February 24, 2018 | Fashion, Architecture, Art, Design | casabrutus.com | interview & text_Mika Yoshida & David G. Imber (Scott Pask) editor_Jun Ishida
〈ボッテガ・ヴェネタ〉が初めてウィメンズ、メンズのコレクションをニューヨークで発表。トーマス・マイヤーの「建築への愛」を表したコレクションと、ショウ会場に登場した貴重なビンテージ家具で溢れたセットデザインについてスペシャル・リポート!
世界最大規模となるコンセプト・ストア〈ニューヨーク・メゾン〉のオープンを記念し、初めてニューヨーク・コレクションに参加した〈ボッテガ・ヴェネタ〉。《旧アメリカン証券取引所》を会場に、ウィメンズとメンズの2018年秋冬コレクションを発表した。
会場に足を踏み入れたゲストたちの目をひいたのは、そこに現れた巨大なリビングルームだ。〈ニューヨーク・メゾン〉に作られた「アパートメント」と呼ばれるホーム・コレクションをフィーチャーしたフロアを思わせるこのセットには、イタリアの60、70年代を中心としたビンテージ家具と〈ボッテガ・ヴェネタ〉のホーム・コレクションがミックスされ、置かれた。ショウが始まると、モデルはリビング内を1周し、セット内のソファや椅子に腰掛けてゆく。リラックスした彼らの様子は、さながらアップタウンの邸宅でホームパーティを楽しんでいるかのようだ。
「インスピレーションソースはニューヨークの建築」とクリエイティブ・ディレクターのトーマス・マイヤーが述べたコレクションは、モダンでグラフィカルな装飾が特徴。建築物から抽出したというキューブのモチーフがニットやコートにあしらわれ、巧みな色の組み合わせによってポップな印象を生み出す。「このモチーフはレンガのようなもので、基礎を作るために使っています」とトーマスは言う。
ほかにも、彼が愛する建築空間の一つである《シーグラムビル》内の伝説のレストラン《フォーシーズンズ》(現在は《ザ・グリル・ルーム》に改装)のボールチェーンカーテンや、ニューヨークの40年代の建築物のエレベーターに見られる装飾的なメタルワークにインスパイアされたディテールが随所に現れた。トーマス・マイヤーのニューヨーク、そしてこの街の建築物への愛に溢れたコレクションとなった。
次ページでは、ショー会場に優雅でモダンなリビングを出現させたトニー賞受賞のセットデザイナー、スコット・パスクへの独占インタビューを紹介。
セットデザイナー、スコット・パスクが語る演出秘話。
Q 今回のコラボレーションのきっかけは?
アリゾナ州ツーソンに私が建てた自邸がきっかけです。雑誌に掲載された写真がトーマスの目に止まり、電話をもらいました。セットデザイナーがデザインしたということが特に興味を惹いたようです。会って話を聞いたところ、これは面白い試みだなと思いました。トーマスはファッションのみならず、建築的な視点を備えた人物。相通じるものを覚えましたね。
Q トーマスとの仕事はどのように進みましたか?
〈ニューヨーク・メゾン〉をオープンし、そこにアパートメントという空間を設け、同じタイミングで今回のショーを催すという明確なビジョンが彼にはありました。ショウはステージ上と同等に「プロセス」も重要で、観客が会場に入った時の第一印象が次第にどう変容していくかがポイントでした。
本番前日もトーマスとステージを見ながらギリギリまで「もっと暗く、もっと暗く」と、照明を下げてゆきました。最初からすべて見えてしまうのではつまらない。人物や物事が次第に表出してくるのが、シアターの醍醐味です。トーマスは私にそうしたシアター的な思考を求めました。
Q いわばトーマスが演出家、というわけですね。
はい、そしてストーリーとは〈ボッテガ・ヴェネタ〉の美意識に則った「エレガントな暮らし」です。私自身、余剰をそぎ落とした住まい方を実践していますが、このセットも自宅を作るように家具や空間をキュレーションしました。書棚の本もすべて自分で置きたいものを選んでいます。
またNYらしい住まいとは、壁や余計なモノを取り払った、天井が高い広々とした空間です。あれこれ詰め込むとそれはホテルのロビーになってしまい、居住空間ではなくなります。
Q 家具のチョイスはどなたが?
トーマスのイメージは、ミッドセンチュリー以降に制作されたイタリアのアンティークでした。私の提案と、トーマス側で実際に入手できるものとをすり合わせながらリストを吟味していきました。
Q 特にポイントとなる家具は?
ジオ・ポンティのラウンジチェアですね。トーマスはこのラウンジチェアの色を基本に空間やアイテムのカラーを作り込もうと、プロジェクトの初期にアメリカへ運びこんだほどです。
またダイニングテーブルは、通常だと長いものを一脚据えるところを、モデルがより自然な動線で歩けるよう二脚置いてあります。天板はこのショーのため特別にあつらえました。手に入る限り最も”ワイルドな”大理石を!というトーマスのリクエストに応え、採石場に行って「普通なら決して買い手がつかないような、クレイジーな大理石を下さい」と注文するのは実に楽しい経験でした(笑)。
Q 置かれているアートも、世界的なギャラリーが所蔵するオリジナルです。中でもジョン・チェンバレンの彫刻には驚かされました。ビビッドな多色使いが特徴のチェンバレンに、これほど静かな色合いの作品があったとは。
もっとも色味の少ないチェンバレン作品を、トーマスが探し出しました。このショーにおける「灯台」であり、全体にぐっとイカリを降ろす、まさに完璧な存在となりました。
Q モデルがまとう洋服が加わることで、この「住まい」が完成したのですね。
舞台美術というのは、俳優がステージに上がるまではまだ未完成。私は常に「余白」を残すように務める分、色彩ひとつとっても俳優の衣装をすべて把握しておかねばなりません。今回の場合、本番までコレクションは秘密で、私すら知るよしもありませんでしたが、「これで間違いない」というトーマスの言葉を信じて進めてきました。トーマスが演出家だとしたら、コレクションの洋服こそが、ショウを完成させる「俳優」なのですね。