July 26, 2019 | Architecture | casabrutus.com
毎年、注目の建築家が手がけるロンドンの夏の風物詩、〈サーペンタインギャラリー〉建築パビリオン。今年設計を担当した建築家・石上純也に話を聞きました。
ハイドパークとつながった公園、ケンジントンガーデンズ内にある現代アートの展示で有名なロンドンの〈サーペンタインギャラリー〉。毎年、建築パビリオンが登場することも楽しみの一つだ。日本人建築家としては、石上が4人目になる。
── そろそろ石上さんの番では?と思ってました。おめでとうございます。今回の作品の出発点は?
サーペンタインギャラリーは大きな公園の中にあるので、建築をランドスケープの一部として捉えたい、というところから考え始めました。
── 一番表現したかったことは?
ランドスケープとして建築を考えた時に、それはどういうことか?と突き詰めたところ、古い建築に行き着きました。古い建築技術には世界のどこでも似かよったところがあります。たとえば、石で葺いた屋根というのは、日本や中国などアジアの国にもあれば、ヨーロッパにもあります。こうした共通点があることがところが面白いなと思ったんです。さらにどうしてか? と考えてみると、古い建築技術というのは、そこにあるランドスケープのあり方や素材を単純な方法で建築に置き換えている。だから、場所は違えど共通したものがあるのではないかと。今回、ランドスケープとしての建築を表現するなら、古い技術を使って表現したいと考えました。
── 今回、イギリスでも古くから使われているスレートが屋根の素材に使われています。
そうですね。それを通常はきっちり並べるわけですが、自然なランダム性を取り入れたかった。とは言っても実際には自然にランダムになるわけではないので、こういう風に並べてほしいというサンプルを用意して、それに倣って「ちゃんとランダムに」並べてもらったわけです。そこが一番むずかしいところでした。
── 石の重さが61トンもあるとのことですが、それに支えるのが細い柱、という対比も不思議な感じです。
この作品に限らず、建築を作るときに構造システムができるだけ見えないようなものにしたいという思いがあります。どうやってできているか、ある程度わからないようにしたいんです。今回、ランドスケープのようなものを目指したわけですが、壮大な自然のシステムには、人が認識することも解き明かすことのできない面があります。そこに自然への畏怖であるとか、ミステリアスな魅力を感じたりします。そういうものを建築の雰囲気に取り込みたいので、構造もある程度、ミステリアスにしたかった。これだけ重い屋根をどうやってこの細い柱で支えているのか、すぐには解らないかと思います。梁もなぜこんなに細いもので成り立っているのか、と。構造を消すようにして考えていくのに興味があります。
── ますます構造についても知りたいです!
ほぼテンション構造になってまして、簡単に言えばテントのようなものです。梁に見える部分が少したわんでますが、これは屋根の重さでそうなっているのではなく、わざと少し歪ませることで張力を持たせている。メッシュの部分とともにコーナーのところに引っ張っているんです。なので、柱自体は水平荷重を受けず、細くても成立します。
── パビリオンの内観は?
中では石の重さが感じられないような、外のと一体感を感じて欲しいと思います。床はコンクリートを打ってから磨きをかけたものですが、思ってたよりラフに仕上がってて、それが逆にいい感じかなと。日本だともっとキレイに仕上がってしまうので。またこの部分は池のようなイメージでもあり、そこに鳥が羽を休めるということで、蓮の葉の形のテーブルとスツールもデザインしました。
── 全体的には思い描いたものが表現できましたか?
ランドスケープの一部となる石の丘のようなものを表現したかったわけですが、人は自然の風景を見ていろいろ想像を膨らませると思うんです。雲の形から動物を想像したりとか。このパビリオンもそうあって欲しいと思っています。背後にあるサーペンタイン本館の屋根もスレート材なので、それが山のように見えたりとか。または、パビリオンが黒い鳥が翼を広げているようにも見えるかもしれず、そうなると屋根のスレートは羽毛に見えてきます。ロンドンの雨空を飛ぶ黒い鳥ということで、中の細い柱は雨にも見えてくるかもしれません。
── 毎年、会期後には買い取られてどこかに移築されます。
まだ移築先は決まっていませんが、そのこともあって世界のどこに移築されてもランドスケープの一部になるようなものをと考えました。地域性があり、かつ世界共通なものとして、古い建築に出発点を求めたわけです。自由に想像力を膨らませて楽しんでいただけたら、と思います。