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祝、プリツカー賞! RCRアーキテクツが日本で語ったこと。

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May 31, 2017 | Architecture | casabrutus.com | text_Naoko Aono editor_Keiko Kusano

28年ぶりに日本で開かれた“建築界のノーベル賞”、プリツカー賞の授賞式典。5月20日、東京・赤坂の〈迎賓館赤坂離宮〉を舞台に受賞者のRCRアーキテクツを始め、プリツカー財団のトム・プリツカー氏、プリツカー賞審査員らが集い、盛大に行われました。式直前のRCRアーキテクツへのインタビューでは、詩的かつ哲学的な言葉が次々と飛び出しました。

3月に発表された2017年のプリツカー賞は、昨年のアレハンドロ・アラヴェナに引き続き、“スター建築家から地に足の着いた活動をしている建築家へ”という流れを印象づけた。受賞者のRCRアーキテクツは、彼らの出身地であるスペインのオロットという地方都市を拠点にした三人の建築家のユニットだ。決して有名なわけではなかったけれど、作品を見ていくと地に足の着いた態度や素材の繊細な扱い方、注意深く練られたアイディアに、なるほどプリツカー賞にふさわしいと感じる。プリツカー賞受賞の一報は、彼らの事務所にかかってきた電話で知らされたという。
ラモン・ヴィラルタ「もちろんプリツカー賞のことは知っていましたが、私たちがその場に立つ、ということは想像もつきませんでした。審査員が私たちの作品を視察に訪れたことも聞いていましたが、彼らは建築家や建築ジャーナリストですからプリツカー賞につながるとは限らない。まったく予想していなかったことだったので、本当に驚きました」
彼ら自身は、なぜ自分たちが選ばれたと考えているのだろうか。

ラファエル・アランダ「審査員とはそういった話はしていないので詳しいことはわからないのですが、理由の一つは素材や仕事の正直さということだと思います。抽象的な言い方ではなく、具体的な形で世界とコミュニケーションをとっている、実際的な要素とグローバルなものを結びつけているところも評価されたようです」

カルメ・ピジェム「ある報道では『RCRは彼ら固有の言語で表現しているけれど、それはグローバルに理解しうるものだ』と書かれていました。国際的な言語と個別の伝統的な言語の二者択一ではなく、それらが共存しているというのです。私たちにとって、こんなふうに理解してもらえるのはとてもうれしいことです」
彼らのこんな姿勢はRCRアーキテクツがスペイン・カタルーニャ地方・オロットを拠点にしていることとも関係しているかもしれない。3人はバルセロナで学んだ後、故郷の地方都市に戻ってRCRを設立した。

ラモン・ヴィラルタ「大都市に残って他の有名な事務所で働こうとは思いませんでした。私たちにとっては自分の出身地に戻るのは当然の選択だったのです。私たちは“大文字の建築”、つまり一般的な建築ではなく、自分たちにしかできない建築をやりたいと考えていました。建築はこうあるべき、といった常識や思い込みにとらわれないようにしたいと思ったのです」

ラファエル・アランダ「事務所を設立したとき、私たちは予算も規模も小さなプロジェクトから始めることにしました。住宅やパビリオン、緑に親しめる小さな施設などです。そこで実績を積むことで、私たちが考えている建築とはどのようなものかを表明しようと思ったんです」

カルメ・ピジェム「私たちはクライアントや建物のユーザーとの対話が重要だと考えています。一緒に同じ道のりを旅していくような感じです」
彼らは1990年に初めて日本に来て以来、何度か来日している。日本文化には並々ならぬ関心があるようだ。東京大学で行われた講演でも3人のチームワークを「あうんの呼吸」「三人寄れば文殊の知恵」と表現、聴衆をわかせた。

ラファエル・アランダ「日本建築、とくに内と外との関係性に興味を覚えました。外から入っていくと内部で空間が広がっていく、その広がり方が独特です。自在に変えられる間仕切りでフロアを区切るやり方も興味深い」

ラモン・ヴィラルタ「日本建築の空間の扱い方には、長い年月にわたって蓄積された、繊細な技があると思います。光の取り入れ方など、西洋にない空間の作り方にはインスピレーションを受けることも多いですね。日本建築を直接的に引用することはありませんが、影響は受けていると思います」
今回の来日では、授賞式典に先立って奈良や京都、鎌倉を訪れた。中でも奈良・吉野での体験は印象深いものだったという。このときの記録は来年1月、〈TOTOギャラリー・間〉での個展で展示され、書籍も同時刊行される予定だ。

ラモン・ヴィラルタ「吉野では紙漉きを体験したり、製材所を見学させてもらいました。木造建築の原点を見たい、木がどのようにして建築になるのかを知りたいと思ったんです。スペインでは建築に木を使うことはあまりないので。吉野では森林の手入れや切り出した木材の管理など、木のライフサイクルに合わせて人が細かく手をかけているのが印象的でした。こうして建物に使えるような丈夫な木材をつくる一方で、同じ木から作られた紙は柔らかくて自在に形を変える。その二面性をとても面白く感じます」
授賞式典のスピーチでは「私たちにとって建築とは長い旅を通じて夢を具現化すること」だと語った。続けてベトナムの禅僧、ティク・ナット・ハンの詩を引用、そこでも木と紙について言及している。

「“一枚の紙を注意深く見ると、そこに陽光がある。陽光がなければ森林は育たない。その森をよく見ると木を切る人がいて、切った木を挽いて紙にしている。木を切る人は小麦を挽いてパンにする人がいなければ生きられない。木を切る人の両親も同じだ。こういった人々がいなければ紙は存在しない”」
授賞式では詩を引用したあとに、彼らはこう続けた。

「そこで暮らす人の中にさまざまな感情を呼び起こすような空間を作りたい。もちろん、これは決して容易なことではありません。人々がそこで体験することに思いを馳せること、ものごとの本質を理解すること、すでにあるものを超えること、新しい、そして予期しない地平に到達することが私たちの務めだと考えています。

建築は音楽に似ていますが、音楽の方がもっとはかない。詩のようでもありますが、より散文的です。

これからもずっと夢を見て、目が覚めても魔法のような現実を生きていきたい。この賞とともに素晴らしい旅を続けていきたいと思っています」

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