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素材から隈研吾の建築をひもとく個展がスタート!

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March 10, 2018 | Architecture, Design | casabrutus.com | text_Naoko Aono editor_Keiko Kusano

世界各地で多くのプロジェクトを進行中の隈研吾。彼の建築の多彩な表情は木や石、紙や土などの素材を巧みに使いこなすことで生まれます。

モバイル茶室《浮庵》(フアン)。ヘリウムガス入りの風船に世界最軽量と言われるスーパーオーガンザという布をかける。土台と風船を透明なワイヤーでつなぎ風船を安定させている。畳むとコンパクトに持ち運びできる。

「物質」「素材」から隈建築を探る展覧会、「くまのもの―隈研吾とささやく物質、かたる物質」展が始まった。開かれているのは、辰野金吾が設計した東京駅の中にある〈東京ステーションギャラリー〉。2012年に完了した東京駅の復原工事とともに移転してリニューアルされた。今回の展覧会は建築家個人の個展としてはリニューアル後、初めてのものだ。ギャラリー内部は創建当時のレンガがそのまま見えるところもある。

「東京駅は大先輩である辰野金吾が設計した大好きな場所。レンガの中に鉄骨を入れて補強した混構造の建物で『物質』をテーマに展覧会ができるのはうれしい」(隈研吾)

「竹」のコーナー。中央のうねる波のようなオブジェは《ナンチャンナンチャン》。今回は踏むことができないが、床を踏むと竹の先端が波のようにしなる。

会場に入ると、渋い竹の香りが漂ってくる。この展覧会は竹、木、石、ガラス、瓦など10の素材によってエリア分けされているのだが、最初のゾーンが竹のコーナーなのだ。このエリアで一番目立つ展示物は竹がビッグウェーブのようにしなる《ナンチャンナンチャン》。今回は歩くことはできないが、韓国で展示されたときは平らな部分を歩いて音が響くのを楽しむことができた。

「素材の形や表情などを見てもらうだけでなく、五感に訴えたいと考えました。それぞれの素材の持つ音を想像し、匂いを味わってもらえれば」(隈研吾)

《Great (Bamboo) Wall》(2002年)。万里の長城近くに作ったホテル。photo_Satoshi Asakawa

隈にとって、竹は転機になった材料のひとつだ。中国・北京の万里の長城近くに作ったホテル《Great (Bamboo) Wall》(2002年)は直径6センチの竹を同じく6センチの間隔で並べて壁にした。竹はそのままでは割れてしまうので、本来なら仕上げ材にしか使えない。そこで隈は節を抜き、竹の内部に鉄骨とコンクリートを充填して柱や梁として使えるようにした。立ち並ぶ竹の隙間から向こうの景色が見え隠れする様子は、御簾ごしに向こうの様子を垣間見るようだ。この《Great (Bamboo) Wall》は、隈が海外から注目を集めるきっかけのひとつになる。

《香柱》。竹ひごが畳の匂いに浸し、部屋中をその香りで満たす。竹ひごが密集しているところは香りが高く、まばらなところだと香りが薄くなる。素材の密度で香りの濃さが変わる空間。

次のコーナーの木も、隈の転機となった材料だ。2000年に完成した〈那珂川町馬頭広重美術館〉では屋根や壁が細い木材で覆い尽くされている。燃えやすい木を公共建築の外装に使うには注意が必要だ。ここでは宇都宮大学の安藤實氏が開発した、木に不燃処理を施す技術を使っている。細い木の線が並ぶ光景は広重の浮世絵に描かれる雨の表現を思わせる。

「木」の展示室。中央の《Coeda House》など、小さめの部材を大量に組み合わせることで多彩な形態を生み出していることがわかる。

〈新国立競技場〉でも軒裏には木を使う予定だ。

「観客の目の高さから見ると、ほとんどが木に埋め尽くされた印象になると思います。僕は木材の場合はできるだけ小さな形で作るようにしているんです。よく使うのは小径木と呼ばれる10センチ角前後の木材。このぐらいの小さな部材なら親近感もわくし、大がかりな機械がなくても人間の手で運んだり作ったり解体することができる。いわば建築の民主化ができるんです」(隈研吾)

