May 29, 2017 | Art, Architecture, Travel | casabrutus.com | text_Naoko Aono
editor_Keiko Kusano
パリ中心部に建つ〈ポンピドゥー・センター〉が開館したのは1977年。今年は開館40周年の記念すべき年にあたります。貴重な工事中の写真とともに、アニバーサリー・イヤーの展覧会の数々を紹介します。
〈ポンピドゥー・センター〉の構想が生まれたのは1969年。当時のフランス大統領、ジョルジュ・ポンピドゥーがボーブール地区の広大な空き地にそれまでにない多目的文化センターにしようと決意したことが始まりだった。それまでパレ・ド・トーキョーの一角にあった現代美術センターを拡張し、新しい図書館やフランスの作曲家、ピエール・ブーレーズのアイデアをもとにした音楽センターと一体になった施設を作りたいと考えたのだ。
設計者は1971年、フランスで初めての国際コンペで選ばれることになった。49カ国、681の応募者の中から選ばれたのはイギリスのリチャード・ロジャースとイタリアのレンゾ・ピアノのユニット。当時はまだそれほど知られた存在ではなかったが、現在はそれぞれ単独で活躍、二人とも建築界のノーベル賞と呼ばれるプリツカー賞を受賞している。
建物に使われた鉄は総重量15000トン、ガラスは11000平方メートル。この膨大な重量を建物の外にある構造体で支えている。そのため各階でそれぞれ7500平方メートルあるフロアには柱や壁がなく、自由にプランニングできる。構造上の要請から小さいスペースに分割しなければならなかったそれまでの美術館建築から大きな一歩を踏み出した、画期的な建築だった。
開館当初「石油プラントのよう」と揶揄された外観は、今ではすっかりパリの顔になっている。ファサードを走るパイプはそれぞれ色によって機能が決まっている。青は空調、黄色は電気、緑は水、そして赤はエスカレーターやエレベーターなど、人が循環するためのパイプだ。
〈ポンピドゥー・センター〉が開館した1977年には『パリ-ニューヨーク』という展覧会が開かれている。1905年から68年まで、アートだけでなく文学、映画、音楽などジャンルを横断してパリとニューヨークの文化の交流にスポットをあてたもの。この展覧会は成功を収め、続く『パリ-ベルリン』(1978年)、『パリ-モスクワ』(1979年)、『パリ-パリ』(1981年)と都市展シリーズの始まりとなった。
1986年には70年までの日本の20世紀美術を包括的に紹介する展覧会『前衛芸術の日本』を開催。こちらも具体美術協会やフルクサスなどのアートだけでなく、丹下健三「東京計画1960」や倉俣史朗などのデザイン、工芸、暗黒舞踏まで多彩なジャンルで日本の“前衛”を分析した。
1989年の展覧会『大地の魔術師』では、それまで西洋偏重だった美術館にアフリカなどの造形を持ち込み、さらには仮面などの民俗学的・文化人類学的な資料を併置したことで議論を巻き起こした。
今年は開館40周年を記念してフランスじゅうでさまざまなイベントが開かれる。〈ポンピドゥー・センター〉では4月まで行われた『サイ・トゥオンブリー展』に続き、8月14日まで『ウォーカー・エヴァンス展』が開催中だ。街を歩くごく普通の人々や小さな店の看板やディスプレイなど、アメリカ土着の文化を撮影した彼のフランスでは初めての回顧展になる。
7月3日まで開催中の『ロス・ラブグローブ ミューテーション/クリエイション展』はルノーやアルテミデ、モローゾなどとコラボレーションしているイギリスのデザイナー、ロス・ラブグローブの個展だ。生物の成長からヒントを得た複雑な構造はデジタル技術と革新的な素材によって可能になった。テクノロジーと有機的なデザインとの関係性を探る展覧会だ。
『デヴィッド・ホックニー回顧展』(6月21日~10月23日)は今年80歳になるイギリス出身のアーティストの個展。彼の長い業績の中でもとくに、テクノロジーとアートとの関係性にスポットをあてるものだ。
ホックニーは早くから写真やファクシミリ、コンピューター、プリンター、そして最近ではiPadなど、最新の技術を積極的に制作に取り入れてきた。この個展では複数の視点から撮影した数十、ときに数百もの写真やポラロイドをコラージュした作品やiPad・iPhoneによるドローイングが並ぶ。年齢を感じさせないみずみずしい作品が楽しみだ。
この他、〈ポンピドゥー・センター〉では『スティーヴン・ピピン展』(6月14日~9月11日)などを開催予定。〈ポンピドゥー・センター〉外でもフランス全土で展覧会やコンサート、ダンスなどの記念イベントが行われる。パリに来たら必ずここは覗いていく、という人も多い〈ポンピドゥー・センター〉のアニバーサリー・イヤーを楽しもう。