April 30, 2019 | Architecture, Design, Fashion, Food | casabrutus.com
内装や家具を含む建物すべてを〈nendo〉が手がけた〈KASHIYAMA DAIKANYAMA〉が、代官山に誕生。B1から最上階まで、随所に隠されたディティールを読み解く館内ツアー、佐藤オオキ本人による案内のもとお届けします!
〈オンワード樫山〉による商業施設〈KASHIYAMA DAIKANYAMA〉が、4月2日に代官山にオープン。〈SUGALABO〉主宰の須賀洋介とシェフパティシエの成田一世が監修するカフェやレストラン、〈KENZO〉のクリエイティブディレクターを務めるキャロル・リムとウンベルト・レオンがキュレーションを行うアパレルなどを擁する、複合施設になっている。
建物から内装、家具まですべてのデザイン・監修は、佐藤オオキ率いる〈nendo〉が手がけた。まず目を引かれるのは、施設全体の独特な構造。佐藤さん、このかたちはどんな風に導き出したものなんですか?
佐藤 “小さな丘”のようなものを作りたいと考えたんです。本来はもっと容積を大きく構えて、上の方をオフィスにして、下の方を飲食店に貸して…というのが、スタンダードな商業施設です。けれど、そうすると施設としてどうしても雛形に収まってしまうし、できればもっと近隣に溶け込むようなものにしたかった。そう考えたときに出てきたのが、ひとつひとつが“小箱”のような構造が、部分的に重なり合いながら丘のような全体をなす、今のかたちです。
容積を抑えたために圧迫感がなくなり、また通りに対して全面的に開かれたガラス張りのファサード、豊かに施された植栽などが、通りがかりの人々に親密な印象を与える。施設へのアプローチは、3通り。B1のカフェへと下っていく幅の広い階段と、建物向かって左脇から館内1Fロビーへとつづく小道。そして、1Fから2F、2Fから3F…と外のテラスを登っていく階段。はっきりとした正面玄関は設けられておらず、先の3通りのアプローチから施設に足を踏み入れると、気がつけば建物の外から中へ、あるいは、中から外へと、自然と回遊していく動線が生まれる。
佐藤 “中と外をできるだけ近づける”ということは、一貫して考えていた点です。箱をずらして重ねていくと、一つの小箱の外壁が別の小箱の内部へと入り込んでいき、入れ子状になる。そうした全体の構造もそうですし、細かい部分でも、外のテラスで使っているオリジナルの黒い手すりを館内の什器のデザインとして活かすなど、“中”と“外”とがかみ合って、じんわりと繋がるような感覚を、各所で意図してデザインしました。
“什器や照明のデザインに手すりを活かす”。こうした細かなルールが、館内各所のディティールを定めていく。小箱と小箱とが“重なる”の部分の仕上げは、重要なルールのひとつだ。
佐藤 例えば、ひとつの小箱の床材が黒っぽい砂利で、もうひとつの小箱が白っぽい砂利ならば、それらの小箱の重なった部分の床材は、黒と白の砂利を混ぜてしまう。そんな風にして、箱型の重なり構造を、内部のディティールにまで反映させているんです。職人さんには、鬱陶しがられたと思います(笑)。
・1F ロビー/ギャラリースペース
小箱から小箱へ、素材から素材へと歩いて渡っていく楽しみは、2F、3Fのショップスペースにも。2Fではモルタルとファブリックが、3Fでは大理石とガラスが、各所で重なりながら、統一感のある空間を生み出す。また、思わぬ場所で外光の差し込む開口部が見つかるのも印象的だ。
佐藤 小箱同士のズレによって、いろんな場所に隙間が生まれました。極端に狭くなる場所もあって、そんなアンバランスな感じが面白いんですが、一歩間違えると、閉塞感が出てきてしまう。そのバランスを、繰り返しシミュレーションしながら作っていきました。あっちこっちに抜けができていて、ふと外に目が向く瞬間があると思います。
・2F マーケット
・3F マーケット
そして、4Fには〈SUGALABO〉の須賀陽介が監修するフレンチレストラン〈COTEAU.(コトー)〉が。ここでも“テラスの手すり”のルールや、“小箱の外壁を別の小箱の内部に入り込ませる”ルールなど、他の階との連続性を保ちながら、一方で、佐藤が「一緒に設計したような感覚です」と語るように、須賀のこだわりも随所に活かされている。
佐藤 須賀さんは、厨房の作りはもちろん、カウンターの奥行き、ライティングなど、全てご自分でチェックされる方でした。B1Fカフェの監修をしているパティシエの成田さんもそうですが、須賀さんを含め、同世代でこうして一緒に作ることができたことは、すごく面白かったです。
・4F レストラン & 5F バー
各階のショップ、カフェ、レストランは、いずれもブランド名や店名が大きく掲げられているわけではない。建物の持つ独特の構造やディティールに導かれながらフロアからフロアへと歩みを進め、その過程でお気に入りのアイテムを発見していく喜びに、満ち満ちている施設だ。
佐藤 天理駅前広場〈CoFuFun〉やバンコクの〈サイアム・ディスカバリー〉をやらせていただいた時にも感じたことですが、“人が集う”ということが、ひとつのキーワードだと思うんです。オンラインでサクサク買い物ができる今の時代において、体感できること、不意に何かに出会うこと、そしてそれらを生むような“作り”というのが、すごく大事になるのかなっていう気がしています。〈オンワード樫山〉は、実はパリやロンドンで飲食店をやっていたり、エンターテインメント系にもスポンサードしていたりだとか、幅広くライフスタイルに対して発信や貢献をしている。そういったところをちゃんと見てもらえるような場所になったらと思います。