隈が共同設計に携わる〈新国立競技場〉模型。観客はたくさんの木に囲まれて観戦することになる。
ステンレスのメッシュに土を吹き付けた《虫塚》の部材。左官職人、挟土秀平氏とのコラボレーションによるもの。接着剤などで土は固まっているけれど苔も生える。

そのままだとぽろぽろと崩れてしまうけれど、何かと混ぜたり焼いたりすると固まってしっかりと自立する土は隠れた実力者だ。隈の建築ではグリーンと相性のいい土も活躍する。虫好きの脳学者、養老孟司がこれまで標本などのために犠牲にしてきた虫を供養する《虫塚》では土にガラス繊維と接着剤を混ぜ、ステンレスのメッシュに吹き付けた。風雨にさらされるうちに土は次第に変色し、苔むしてまるで大地がそのまま浮き上がったようになるだろう。緑化した屋根の模型は細かい穴のあいた多孔質セラミックに植物を植えたもの。繊維染色の過程で出来上がるスラグ(鉱物成分を含む物質)を転用している。

〈ポートランド日本庭園 カルチュラル・ヴィレッジ〉の屋根の模型。多孔質の軽量セラミックパネルにグリーンを植えた。軽くてメンテナンスも簡単だ。

石のコーナーに展示されている〈ヴィクトリア&アルバート・ミュージアム ダンディ〉は今年9月に開館予定。隈が「自らの代表作としたい」と意気込むプロジェクトだ。コンクリートの表面を粗く掻き落とし、セメントに混ぜた小石や砂利などを剥き出しにしている。

「スコットランドの海を望む崖のようなテクスチャーを出したいと思いました」(隈研吾)

〈ヴィクトリア&アルバート・ミュージアム ダンディ〉(2018年)。イギリス、スコットランド北部のダンディにオープンするミュージアム。ロンドンの装飾芸術を収蔵・展示する美術館の分館。 photo_Ross Fraser McLean

韓国・済州島のプロジェクトでは、黒くて丸い火山岩で屋根を覆った。栃木県の〈石の美術館〉では既存の建物と同じ芦野石と、光を透過させる厚さ6ミリの大理石、レンガ用の窯で焼いて色を変えた芦野石を使ってファサードに表情をつけている。場所の“個性”はその土地の石によって決まる部分も大きい。隈の建築はその個性を尊重して作られる。隈はかつて『負ける建築』(岩波書店)という著書を発表した。建築は周囲を圧倒するものではなく、存在感が感じられないぐらいのものがちょうどいい、という考え方だ。いかにして周囲になじむ建築を作るか、彼の石の扱いにヒントがある。

〈中国美術学院民芸博物館〉のファサード。屋根をどっしりと覆うはずの瓦が空を飛んでいるような軽やかな光景。

会場には瓦が空を飛んでいるような模型が置かれている。〈中国美術学院民芸博物館〉のファサード部分だ。模型の瓦は日本製だが、隈は、本当は実物と同じく中国製の瓦を使いたかったのだという。色や寸法にむらがあるのが、かえって味が出ていいというのだ。瓦に限らず各国の技術には向き不向きがあるとも言う。彼によると日本なら木の技術は他国に引けを取らないし、アルミはフランス、石はイタリアの職人たちが秀でている。

「世界各地で仕事をする機会が増えたけれど、自分のスタイルを押しつけるのではなくその国の人たちから教わること、自分の知らなかったことを引き出して作るのが楽しい」(隈研吾)

「石」のコーナー。左はトラバーチンという石を使った〈ロータスハウス〉のファサード、右は〈ちょっ蔵広場〉の大谷石のスクリーン。

そんな各国の得意技術を使った作品の一つが、チェコのガラス職人とコラボレーションした照明器具だ。焼杉で作った型にガラスを流し込み、焼いた杉のでこぼこしたテクスチャーをそのままガラスに転写して作る。溶けたガラスも高温なので型は2回しかもたない。こんな話をする隈は実に楽しそうだ。職人へのリスペクトも伝わってくる。

