June 29, 2016 | Architecture | casabrutus.com | photo_Junpei Kato
text_Naoko Aono
editor_Keiko Kusano
のんびりした街に巨大な坊主頭が出現! あちこちに不思議な“縄文建築”を建てている藤森照信がまたまたやってくれました。中身は今や貴重なモザイクタイルを展示する〈多治見市モザイクタイルミュージアム〉。さっそく行ってみたのでレポートです。
こんもり盛り上がった小山のような〈モザイクタイルミュージアム〉。子供たちの社会見学にも使われている。
ゆるやかなすり鉢状の敷地に建つ〈多治見市モザイクタイルミュージアム〉。多治見市はタイルややきもので知られるが、エリアによって作られるものに違いがあり、このミュージアムがある笠原町はモザイクタイルで有名だ。モザイクタイルとは表面積が50平方センチメートル以下の小さなタイルのこと。細かいカーブに合わせて貼れるため、水回りなどに多用されていたが、ライフスタイルが変化したためか、次第に生産量が少なくなってしまった。このミュージアムは1995年ごろから町の有志が集めていたモザイクタイルのコレクションをもとに、2011年ごろに建築史家でもある藤森照信に設計を依頼したもの。それから約5年、2016年6月についにその姿を現したのだ。
メルヘンな入口。ファサードにはタイルや茶碗のかけらがはめ込まれていて、きらきらと光る。近所の工場などから譲ってもらったものだそう。
坊主頭のような外観は、タイルの原料になる粘土を切り出す採土場を模したもの。上に毛、ではなく木がちょぼちょぼ生えている。実際に採土場では粘土を掘り出した崖の上に、こんなふうに木が並んでいる光景がよく見られるのだそう。ファサードには茶碗のかけらなどが埋め込まれている。
土壁がうねる階段。山の中のトンネルを上っていくような気分です。
土の山に開いたドアのようなエントランスから中に入って受け付けを通ったら、まず階段で4階に上ろう。登り窯か、暗いトンネルのような大階段を上り切ると、いきなり真っ白な空間に。この4階は藤森照信がキュレーションした、モザイクタイルの展示室だ。
4階は藤森照信が全国のモザイクタイル使用例からセレクトしたものが並ぶ展示室。小石のようなタイルを敷き詰めた流し、1枚のタイルに模様がついた絵タイルなど、バリエーションも豊富。
笠原町の住宅や工場、全国の銭湯・旅館などから集めてきた絵付きタイルやモザイクタイルが展示されている。実際に使われていたと思われる豪華な絵付きのトイレ、おばあちゃんの家にあったような小さな風呂桶や台所の流し、富士山を描いた銭湯のタイル絵などが並ぶ。なぜかマリリン・モンローのモザイクタイル絵もある。
天井の穴にはモザイクタイルの“カーテン”がかかる。
「モザイクタイルのメーカーさんが色数の豊富な自社製品のアピールのためにつくったものです」と学芸員の村山閑さんが教えてくれる。最上階のこのフロアでは屋根に丸い穴が開いていて、晴れるととても明るい。もちろん雨も入ってくるけれど、展示物は耐水性のあるタイルなので無問題だ。
タイルを造る昔の機械。右のハンドプレス機で成形し、「ふね」と呼ばれる中央のバスタブのような容器の中で、手作業で釉薬をかける。
3階はモザイクタイルの製造や販売の歴史をたどるコーナー。土を練って、プレスして、釉薬を掛けて焼く、というプロセスが一通りわかる。
モザイクタイルはこうして「貼り板」と呼ばれる木の枠にはめ、上に紙を貼って出荷された。施工現場では紙貼りの状態のままタイルをモルタルや接着剤などで下地に接着、乾いたら紙をぬらしながら
剥がす。自分でもやってみたくなる工程だ。
ここにも昔の住宅で使われていたモザイクタイルの壁などが展示されていて、もとのユーザー(その家の住人)が懐かしんでいたりする。モザイクタイルを厚紙に貼り付けた見本帳も。ずっしりと重いこの見本台紙を鞄に詰め、注文をとりに全国を旅していたのだ。
3階ギャラリーで8月28日まで開催中の「Echoes Infinity −永遠なる物語− 大巻伸嗣」展会場風景。ワークショップと滞在制作による作品がもとになっている。
3階にはギャラリーもあり、年に数回程度、企画展示が行われる。8月28日までは開館記念企画として大巻伸嗣の個展が開催中だ。町の人とワークショップを行い、思い出のある服や布などを持ってきてもらって、それについて語ってもらった。大巻は語られた言葉をモザイクタイルのようにつないで、その言葉と思い出の品のイメージを使って立体作品を作っている。会場では観客がさらに新しい物語を展開できるような仕掛けも。大巻のモザイクタイルに対する解釈が作品化されている。
今使えるモザイクタイルの見本が並ぶ2階。コンシェルジュが価格や施工などの相談に乗ってくれる。
さて、これだけモザイクタイルを見ると、自分の家にもモザイクタイルを使いたい! という気持ちになってくるはず。2階はモザイクタイルを始め、タイルの最新情報がわかるフロアになっている。今注文できるタイルの見本のほか、コンシェルジュもいて、タイルの施工などの相談に乗ってくれるのだ。もちろん、見本だけ見ていても楽しい。
モザイクタイルにびっしり覆われた車。
改修の予定がなくても1階のショップは必見だ。古い茶碗などの模様をアレンジしたタイルや、金魚の形の小さなタイルなどが並ぶ。隣にある工房ではショップで購入した丸やハート、六角形などさまざまな形や色のモザイクタイルとコースターなどの型を使って、オリジナルのモザイクタイルグッズが作れる。上から下まで、モザイクタイルの楽しさにどっぷり浸かれます。
1階のショップでは使える・作れるモザイクタイルグッズを販売。写真は海や川に打ち上げられた昔の陶片の模様をタイルにしたもの。1,500円。
〈モザイクタイルミュージアム〉
岐阜県多治見市笠原町2082-5 TEL 0572 43 5101。月曜休。9時〜17時。300円。公式サイト