Quantcast
Channel: カーサ ブルータス Casa BRUTUS |
Viewing all articles
Browse latest Browse all 2781

〈銀座メゾンエルメス〉記憶に残る10のディスプレイ。|石田潤の In the mode

$
0
0

March 9, 2018 | Fashion, Architecture, Design | casabrutus.com | text_Jun Ishida editor_Keiko Kusano

エルメスというメゾンの遊び心を表すウィンドウディスプレイ。多種多様なクリエイターを起用してきたことでも話題の〈銀座メゾンエルメス〉のウィンドウディスプレイが、今年100回目を迎えました。

2009年に女優の木村多江をフィーチャーし作成した吉岡徳仁のウィンドウディスプレイ「吐息」。

銀座を歩いていると各ブランドの趣向溢れるウィンドウディスプレイに目が惹かれるが、エルメスのウィンドウほど毎回創意工夫に満ちたものはないだろう。正面入り口を挟んでメインディスプレイが2つ、建物の側面に小窓といわれるディスプレイが16。この小窓は路地に面した建物の背面にもあって、ウィンドウを見るためにぐるっと半周してしまうこともしばしばだ。

2001年6月に〈銀座メゾンエルメス〉がオープンして以来、2ヶ月ごとに新しいウィンドウを発表してきたエルメス。さまざまな国、タイプ、キャリアのアーティストとコラボレーションし、「この人を起用するのか!」と驚くことも多々あった。今振り返ってみても、2005年に当時アップカミングだったアーティストの名和晃平を起用したり、2010年には新国立競技場のコンペで注目を集めた建築家グループDGTを抜擢するなど、新しい才能に対する目の速さも抜群だ。抜擢されたアーティストはエルメスの年間テーマをお題とし、それぞれの個性を生かした答え=ディスプレイを生み出す。

1920年代に3代目社長のエミール・エルメスがウィンドウディスプレイの可能性に注目して以来、単なる商品の陳列スペースから、メゾンの世界観を表現する「エルメス劇場」と呼ばれるクリエイションスペースへと進化させてきた。本記事では〈銀座メゾンエルメス〉の100のウィンドウから、記憶に残る10個を時系列でピックアップしてみた。

●2001年/グルーヴィジョンズ「ジッパー」

〈銀座メゾンエルメス〉のウィンドウディスプレイを担当した最初の日本人クリエイターは、グルーヴィジョンズ。工業用に用いられていたジッパーを初めて服飾に用いたというエルメスの歴史を踏まえ、「ジッパー」をモチーフとしたディスプレイを展開した。小窓にはエルメスの皮革職人とともに作成した革のジッパー付きカーテンも登場。遊び心溢れるグルーヴィジョンズならではの仕掛けだった。

●2004年/吉岡徳仁「吐息」

〈銀座メゾンエルメス〉のウィンドウディスプレイを手がけた最多デザイナーといえば吉岡徳仁。これまで4回にわたり担当した吉岡のウィンドウで、最も記憶に残っているものは2004年の「吐息」というタイトルのもと作成された「動くスカーフ」のウィンドウだ。2002年に動く「鞍」と「ケリーバッグ」を展示した吉岡の「動くウィンドウ」シリーズ第2弾ともいえる。モニターに映る女性が吐息をはくと、その前にあるスカーフがふわっと揺れる。シンプルなアイデアだが、なんとも優雅でセクシーな仕掛けで、思わず足を止めて見とれてしまった。2002年に吉岡が最初のウィンドウを手がけた際に提案し、2年越しで実現したという。2009年には女優の木村多江をフィーチャーし、彼女の吐息にあわせて「動くスカーフ」のディスプレイを行った。

●2006年/ジャスパー・モリソン「Slide Show」

パリのアパルトマンをウィンドウに出現させたのはジャスパー・モリソン。床にはジャスパーがデザインしたフローリングのパターンが印刷されるなど、プロダクトデザイナーらしく細部に至るまでこだわりをみせた。アパルトマンで行われているのは、彼が撮影したパリの日常風景のスライド上映会。人々はスライドショーを見ながらパリの「air(雰囲気)」(2006年のテーマ)について議論するという設定だ。建物のサイドにある小窓のようなウィンドウでは、パリの典型的な店のウィンドウを撮影したスライドとエルメスの商品を組み合わせて展示した。

●2007年/マチュー・メルシエ「Hermès à laver / Washing Hermès」

ウィンドウを巨大な洗濯機に変えるという大胆な試みを行ったのは、フランス人アーティストのマチュー・メルシエ。「さあ、踊りの輪に!」というエルメスの2007年のテーマを受け、ただし人ではなくスカーフを洗濯機の中で躍らせた。ランドリーという発想は、レンゾ・ピアノ設計の〈銀座メゾンエルメス〉の建物から。ミニマルで無菌という印象を得たからだそう。驚きとユーモアに満ちたディスプレイとなった。

