January 1, 2020 | Architecture | casabrutus.com
スペインの〈バルセロナ海洋博物館〉で、ミース・ファン・デル・ローエ財団とのコラボによる、ヨーロッパのウォーターフロントに建つ優れた現代建築を集めた展示が開催中。
海辺、そして川岸に建つ建築といえば、かつては港や工業のための建築など実利インフラ的なものが中心だったが、特に20世紀後半から21世紀にかけて「水辺」という立地の贅沢さ、眺めの美しさ、気持ちの良さがレクリエーションとして不動産価値を大きく高め、都市の景観を徐々に変化させていった。この展示の会場都市であるバルセロナも、1992年のオリンピック開催まではビーチが無く、現在あるものはすべて人工砂浜である。海辺はいわば街の「裏面」として捉えられていたというから、その変化には驚くばかりだ。
この建築展は、ミース・ファン・デル・ローエ財団が主催するヨーロッパ現代建築賞(ミース賞)の30年におよぶ受賞作品の中から水辺をテーマとした作品を集めたものである。海と都市をダイレクトにつなぐランドスケープ建築として名作となったスノヘッタ設計の〈オスロ・オペラハウス〉(2009年大賞)やラファエル・モネオの傑作〈クルサール・センター〉(2001年大賞)、湖畔に並ぶ集合住宅、ノイトリング・リーダイクの〈スフィンクス〉(2005年ショートリスト選出)、BIGのビャルケ・インゲルスが、かつてジュリアン・デ・スメドと共に〈PLOT〉というユニット名でコペンハーゲンに建てた〈マリティム・ユース・ハウス〉(2005年ショートリスト選出)などは、水と建築の親密な関係が分かりやすい事例だ。
またOMAの〈デ・ロッテルダム〉(2015年ショートリスト)やドミニク・ペローの〈フランス国会図書館〉(1996年大賞)なども、川辺という立地と眺望、そして対岸からそれらの建築を眺められるというイメージなくしては成立しえない建築であり、都市において水辺に建つ建築というのは実は高層建築に負けないほど、街の顔や印象をつくる重要な存在だと言えることにあらためて気づかされる。
他にもMVRDVやシザ、フォスター、ヌーヴェル、チッパーフィールド、EMBT、ラカトン&ヴァッサル、FOAからオラファー・エリアソンに至るまで錚々たる建築家、アーティストたちの代表作品が並ぶが、この展覧会を「ヨーロッパ建築最高峰作品の水辺セレクション」という以上におすすめしたい最大のポイントは、ミース財団所有の模型が多数展示されていることだろう。優れた建築作品が「結果」として称賛されているだけではなく、設計時に建築家たちが考えていた「もっとも純粋なコンセプト」が模型という形で添えられ、削ぎ落とされたシンプルな形態として、水の関係性と共に言葉抜きで語られている。それらの作品が現在多くの市民や人々に愛されているいることを知った上で、建築家たちの純粋な想像力に思いを馳せる楽しみというのは、実はなかなか味わえないものなのではないだろうか。
会場となった〈バルセロナ海洋博物館〉は、かつては浜辺に建つ造船所(最も古い部分は12世紀に建造された)だったものが改装された、古く美しい名建築である。バルセロナを訪れる建築ファンはぜひこの展示を見逃さないで欲しい。