November 30, 2018 | Art, Architecture | casabrutus.com
安藤忠雄の建築 vs 篠山紀信の写真。どちらが勝つのか見当もつかない戦いが、山梨県・北杜市の〈清春芸術村〉で繰り広げられています。ストイックで硬質な安藤の空間に挑んだ、篠山紀信の“情事”写真の全貌をレポート!
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〈清春芸術村〉は南アルプスを間近に、遠くには富士山も見える地に開かれた、芸術家のための理想の村と言える場所。1977年、創設者の吉井長三が小林秀雄、白州正子、谷口吉郎らとともにこの地を訪れたのを機に建設が始まった。以来およそ40年の間にさまざまな建物が作られてきた。樹齢80年あまりの桜の木に囲まれた敷地にはギュスターヴ・エッフェルの設計図をもとに造られたアーティスト・イン・レジデンスのための建物〈ラ・リューシュ〉や谷口吉生が設計した〈清春白樺美術館〉〈ルオー礼拝堂〉、藤森照信設計のツリーハウス状の茶室〈徹〉などが点在する。さらに敷地に隣接して、杉本博司・榊田倫之・新素材研究所設計のレストラン〈素透撫〉(すとうぶ)がある。
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篠山紀信の個展『光の情事』が開かれているのは安藤忠雄が設計した〈光の美術館〉。スペインの画家、アントニ・クラーベの個人美術館として建てられた。クラーベはピカソの後継とも謳われた天才画家。彼が人工照明を使わず自然光のみで描いたことに敬意を払い、安藤は展示室には一切、人工照明を使わない美術館を設計した。切りとられた角や天窓、壁の細いスリット状の窓からの光だけが作品を照らし出す。
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この特別な空間に篠山はヌードモデルやマネキンを配して写真を撮った。彼もまた二人の巨匠へのリスペクトとして、人工照明を使わずに撮影している。天窓から入る鋭い光やカウンターに反射するわずかな光が肉体を照らし出す。基本的に撮った写真はその場所で展示されている。1階で撮ったものは1階に、2階で撮ったものは2階に、といった具合だ。
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『光の情事』という展覧会タイトルについて篠山は言う。
「この建物では空間に光が入る、その空間と光だけでも情事みたいな妖しい関係なんです。そこに作品を並べると光によって見え方が変わって、より色っぽく見える。『情事』というのはモデルさんとの、光との、空間との情事なんです」
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篠山は一昨年、原美術館でも同様の個展を行った。原美術館は渡辺仁が設計した邸宅を磯崎新の監修で改修したもの。そのときはカラー写真だったが、今回はモノクロだ。
「光がダイナミックに入ってくる、それ自身がエロティック。その光と影のコントラストをはっきりさせたいと思った」
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「鋭利で強い建築です。小さい空間の中にこれだけのデザインと緊張感が込められているのに驚く。ムダな場所やダレているところが全くないから、どこでも写真が撮れる。死んだ場所があると作品が生きないから、こういう要素は美術館には特に必要なんです」
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撮影はよく晴れた夏の日だった。
「曇りだと見え方が全然違うはず。僕は、写真は一期一会だと思っているから晴れるまで待つ、といったことはしない。その日、そのときの天気を大切にしたい。〈光の美術館〉での撮影では天窓から差し込む光がどんどん動いていくのが面白かった。以前、土門拳さんと対談したときに『篠山くん、仏像は走ってるんだよ』と言われたのを思い出しました。床に反射する光は刻々と変わっていくから。だとすると、このANDO建築なんか超特急ってことになる(笑)」
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館内では実際にシャープな光があっという間に動いていくのがわかる。写真家は細かいステップを踏んでジャブを繰り出すボクサーのように、その動きに瞬時に反応していかなくてはならないのだ。
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2019年には、この〈光の美術館〉で杉本博司の個展を予定している。また〈素透撫〉の奥に杉本博司・榊田倫之・新素材研究所が設計する新築のゲストハウスが完成する予定だ。こちらの宿泊について詳細は決まっていないが、〈光の美術館〉で行われる建築家vs写真家の新たな戦いが楽しみだ。