●2008年/パラモデル「パラモデルの無量ドット建設」

「Fantaisies Indiennes —眩惑のインド」という2008年の年間テーマから、シュールな世界をウィンドウ内に作り出したのは林泰彦と中野裕介によるアートユニット、パラモデル。インド=紅茶と連想した彼らは、年間テーマとロゴをプリントした6500個の紅茶缶を作成し、ウィンドウ内を工事現場のごとく埋め尽くした。パラモデルは2011年にもウィンドウを担当、2013年には〈銀座メゾンエルメス フォーラム〉で展覧会も行っている。

●2010年/荒神明香「と、そこに」

鬼頭健吾(2004年)、名和晃平(2005年)など、日本の若手アーティストも早くからウィンドウでコラボレーションしていたエルメス。2010年には、現在はアーティストグループ「め」の活動でも知られる荒神明香がウィンドウを担当。荒神の作品でよく登場するレンズを用い、レンズ越しに見えるオブジェが大きくなったり逆さまになったりするなど、不思議な視覚世界を作り出した。

●2012年/山口晃「みにくいアヒルのこ」

同時期に〈銀座メゾンエルメス フォーラム〉で東京をテーマとした展覧会を開催した山口晃もウィンドウを手がけた。山口のアトリエのある東京の下町、谷中あたりの民家にみられる通りに向いた「小窓」を〈銀座メゾンエルメス〉にも出現させた。小窓から覗く家の内部に置かれた小物や手遊びものは、家の主人の趣味をさりげなく主張するもの。山口は波板と白木で、下町の「小窓」を表現した。ゆらめく波板の隙間からみえるオブジェとその奥に広がる景色が、異空間へのトリップに誘った。

●2014年/DGT「カンブリアの饗宴」

建築家の田根剛は、DGT(現在は解散)として2014年にウィンドウを担当。人類が誕生する以前のカンブリア紀へと思いを馳せ、海中で絶え間なく分化を繰り返し、新しい生物へと進化してゆく生き物たちのエネルギーを半透明の白い紙を使って表現した。水着を着たマネキンたちは、深海の中を浮遊する人魚のようだ。

●2015年/服部一成「petit hの工房」

ウィンドウ内に方眼紙で作った工房を出現させたのは。グラフィックデザイナーの服部一成。同時期に〈銀座メゾンエルメス〉で開催された「petit h」のイベントと連携し、ウィンドウでもアーティストやデザイナーが職人たちと作り出す実験的で特別なオブジェ「petit h」を展示した。新たなオブジェが方眼紙から生み出される工房のワクワクした瞬間を感じさせるディスプレイとなった。

●2017年/中村至男「エルメスのある部屋」

メインの2つのウィンドウで表現されたのは、同じ部屋を違う角度からみた2つの景色。さらに横にまわると、部屋の床下でエルメスのオブジェを持ち出そうとするネズミがいるといったユーモラスな仕掛けも。グラフィックデザイナーの中村至男によるウィンドウは、エルメス好きの誰かの部屋をこっそり覗き見るようなストーリーを感じさせるものだった。

●2018年/藤城成貴「Game」

「演じる。遊ぶ。プレイフルな人生!」を年間テーマとして掲げた2018年、スタートを飾ったのはプロダクトデザイナーの藤城成貴による「Game」だ。タイトル通り、ピンボールゲームをおもわせる仕掛けがウィンドウ内に設けられ、構造体の中をボールが駆け巡る。もちろんエルメスのオブジェもその一部に。小窓ではオブジェがブランコになったり独楽遊びの独楽になったりと様々な遊びを表現した。

〈銀座メゾンエルメス〉

東京都中央区銀座5-4-1
TEL 03 3569 3300。 ※現在公開中の藤城成貴による「Game」ウィンドウは3月13日まで。記念すべき101回目のウィンドウディスプレイはオーストリアのデザインユニット、ミシェール’トラクスラーによって、3月15日から公開される予定だ。

石田潤

いしだ じゅん 『流行通信』『ヴォーグ・ジャパン』を経てフリーランスに。ファッションを中心にアート、建築の記事を編集、執筆。編集した書籍に『sacai A to Z』(rizzoli社)、レム・コールハースの娘でアーティストのチャーリー・コールハースによる写真集『メタボリズム・トリップ』(平凡社)など。

Viewing all articles
Browse latest Browse all 2781

Trending Articles