May 1, 2019 | Fashion, Architecture | casabrutus.com
表参道ヒルズに誕生したマルニの旗艦店。コレクション会場やミラノ・サローネのインスタレーションでも注目を集めるフランチェスコ・リッソが創り出した新しいマルニの店舗デザインとは?
デザイナー交代が相次ぎ、ブランドのアイデンティティが問われる今のファッション界において、マルニを引き継いだフランチェスコ・リッソはその成功例のひとりだろう。マルニのクリエイティブ・ディレクターに就任して約2年半、ブランドの世界観を受け継ぎ、進化させる彼は、東京・表参道にマルニの世界最大級となる旗艦店をオープンした。
表参道ヒルズに誕生した〈マルニ 表参道〉は、ユニークな空間だ。横長の店舗には、導線に沿って5つの部屋が配置され、各部屋は階段でつながっている。奥に進むに連れ空間は狭くなると同時に親密さを増し、途中には秘密部屋のような空間も現れる。店舗デザインは「日本庭園」にインスパイアされたというフランチェスコに話を聞いた。
――日本で新旗艦店をオープンするにあたり、「日本庭園」をモチーフとしたのはなぜでしょう?
フィレンツェやパリなどで、その都市の個性を反映したストアを作ってきました。日本庭園のアイデアはごく自然に思いついたものです。私は庭を訪れると安らぎとともにデザインを見出します。平穏さとデザインが結びついていて、この感覚を店に持ち込むべきだと思いました。日本庭園はとてもよく考えられてデザインされています。店内に多く用いた曲線やレイヤリングのアイデアはそこから得ました。カーペットとコンクリートで構成した床は、石庭の波紋をイメージしています。
――特に参考にした日本の庭はありますか?
ひとつだけではありません。庭や花のイメージをたくさん集めて、ディテールを調べました。日本庭園だけでなく、50年代のデザインからもヒントを得ています、50年代において、丸みを帯びたデザインは美であり静けさの象徴でした。コレクションもそうですが、私たちの物語は、常に異なる要素がぶつかり合い、それらを結び付け、レイヤーにすることから生まれるのです。
――日本の伝統的な要素だけでなく、現代の東京からヒントを得た部分もあるのでしょうか?
東京を訪れるたびに、その非論理的な創造力にいつも魅了されます。この店舗用にリサイクル木材とガラス、スチール、樹脂、そしてスポンジを組み合わせた什器をデザインしましたが、60年代後半から70年代にかけて建てられた東京の実験的な建物がイメージソースになっています。ここは実験的な店舗で、マネキンも初めて置きました。マルニでは店舗にマネキンをディスプレイで使用したことはなかったんです。初めて作ったマルニのマネキンは、ギリシャ彫刻からインスパイアされたものですが、布で包むことでソフトスカルプチャーのように見せています。今シーズンのコレクションにも通じる考え方で、いかにクラシシズムを再解釈するかがテーマです。
――オンラインショッピングが隆盛を極める中で、旗艦店が果たす役割をどのようなものだと考えますか?
オンラインショッピングと店舗では、アプローチが異なります。オンラインはアイテムを“見る”もので、店舗ではマルニというブランドを”経験する”ことができます。僕の夢は、いつか工場見学をするように、全てのプロセスが見えるお店を作ること。デザインから、制作、販売の過程まで全てを体験できれば、それはオンラインでただアイテムを見て、買う行為よりも、はるかに人を惹きつけるのではないでしょうか?
ーデザイナーとして既存のブランドを引き継ぎ、進化させていく上で、大事なことはなんだと思いますか?
そのブランドを愛することですね。マルニにやってきた当時よりも、コンスエロが作ったものや考え方をさらに愛するようになりました。もちろん私はコンスエロではありませんし、自分のアイデンティティもあります。自分自身の過去や考え方も踏まえた上で、毎日そこから始めます。今や、マルニというブランドが自分自身の一部になったようにも思えるほどです。ブランドとのつながりを感じられるからこそ、情熱を持って新しいものを生み出すことができるのです。