル”をテーマに設計された同フロア内には、レストラン〈Anchor Kyoto〉を併設。ディナーはフレンチやイタリアンを融合させたコースを、朝食は京都の食材などを使った限定30食の和食膳かシグネチャーメニューのエッグベネディクト、パンケーキを楽しむことができる。
また、3階には宿泊ゲスト専用のラウンジ&パティオを備えており、ワインやソフトドリンクのフリーフローも(一部除く)。ラウンジにはブックディレクター幅允孝が監修するライブラリーコーナーを設け、旅の醍醐味、心地良い1日などをテーマに、氏がセレクトした本が並び、ソファでリラックスしながら自由に閲覧することができる。
建物のひとつの軸となるのは1869年に設立された全国初の学区制の立誠小学校。廃校となってからも日本ではじめて映画の試写会が行われるなど、地元の人々の文化交流の場として大切にされてきた空間を保存・再生したこのホテルは「School House 棟」と新築の「Main棟」に分かれており全184室、12タイプの客室を擁する。パノラミックな眺望に開放的な気分が高まる「Main棟」のスイートルーム「THE GATE」をはじめ、モダンな設えの「Classy」など、ゲストのニーズを汲んだ空間づくりが特徴的。
なかでもユニークなのは、〈ヴィトラ〉の上下昇降デスクを備えたビジネスユースの客室「Modest」や〈バング&オルフセン〉のスピーカーを備えた「Cinema」。ただ宿泊するためのホテルではなく、ゲストひとりひとりのパーソナリティに合わせた部屋はくつろぎ以上の充足感をもたらしてくれる。
また、かつての校舎をリノベーションした「Schoolhouse棟」は往時の面影を残す高い天井や大窓がどこかノスタルジックな雰囲気を醸し出す。京都の彫刻家、樂雅臣やリサイクル(=循環)×プランツ(=植物)をコンセプトに活動する村瀬貴昭のアート作品に彩られた客室「Lab」は、現代アートを間近に感じながらリラックスできる贅沢な空間だ。
さらに、温故知新の日本の心を色濃く表すのが立誠小学校時代に道徳や礼儀作法を教育する場であった自彊室(じきょうしつ)を保存・再生したリトリートルーム。畳60畳が敷き詰められた大広間は、背筋がすっと伸びるような静寂感に包まれ、長廊下や踊り場を歩くと、つかのまのタイムスリップ気分を味わうことができる。今後はリトリートルームで体験参加型のイベントや地域交流の場として活用される予定でかつての“京都に伝わる学びの場”が新たな形で再生することへの期待が高まる。
伝統とモダン、新しさと懐かしさがゆるやかに交差し、知力が研ぎ澄まされるホテルステイ。京都の旅を楽しむ拠点として、さらなる注目を集めるだろう。