January 15, 2020 | Design, Architecture, Art | casabrutus.com
「さらば」。そう書いてあるのは、竹橋の〈東京国立近代美術館 工芸館〉での最後の展覧会だから。赤レンガの建物をしっかりと目に焼きつけておきましょう。
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東京・竹橋の〈東京国立近代美術館〉本館から歩いてすぐのところにある工芸館。2020年夏には通称〈国立工芸館〉として石川県金沢市に移転する。建物は1910年に陸軍技師、田村鎮(やすし)の設計により、近衛師団司令部庁舎として建てられたもの。一度は取り壊しの話も出たが谷口吉郎らが保存を訴え、彼の改修設計により、1977年に工芸の展示施設として開館した。赤レンガに白い窓枠や八角形の塔屋がアクセントになった、簡素なゴシック様式の建築だ。今は少なくなってしまった明治洋風煉瓦造の建物として、外壁と玄関および階段ホールが重要文化財に指定されている。
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展示施設に転用するにあたり、谷口は2階にガラスのドアで仕切られた展示室と、その中に展示和室を設えた。九谷焼の窯元に生まれた谷口は、工芸と和室や床の間との関係性を見せることが重要だと考えたのだ。既存部分でも五芒星があしらわれた換気口や「引廻」などと書かれたドアノブ、木をていねいに削り出した、それ自体が工芸品のような手すりなど、建物にも見どころが多い。
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館内には随所に柳宗理の《バタフライ・スツール》や剣持勇の《丸椅子C-315-O》などの名作椅子が置かれ、自由に座ることができる。
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ここでの最後の展示となる『パッション20 今みておきたい工芸の想い』は同館が所蔵する明治期以降の収蔵品から名品約150点を見せるもの。「瞬間、フラッシュが焚かれたみたいだった」「人形は、人形である」といったキーフレーズを掲げ、5章に分けて構成する。
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展示を見ていくと“工芸”の幅の広さに驚かされる。たとえば小名木陽一《赤い手ぶくろ》は、人の背丈ほどもある大きさなのだ。制作にはロープや裂いた布を使い、小名木が独自に開発した立体織という高度な手法が使われているのだが、この大きさになるとほとんど現代美術である。
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大正時代~昭和初期はアール・デコやアール・ヌーヴォーといった潮流の影響も受けつつ、新しい時代の“モダン”を模索していた時期だ。内藤春治《壁面への時計》はこの時代の作品のひとつ。こんな時計が似合う部屋に住みたいと思ってしまう。杉浦非水のポスターは1927年に現・東京メトロ銀座線の上野~浅草駅間が開通したときのもの。電車を待つ人のファッションもモダンだ。
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「オブジェ焼き」というキーフレーズのコーナーには、1948年に京都で結成された前衛陶芸集団「走泥社」の八木一夫や鈴木治らの作品が並ぶ。哲学を感じさせるもの、人や動物の動きや形を高度に抽象化したものなど、陶の新たな表現を切り開いた作家たちの熱が伝わってくる。
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もっとも身近なモチーフである人体は古くから絵画や彫刻で表現されてきた。ハンス・ベルメールの球体関節人形に影響を受けた四谷シモンの作品は、自らの腹を開いて内臓をあらわにしている。これもまた工芸なのだ。
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展覧会は3月8日までの開催になる。そのあとの建物の用途はまだ決まっていない。気軽に展示や建物を見られる機会はこれが最後になるかもしれないのだ。金沢の〈国立工芸館〉も楽しみだけれど、まずはこのレンガの建物を心残りのないようにじっくりと見ておこう。
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