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土田貴宏の東京デザインジャーナル|ミラノのデザイン週間で出会った印刷物ベスト5

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June 11, 2016 | Design, Architecture | casabrutus.com | photo & movie_Keiko Nakajima text_Takahiro Tsuchida editor_Keiko Kusano

ミラノサローネを中心とするミラノデザインウィークは、毎年4月に行われるデザイン界の世界的な恒例行事。その数々の展示会場で入手した膨大なカタログや冊子から、特にクオリティの高いものをピックアップ!

ノルウェーのクリエイターが多数かかわった『Structure』展の出品作のカード。
ミラノデザインウィークでは、世界中のメーカーやデザイナーなどがイタリアのミラノ市内で無数の展示を行う。家具をはじめとするプロダクトやインスタレーションが注目される一方、出展者がそれぞれに配布する印刷物にも魅力あふれるものが多い。そこで今年、現地で入手したものから特に印象的だった5点を選んでみた。

ノルウェーの新世代のクラフト作家やデザイナーの作品を紹介したグループ展『Structure』のパンフレット。判型はA3版と大きめで、表紙はサイズの違う紙を綴じて変化をつけてある。最近のノルウェーはシンプルさと実験性のバランスが絶妙な作り手の層が厚く、国外でも活躍の場を広げつつある。このパンフレットは洗練されたスタイリングと写真で彼らの作風を際立たせ、現代の空気を巧みにつかんだ。
『Structure』展のパンフレット。グラフィックデザインを担当したのはノルウェーのBielke&Yang。
アイテムのスタイリングはKrakvik & D’Orazioで、ふたりは展覧会のキュレーターであり、展示空間のデザインもトータルに担当。色使いがきわめて巧みで、さりげない程度にファッショナブル、そして余白の使い方がうまい。彼らを含めエキシビションの制作陣は基本的にノルウェー人で、この国のクリエイションのレベルの高さを伝える。
『Structure』誌面。スタイリングはKrakvik & D’Orazio、写真はSiren Lauvdal。いずれもノルウェーを拠点とする。
『Structure』展の展示風景。ミラノ市内のヴェントゥーラ・ランブラーテで開催されて好評を得た。 photos by Lasse Fløde
世界的に評価の高いデザイン専門誌『Disegno』による『THE SPECTRE OF MILAN』表紙。革新的なデザインが集まる『Atelier Clerici』展などで配布された。
2011年創刊のイギリスのデザイン誌で、年2回の発行が今号から季刊になった『Disegno』。これまでもミラノデザインウィークに合わせてトークイベントなどを行ってきたが、今年はタブロイド風の冊子『THE SPECTRE OF MILAN』を配布した。

一流のデザイナーたちがミラノについての私的な思いや記憶を語る内容で、アレッサンドロ・メンディーニ、パトリシア・ウルキオラ、ジャスパー・モリソン、コンスタンティン・グルチッチ、佐藤オオキ、ハイメ・アジョン、ヘラ・ヨンゲリウス、パオラ・アントネッリなど豪華な面々が参加。内容は贅沢だが、誌面構成はしみじみとしていて渋い。

