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SANAAが初めて手がけた〈無印良品〉が東京・代官山に。印象的なリングが軽やかな空間を演出。

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January 15, 2025 | Architecture, Design | casabrutus.com

良品計画が展開する〈MUJI Labo〉に特化した初の旗艦店〈無印良品 代官山〉が2024年10月にオープン。その内装設計を担ったSANAAパートナーの一人、建築家の棚瀬純孝に話を聞きました。

衣料品エリア。天井にスチール製のリングがグリッド状に並び、円弧を描くハンガーポールが吊り下げられている。 ※写真は開店時のもの。プロダクトの構成は随時変更されている(以下同)
リングのどの部分からポールを吊るすかによって、商品陳列パターンが無限に広がる。
夕方の街並みにライトボックスが浮かび上がるような印象を与えるガラス張りのショップ。

ベーシックな服づくりを追求する実験室として2005年から展開している〈MUJI Labo〉が2024年秋にリニューアル。これを契機に、旗艦店を東京・代官山にオープンすることになった。その設計者として白羽の矢が立ったのがSANAAだった。ガラス張りのショップは代官山駅近くの表通りに面しており、街の表情を一変させるような存在感に満ちている。

「これまで〈MUJI Labo〉は国内外の〈無印良品〉の大型店を中心に、店舗の一角で紹介されてきましたが、リニューアルを機に『素材の持つ力を活かし、細部にこだわりをもった丁寧な服づくり』という原点に立ち返り、さらに実験や挑戦を続けていくという世界観を表現した独立店舗を構えたいという話を〈良品計画〉の担当の方から伺いました。“ファッション”というよりも、私たちが身にまとう“衣服”がどんな素材から、どのような工程を経てつくられているのか、ということが全面に見えるような店舗にしたい、というお話でした」(棚瀬さん・以下同)

「そうした要望に応える方策として、まず素材が綺麗に見えること、そしてお客さまが商品と一対一で親密に向き合えるような空間を心がけました。さらに、何か新しいことが生まれる自由さのある実験室のような雰囲気を出せたら、と考えました」

商品の間を縫うように歩く、回遊性の高い店内。

「具体的には、天井にグリッド状に配されたリングの一部から弧を描くスチールパイプが吊るされていて、そこに商品がかけられています。最初の案ではリングではなく、天井からおりてきたまっすぐのパイプをコの字形に吊るしてそこに商品がかけられて、お客さまの右にも左にも正面にも服があって、服の壁に囲まれるようなイメージを提案したのですが、ふと直線のパイプをリング状にすることで、服のイメージがいろんな方向へ拡散していく効果があるなと思い、現状の形になりました。リングのどの円周部分を使って商品を吊るすかによって、フレキシブルに陳列の形を変えることができます。この円形フォーマットから派生して、商品を平置きするテーブルや鏡も丸い形になりました」

簡素な床の美しさも格別で、仕切り壁や障害物がなく、自由に歩き回れるのも特徴だ。

「一般的な店舗では床に置いたラックに商品が並んでいますが、ここでは床面は全部見えていて、商品が宙に浮かんでいるような空間にしました。そうすることで軽やかで自由度が高く、お客さまが商品の間を縫ってウロウロと歩けるような、回遊性をもたらすことができました」

床は艶消しのモルタル塗装。

頭上を見上げれば構造がむき出しになっており、マッチ棒を思わせる細い直方体のLED照明が直線的に並んでいる。

「光にもこだわっています。天井には演色性の高いLEDの照明器具を使っているので、商品の色や素材感を正確に見せることができます。多くの衣料品店で使われているスポットライトやハイライトは廃して、極力、自然光に近い均質な光を当てたいと考えました。また什器や床面もすべてマットに仕上げることで、光が商品だけを際立たせるようにしました。たとえば〈MUJI Labo〉には無染色・無漂白のカシミアニットがありますが、素材そのものの色をそのまま製品にするという考え方を、インテリアにおいても表現したいと考えたからです」

「衣料品を扱うこちらのエリアの建物はもともと3面がガラス張りでした。ガラスの箱の中で人が動いている様子を外から眺めることができますが、そうした光景も含めた上で店舗が成立しているという感じが出せたと思います」

あえて壁面には何も飾らず、低めの什器に商品を少なめに展示することで、ゆとりや上質感が醸し出される。

衣料品エリアの棟の横にもう一つ、生活雑貨を扱う別棟がある。こちらもSANAAの設計だ。

床から天井までラーチ合板の浅い棚を巡らせた生活雑貨エリア。
木枠の大きなガラス引き戸が特徴的。

「別棟になっている生活雑貨を扱うエリアでは、3面の壁を床から天井までの棚にしました。〈無印良品〉の商品はパッケージデザイン自体が美しいので、単純に商品がずらりと並ぶだけでインテリアになるのではないかと思いました。商品に光が均一に当たるように棚板の奥行きは浅めにして、商品が奥に引っ込んでしまわないようにしてあります。この壁に取り囲まれた中央スペースには什器を置いて壁の商品の一部をディスプレイするにとどめ、お客さまが自由に歩き回れる回遊性を確保しています」

敷地の奥まった場所なので、お客さまが入りやすいように入り口は木製の枠を持つ大きなガラスの引き戸。夏ならば全開してお客さまを迎え入れる。

美しい商品パッケージそのものがインテリアの風景となることを意識した。

「衣料品エリアと生活雑貨エリア、それぞれ内装は異なりますが、どちらも商品が主役になる空間を意識しました。そしてLabo=実験室であるということは、今後の商品の展開次第でいかようにも形を変えたり、新しい発見が生まれたりする。その自由度の高さを保証する空間になったかと思います」

この空間に足を踏み入れれば〈MUJI Labo〉の素材の良さや服づくりの丁寧さが浮き彫りになって目の前に迫ってくる。そして今後、陳列方法によって様変わりするであろうインテリアを見届けていきたいショップなのだ。

〈無印良品 代官山〉

東京都渋谷区猿楽町24-7。11時〜19時。無休。TEL 03 5422 3250。


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