June 28, 2018 | Art, Architecture, Travel | casabrutus.com | text_Megumi Yamashita
ロンドン在住のジャーナリストが旬のトピックをお届けする連載がスタート! 初回は〈サーペンタイン・ギャラリー〉による、毎年大注目の建築パビリオン、そして、それを上回る注目度のサーペンタイン湖に浮かぶ、クリスト&ジャンヌ=クロードの巨大アートについてレポートします。
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イギリス国内に実作品がない建築家の作品を「展示」する目的で始まった〈サーペンタイン・ギャラリー〉が主催する建築パビリオン。本館周辺に6月から10月まで仮設され、カフェや各種イベントを主催し、ロンドンの夏には欠かせない存在になっている。2000年のザハ・ハディドに始まり、日本からは伊東豊雄、SANAA、藤本壮介の作品も展示されてきた。18回目となる今年は、最年少にして3人目の女性となるメキシコのフリーダ・エスコベドの作品が登場した。
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「素材や歴史など、メキシコとイギリスの両方の要素を盛り込みました」と、メキシコによくある透かし壁を参考に、コンクリート製のイギリス産波形瓦を素材に選択。 瓦に空けた2つの穴を鉄のロッドに通し、編むようにして構築されている。インダストリアルな素材をあえて使い、床もダークなコンクリートだが、瓦の隙間から空の青や木々の緑が透けて見えるというエレガントなデザインだ。
天井はミラー仕上げのステンレス張り、床の一部には浅く水が張られ、これによって周囲の風景が複雑に映り出される。外壁はギャラリー本館と平行させながらが、内壁は少し斜めに、南北を結ぶライン上にある。グリニッジ標準時で知られるグリニッジ子午線がロンドンにあることと、移築されても同じ方角を向くように、という意図だという。
「光と陰の変化で、ここで過ごした時間も感じてほしい」とのことで、日時計のようなパビリオンでもある。中にはカフェカウンターがあり、9月21日までの金曜夜には、各種トークやコンサートなどが開催になる。
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サーペンタイン湖はギャラリーのすぐ北側にあり、少し歩けばドラム缶を7,506個積み上げたクリスト&ジャンヌ=クロードの《ザ・マスタバ》が見えてくる。蓋と底の部分は青、赤、ピンク、胴体は赤と白に塗装されたドラム缶が、きっちり台形型に積み位上げられて湖に浮かんでいる。湖の一部では遊泳もできるし、貸しボートですぐそばまで行くことができる。
建築や海岸線まで「梱包」してしまうという壮大な屋外プロジェクトで知られるクリスト&ジャンヌ=クロード。1935年の同日に生まれた二人は1958年に出会い、当初よりドラム缶を使った作品を発表してきた。「マスタバ」とはピラミッドの原型とされる古代エジプトの古墳のこと。ドラム缶を積み上げたシリーズの名前の由来になった。ジャンヌ=クロードは2009年に他界しているが、その後も作品は連名で発表されている。
オープニングに姿を現したクリストは、83歳にはとても見えなかった。
「一日16時間は立って仕事をしているし、仕事場にはエスカレーターもない。運転もできないし、電話も嫌い。わたしは具体的なものを見たい。今、アート界はバーチャルで目に見えないものが多すぎる。この作品では天気の変化など具体的なものを体験してほしい」
巨大インスタレーションと合わせ、建築パビリオンの奥にあるギャラリーでは、展覧会『クリスト&ジャンヌ=クロード:バレルズ&ザ・マスタバ 1958-2018』も開催中だ。壮大なプロジェクトであっても、彼らは資金援助を一切受けず、完成予想のドローイングやコラージュなどを売ることで資金調達する方針を通してきた。
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展示されている手描きのドローイングを間近でみると、クリストのドローイング技術の凄さがよくわかる。40年ほど交渉を続けているという、アラブ首長国連邦の砂漠に恒久的に作るという《ザ・マスタバ》は、ロンドンに登場したものの50倍ほど…! 41万個のドラム缶を使ったものになるらしい。実現する日はいつのことか? ロンドンの《ザ・マスタバ》も充分大きいので!
〈Serpentine Gallery〉
Kensington Gardens London W2 3XA UK TEL 44 20 7402 6075。10時〜18時。本館での展覧会は9月9日まで。建築パビリオンは10月7日まで。9月9までは無休、その後月曜休。入場無料。サーペンタイン湖に浮かぶ《ザ・マスタバ》は9月23日までの展示。![](http://casabrutus.com/wp-content/uploads/2018/06/yamashita240.jpg)