写真は新たに『Disegno』のクリエイティブディレクターに就いたフロリアン・ベーム、グラフィックデザインは彼のスタジオが担当。“デザインの祭典”というデザインウィークのイメージと一線を画して、デザインと街のつながりを冷静に見つめる視点に共感させられる。
『THE SPECTRE OF MILAN』誌面。ベテランデザイナーのナタリー・ドゥ・パスキエやアルメルド・メダも、往年のミラノの思い出を述べている。写真はアーティストでもあるフロリアン・ベームがタクシーの窓から撮影したミラノの街。
『MATTIAZZI IN NORTHERN ITALY』表紙。〈マティアッツィ〉のアートディレクターは、ミュンヘンのコンスタンティン・グルチッチのもとで経験を積んだニッツァン・コーエンと、Lambl/Homburgerのフロリアン・ランブル。この冊子にもドイツ人脈が生かされている。
イタリアの新興家具ブランド〈マティアッツィ〉が配布した冊子『MATTIAZZI IN NORTHERN ITALY』。このブランドの今年の新作《TRONCO》を含むロナン&エルワン・ブルレック、ジャスパー・モリソン、コンスタンティン・グルチッチらによる12種類の椅子を、ベネツィアなど北イタリアの4都市の1950~60年代の名建築を舞台に撮影している。建築の中にはカルロ・スカルパ作品も。
『MATTIAZZI IN NORTHERN ITALY』誌面。戦後イタリアで生まれた建築のモダンな空間に、コンテンポラリーな〈マティアッツィ〉の椅子が調和する。
イタリア北東部のウーディネで創業した〈マティアッツィ〉の家具が、それぞれの空間と調和した様子が美しいだけでなく、思想的にも通底しているようで興味深い。写真はコンスタンチン・グルチッチの作品も多く撮っているミュンヘンのGerhardt KellermannとFabian Frinzelが担当。グラフィックデザインを担当したベルリンのLambl/Homburgerは、ミラノサローネの〈マティアッツィ〉の展示構成も手がける。
サム・ヘクト/インダストリアル・ファシリティーによる新作椅子《TRONCO》。〈マティアッツィ〉の強みは、このような木の家具。
蛍光色の使い方が巧みな〈BAARS & BLOEMHOFF〉による『TRANSITIONS』展の冊子。上記は冊子を開いたところ。
〈BAARS & BLOEMHOFF〉は、インテリアや家具向けの化粧板などの素材を扱うオランダの企業。2500種類に及ぶ各国の主要な建材メーカーの製品をオランダで流通させている。『TRANSITIONS』展では、オランダの6組の若手デザイナーが、この会社が扱う素材を1つずつ選んでオリジナルの家具をデザインした。そのパンフレットは、1枚の紙をずらしながら蛇腹に折った形態がユニーク。6組のデザイナーの存在がひと目でわかり、見開きごとに作品、デザイナー、使用した素材についての解説を記載してある。目を引く蛍光色の使い方も巧み。簡素な印刷物だが、紙媒体のデザインの奥深さを再認識させられる出来栄えだ。
『TRANSITIONS』の表紙(両面ともに表紙)。1枚の紙を折り畳んだだけのコンパクトな冊子だが、インパクトがあり情報量もほどよい。参加デザイナーはディ・イントゥイティファブリーク、オス&オース、スタジオ・ミーケ・マイヤーなど6組。
左はミラノでの展示構成も手がけた3人組、ディ・イントゥイティファブリークの《SPATIAL》。右はレックス・ポットが〈BAARS & BLOEMHOFF〉の扱うイタリアのアベットラミナーティの化粧板を使った《CHROMA》。
『WE ARE SOCIAL ANIMAL』展の出品作をすべて収録したカタログ。
『WE ARE SOCIAL ANIMAL』は、20か国35組の新進デザイナーたちの新作を紹介したグループ展。デザインの社会的側面に着目しつつも、若手らしい荒削りな作品も多く変化に富んだエキシビションだった。エジプト、メキシコ、プエルトリコなどからの出展もあり、日本からは板坂愉のh220430はじめ4組が参加。カタログなど一連のグラフィックは、パリのデザインスタジオ、INOUIが担当。
『WE ARE SOCIAL ANIMAL』誌面。1ページで1デザイナーを紹介。ポップなイラストレーションがページの周囲を彩り、エキシビションの空気を伝える。紙は独特の立体感のあるものを使用。主催はパリのMeet My Project。
1980年代のポストモダニズムを連想させる、アニマルプリントからインスピレーションを得たというパターンや色使いと、各ページを構成する生活感のある写真がこの世代の好みを反映している。INOUIによる同様のイラストレーションは、会場のウィンドウも鮮やかに彩っていた。
左から時計回りに/SPREADがアートディレクターを務めた岐阜県の『CASA GIFU』のパンフレット、〈airbnb〉とアンブラ・メッダによるレストランのイベント『Makers+Bakers』のパンフレット、オランダ発の新しいオフィス家具〈Boring Collection〉のカタログ、デンマークの〈ヘイ〉が配布したビジュアルブック「HAY LIVING」、デンマークの新進ブランド〈karakter〉のカタログ、イタリアのコントラクト向け家具ブランド〈アルペール〉のプレスリリース、ストックホルムなどに拠点をもつインテリアブランド〈hem〉の新作家具のパンフレット。
近年のミラノデザインウィークは、開催前からWebやSNSを通してさまざまなニュースが飛び交い、かなりの情報戦が繰り広げられている。デジタル化された膨大な情報の中で、印刷物はリアルな手触りと凝縮感があり、直感に訴えかけるもの。こうしたものまでクオリティーが高く、出展者がデザインをトータルに考えて発信する様子は、ミラノデザインウィークの隠れた大きな見どころだ。