焼杉を型にしたガラスのプロダクト《Yakisugi Collection》。チェコのガラスファクトリーとのコラボレーション。下にあるのが、焼杉の型。
右が空気を入れて膨らませる《Tea Haus》の模型、左は空気枕のようなユニットで空間が作れる《エアーブリック》。空気と膜という一見頼りない素材で安心感のある空間ができる。

展覧会の最後は「膜/繊維」のエリア。普段は畳んでおき、使うときに空気で膨らませる茶室や、透明な空気枕のようなものを組み合わせて空間を作る《エアーブリック》が展示されている。

「自分で建築を作れる、民主的な方法だと思います」(隈研吾)

《小松精練ファブリックラボラトリー fa-bo》の模型。カーボンファイバーの糸が建物の揺れを止める。見た目は軽やかだけれどしっかりと建築を守る。

建物全体が細い糸で覆われた〈小松精練ファブリックラボラトリー fa-bo〉では、カーボンファイバーを使った。鉄の7倍の引っ張り強度を持ち、軽くて柔らかい。建物をすだれのように覆う糸が耐震補強になるのだ。

「硬くて加工が難しい鉄などに代わって、21世紀の建築は洋服に近い気楽なものになる、と思うんです」(隈研吾)

吉祥寺・ハモニカ横丁の焼き鳥屋「てっちゃん」の内装に使った廃LANケーブル、通称「もじゃもじゃ」。カラフルな糸が適当に絡み合う様子は気軽な焼き鳥屋にふさわしい。

技術革新によって経済や人々の暮らし方が変化する、そのスピードが速くなってきた現代、その考え方は理にかなっている。隈は建築や素材の耐久性についても次のように考えている。

「ケースバイケースですが、一つはエイジングによって魅力が増すようにすること。たとえば木は雨や紫外線で次第にグレーに変色していきますが、それが味になることもある。僕たちは保護塗料に白い顔料を混ぜて最初から少しグレーがかった白にしています。こうすると自然にエイジングしていくから、ある日突然汚れてしまった、ということは避けられる」(隈研吾)

台湾の山中に計画された寺院〈TAO〉の模型。細い部材で優美な曲線を作る。

隈は、展覧会のカタログで「木は自分自身の枯れた死体を抱え込むことで、固く、強くなっていく」「石もしっかりと生きている」と書いている。社会が変化し、人が老いていくのと同じように建築も使われていくうちに年を重ね、成熟していく。10の素材に対する隈の考え方から、これからの建築のあり方が見えてくる。

折りたたむとコンパクトになる紙で空間を作り出す《青海波》。持ち運びが簡単、誰でも組み立てられるシンプルな仕組みでどこでも空間を作り出せる。
〈LVMH大阪〉の壁面。光が透過するほど薄くスライスされたオニキスという石が2枚のガラスに挟まれている。
《Water Branch House》で使ったプラスチック・タンク《Water Block》。水を入れて重石にするポリタンクからヒントを得た。中に水を入れて重さを調節でき、積み重ねると家具や家になる。災害時には水の貯蔵タンクにもなる。このエリアのみ、観客が作品を触ることができる。好きな形にして遊んでみよう。

くまのもの 隈研吾とささやく物質、かたる物質

〈東京ステーションギャラリー〉
東京都千代田区丸の内1-9−1
~5月6日。10時~18時(金曜は20時まで)。月曜休(4月30日は開館)。TEL03 3212 2485。1100円。 ※3月18日までの「東京駅周辺美術館学生無料ウィーク」の期間中、受付で学生証を提示すると入館料が無料になる。

隈研吾

1954年生まれ。東京大学建築学科大学院修了。1964年に丹下健三の〈代々木屋内競技場〉に衝撃を受け、建築家を志す。〈銀山温泉 藤屋〉〈浅草文化観光センター〉〈マルセイユ現代美術センター〉など20を超す国で公共建築、住宅、商業施設など幅広く手がける。現在、〈品川新駅〉(仮称)、設計に参画した〈新国立競技場〉などが進行中。

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