写真は新たに『Disegno』のクリエイティブディレクターに就いたフロリアン・ベーム、グラフィックデザインは彼のスタジオが担当。“デザインの祭典”というデザインウィークのイメージと一線を画して、デザインと街のつながりを冷静に見つめる視点に共感させられる。
『THE SPECTRE OF MILAN』誌面。ベテランデザイナーのナタリー・ドゥ・パスキエやアルメルド・メダも、往年のミラノの思い出を述べている。写真はアーティストでもあるフロリアン・ベームがタクシーの窓から撮影したミラノの街。
『MATTIAZZI IN NORTHERN ITALY』表紙。〈マティアッツィ〉のアートディレクターは、ミュンヘンのコンスタンティン・グルチッチのもとで経験を積んだニッツァン・コーエンと、Lambl/Homburgerのフロリアン・ランブル。この冊子にもドイツ人脈が生かされている。
イタリアの新興家具ブランド〈マティアッツィ〉が配布した冊子『MATTIAZZI IN NORTHERN ITALY』。このブランドの今年の新作《TRONCO》を含むロナン&エルワン・ブルレック、ジャスパー・モリソン、コンスタンティン・グルチッチらによる12種類の椅子を、ベネツィアなど北イタリアの4都市の1950~60年代の名建築を舞台に撮影している。建築の中にはカルロ・スカルパ作品も。
『MATTIAZZI IN NORTHERN ITALY』誌面。戦後イタリアで生まれた建築のモダンな空間に、コンテンポラリーな〈マティアッツィ〉の椅子が調和する。
イタリア北東部のウーディネで創業した〈マティアッツィ〉の家具が、それぞれの空間と調和した様子が美しいだけでなく、思想的にも通底しているようで興味深い。写真はコンスタンチン・グルチッチの作品も多く撮っているミュンヘンのGerhardt KellermannとFabian Frinzelが担当。グラフィックデザインを担当したベルリンのLambl/Homburgerは、ミラノサローネの〈マティアッツィ〉の展示構成も手がける。
サム・ヘクト/インダストリアル・ファシリティーによる新作椅子《TRONCO》。〈マティアッツィ〉の強みは、このような木の家具。
蛍光色の使い方が巧みな〈BAARS & BLOEMHOFF〉による『TRANSITIONS』展の冊子。上記は冊子を開いたところ。
〈BAARS & BLOEMHOFF〉は、インテリアや家具向けの化粧板などの素材を扱うオランダの企業。2500種類に及ぶ各国の主要な建材メーカーの製品をオランダで流通させている。『TRANSITIONS』展では、オランダの6組の若手デザイナーが、この会社が扱う素材を1つずつ選んでオリジナルの家具をデザインした。そのパンフレットは、1枚の紙をずらしながら蛇腹に折った形態がユニーク。6組のデザイナーの存在がひと目でわかり、見開きごとに作品、デザイナー、使用した素材についての解説を記載してある。目を引く蛍光色の使い方も巧み。簡素な印刷物だが、紙媒体のデザインの奥深さを再認識させられる出来栄えだ。
『TRANSITIONS』の表紙(両面ともに表紙)。1枚の紙を折り畳んだだけのコンパクトな冊子だが、インパクトがあり情報量もほどよい。参加デザイナーはディ・イントゥイティファブリーク、オス&オース、スタジオ・ミーケ・マイヤーなど6組。
左はミラノでの展示構成も手がけた3人組、ディ・イントゥイティファブリークの《SPATIAL》。右はレックス・ポットが〈BAARS & BLOEMHOFF〉の扱うイタリアのアベットラミナーティの化粧板を使った《CHROMA》。
『WE ARE SOCIAL ANIMAL』展の出品作をすべて収録したカタログ。
『WE ARE SOCIAL ANIMAL』は、20か国35組の新進デザイナーたちの新作を紹介したグループ展。デザインの社会的側面に着目しつつも、若手らしい荒削りな作品も多く変化に富んだエキシビションだった。エジプト、メキシコ、プエルトリコなどからの出展もあり、日本からは板坂愉のh220430はじめ4組が参加。カタログなど一連のグラフィックは、パリのデザインスタジオ、INOUIが担当。
『WE ARE SOCIAL ANIMAL』誌面。1ページで1デザイナーを紹介。ポップなイラストレーションがページの周囲を彩り、エキシビションの空気を伝える。紙は独特の立体感のあるものを使用。主催はパリのMeet My Project。
1980年代のポストモダニズムを連想させる、アニマルプリントからインスピレーションを得たというパターンや色使いと、各ページを構成する生活感のある写真がこの世代の好みを反映している。INOUIによる同様のイラストレーションは、会場のウィンドウも鮮やかに彩っていた。
左から時計回りに/SPREADがアートディレクターを務めた岐阜県の『CASA GIFU』のパンフレット、〈airbnb〉とアンブラ・メッダによるレストランのイベント『Makers+Bakers』のパンフレット、オランダ発の新しいオフィス家具〈Boring Collection〉のカタログ、デンマークの〈ヘイ〉が配布したビジュアルブック「HAY LIVING」、デンマークの新進ブランド〈karakter〉のカタログ、イタリアのコントラクト向け家具ブランド〈アルペール〉のプレスリリース、ストックホルムなどに拠点をもつインテリアブランド〈hem〉の新作家具のパンフレット。
近年のミラノデザインウィークは、開催前からWebやSNSを通してさまざまなニュースが飛び交い、かなりの情報戦が繰り広げられている。デジタル化された膨大な情報の中で、印刷物はリアルな手触りと凝縮感があり、直感に訴えかけるもの。こうしたものまでクオリティーが高く、出展者がデザインをトータルに考えて発信する様子は、ミラノデザインウィークの隠れた大きな見どころだ。

土田貴宏

つちだたかひろ デザインジャーナリスト、ライター。家具やインテリアを中心に、デザインについて雑誌などに執筆中。学校で教えたり、展示のディレクションをすることも。

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