January 15, 2020 | Design, Architecture | a wall newspaper
ホンマタカシが十数年かけてル・コルビュジエ建築を巡り、撮りためた窓にまつわる写真について、作家と五十嵐太郎が対話しました。
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ホンマタカシが十数年かけてル・コルビュジエ建築を巡り、撮りためた窓にまつわる写真について、作家と五十嵐太郎が対話しました。
世界各地のル・コルビュジエ建築の窓をテーマとするホンマタカシの写真集が刊行された。フランス、ドイツ、スイス、インド、日本を旅して撮影した建造物は20件にのぼる。窓そのものの外観や、窓枠で切り取られた景色、窓ガラス越しの室内などを捉え、あるものには雨粒にくもり、光や影が映りこみ、いわゆる建築写真とは一線を画した独特の世界が漂う。
2002年に小誌で〈レマン湖畔の小さな家〉を撮影(写真集にも収録)し、ホンマは当時から少しずつ窓のフレームという存在にとらわれるようになったと語る。一方、2013年に建築史家の五十嵐太郎が「窓学」総合監修を務める〈窓研究所〉が発足し、同所が協力する形で各地での撮影を推し進め、写真集出版に至った。
折しも東京国立近代美術館で2月2日まで開催中の『窓展:窓をめぐるアートと建築の旅』の学術協力として携わる五十嵐、同展に作品群《カメラ・オブスクラ》を展示しているホンマ。2人にこの写真集について語ってもらった。
五十嵐 ル・コルビュジエといえば水平連続窓に代表されるように、近代建築によって実現可能になった大きな開口部を顕著な形で発表し、最もわかりやすく言語化し、喧伝した建築家です。だから「窓」は彼の建築において大きな存在感を持っているといえます。特に〈ラ・トゥーレットの修道院〉はクセナキスの波動ガラスやトップライトの光の大砲など、窓のバラエティに富んでいるのですが、この写真集では光の大砲は収めていない。そういうホンマさん独自の選択眼が面白いです。
ホンマ いわゆる竣工写真とか建築写真集などと距離を置いて、写真集としての心地良さをどう求めるかを考えていました。だから彼の全種類の窓を網羅するつもりもなかったですし。
五十嵐 窓そのものよりも、窓の向こうに見える景色や、人の気配を感じさせますね。建築家自身が「こう見てほしい」と思ったであろう視点を意識していたのですか?
ホンマ どうでしょう。たとえば彼が暮らしたパリのアパルトマンの寝室に置かれたベッドは、床からめちゃくちゃ高くて、乗り降りも大変なぐらい。でもそれは朝起きた時に窓から見える景色を意識してのことなんですよ。彼の視線への貪欲さを実感しました。
五十嵐 どの写真も説明的でない分、あれ、こんな場所があったっけ? と意外に感じさせてくれます。
ホンマ 観る人のイメージを混乱させたり、シームレスにした方が写真として面白いと思って。
五十嵐 ホンマさんはピンホールカメラの仕組みを利用し、部屋をカメラ化する作品《カメラ・オブスクラ》にも取り組んでいますね。
ホンマ 密閉した真っ暗な部屋に1点だけ穴を開け光を取り込むと、壁に倒立した景色が映り、それを感光紙に長時間露光で焼き付けるのですが、建築がカメラの構造そのものだと思えてくる。イメージを捉えるには暗黒や閉じた空間が重要なのだとあらためて思うようになりました。
五十嵐 その思考は、ル・コルビュジエが最晩年に過ごした南仏カップ・マルタンの、南面の窓が1つだけの暗い小屋を彷彿させます。
ホンマ 窓は景色のフレームであり、カメラのフレームでさらにそれを切り取るという入れ子構造が面白い。写真を撮ることに馴れすぎているからこそ見逃しがちなその面白さをはっきりと認識できました。
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