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新作が多数登場! 〈ワタリウム美術館〉でSIDE COREが見せる都市への視線|青野尚子の今週末見るべきアート

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August 29, 2024 | Art | casabrutus.com

ストリートをテーマの一つに活動しているSIDE CORE。彼らは都市の表層だけでなく、その下にある見えないものにも意識を向けています。〈ワタリウム美術館〉で開かれている個展『コンクリート・プラネット』は独特の構造を持つ同館の建物を縦横無尽に使ったもの。彼らが都市に向ける眼差しとは?

《コンピューターとブルドーザーの為の時間》(2024年)。パイプの中を球が転がっていく音がする。

『Reborn-Art Festival』などでスケートボードや工事現場、その場に流れている音などをモチーフにしたインスタレーションを発表してきたSIDE CORE。〈ワタリウム美術館〉で開かれている「コンクリート・プラネット」では2・3・4階と3つあるフロアごとにそれぞれテーマを設けている。

観客が最初に見ることになる2階のテーマは「視点」だ。路上のマテリアルを用いて都市のサイクルをモデル化している。中でも吹き抜け部分に設置された《コンピューターとブルドーザーの為の時間》はかなりの迫力だ。鉄パイプで作られたらせん状の構造物の中を球が落ちてくる。その間、球がパイプにあたる音がするのだが、最後にパイプの下端から球が落ちてくるまでその姿は見えない。

「都市のインフラを抽象化しました。“音の彫刻”といえるかもしれません」(SIDE CORE)

SIDE COREのメンバー、高須咲恵は東京・お台場の首都高速11号線台場線のループ状のジャンクションが好きなのだという。らせん状になったオブジェにはそんな背景もある。

工事中などのピクトグラムやフォントをコラージュした《東京の通り》(2024年)。壁は回転するようになっている。

《コンピューターとブルドーザーの為の時間》の脇にある《東京の通り》は工事現場で見かけるピクトグラムや注意書き、反射板などをコラージュした作品だ。大きな壁は回転するようになっていて、反対側の壁に車のヘッドライトを並べた《夜の息》という作品の光を反射する。

《夜の息》(2024年)。片方だけのヘッドライトが息をするように点滅する。

「《東京の通り》は東京の都市の景観を抽象化した作品です。工事現場でよく見る看板からピクトグラムやフォントを切り出してコラージュしました。ピクトグラムは1964年の東京オリンピックで導入され、『非常口』などは規格があってデザインが決まっています。でも工事現場のピクトグラムは標準化されていなくて、お辞儀している人や地面を掘っている人など、同じポーズでも細部が違っていることはよくある。そのズレが面白いと思った。同じ文字がさまざまなフォントで並んでいるのは、工事現場の音を連想させたいと思ったんです」

《柔らかい建物、硬い土》(中央、2024年)。陶器は土に還らないという意味で人類最初の産業廃棄物ともいわれる。

陶によるオブジェには《柔らかい建物、硬い土》というやや矛盾したタイトルがついている。

「街の中で見かける植木鉢や壊れた瓶、タバコを吸う人など、建物の外に勝手に置かれているもの、身体と都市の間にあるものからインスピレーションを得ました。陶器は土を原料にしていますが、微生物などで分解されて土に還るということはない。縄文土器などの陶器は文化や都市の象徴であり、土の中から発掘される土器には都市の記憶が残り続けるように思います」

《unnamed road photographs》(2024年)。点滅する写真は私たちがスマホなどで動きながら写真を見ることから着想したもの。

2階の吹き抜けを見下ろせる3階のテーマは「行動」だ。SIDE COREが都市に介入してきた、そのドキュメントが展示される。《unnamed road photographs》は2017年ごろから携帯電話などで撮影してきた写真による作品。内部に光源があり、点いたり消えたりしている。

《untitled》(2021年)。身体によって都市をスキャニングする。

映像作品《untitled》は2021年に羽田空港近くのトンネルで、壁にTシャツの肩をこすりつけながら歩くというパフォーマンスを記録したもの。壁に付着したススでTシャツは汚れていき、ススがとれた壁には1本の線が残る。都市を身体的に捉える試みだ。

《under city (ver. 2024)》(2024年)。地下空間をスケーターが疾走する。

4階の《under city (ver. 2024)》は2023年、目黒観測井横の空き地で展示された作品をバージョンアップしたもの。「観測井」とは地盤沈下や地下水位を観測するための井戸を指す。目黒では2面のスクリーンで展示されたが、今回は5面だ。モニタやスクリーンは壁だけでなく、天井や床にも設置されている。

4階に開けられた穴から2階の吹き抜けにある《コンピュータとブルドーザーの為の時間》が見える。

「見る人がいろいろな方向に向くようにしたいと思った。制作時の視点を追体験してほしいという意図もあります」

《under city (ver. 2024)》の映像では地下の雨水貯留施設や地下鉄の廃駅、地下駐車場などをスケーターたちが疾走する。通常、立ち入れないようなところにも特別に許可をとって撮影している。映像は編集されて、架空の地下空間が作り上げられている。

画面には地下でうごめく虫などの生きものもとらえられている。

「地上から地下に入ってまた地上に戻る。生態系の循環のような感じです」

《blowin’ in the wind》(2023年)。奥能登から東京まではるばる旅をしてきた作品。

ストリートをテーマとする彼らは屋外にも作品を展示している。〈ワタリウム美術館〉向かいの空き地には2023年秋に開催された『奥能登国際芸術祭2023』で発表した風見鶏の作品《blowin’ in the wind》が置かれている。奥能登では山の上の風力原動機の足元に設置されていたものだ。山奥の発電所でつくられた電気は都市で消費されている。《blowin’ in the wind》は地方の発電所で展示され、その後、都市で再展示されることでより意味を持つものになる。

《ねずみくん》(2018年)。鑑賞者は屋上に上ることはできず、遠くからねずみを眺めることになる。

〈ワタリウム美術館〉の向かいにあるビルの屋上には《ねずみくん》が置かれている。等身大のねずみ像はSIDE COREのメンバーたちであり、都市で暮らす人々のポートレートなのだという。ねずみは体制に反抗し、日々を生きる市民のシンボルとして使われてきた歴史もある。

9月2日からは外壁の改修工事が始まる〈ワタリウム美術館〉の外壁で壁面作品の展示も始まる(12月20日ごろまで)。参加作家はSIDE CORE、バリー・マッギー、オスジェメオスの3組だ。建物の内外で彼らの視線が街の見え方を変えていく。

『SIDE CORE 展|コンクリート・プラネット』

〈ワタリウム美術館〉東京都渋谷区神宮前3丁目7-6。〜2024年12月8日。月曜休(ただし9月16日、9月23日、10月14日、11月4日は開館)。11時〜19時。大人 1,500円(大人ペア 2,600円)ほか。

SIDE CORE

2012年から活動を開始。今回SIDE COREは映像ディレクターの播本和宜のほかにサウンドデザイナーの松浦知也やアーティストの新美太基、小林椋らと協働している。近年の展覧会に「百年後芸術祭」(2024年、千葉、木更津市/山武市)、「第8回横浜トリエンナーレ「野草:いま、ここで⽣きてる」」(2024年、横浜市)、「奥能登国際芸術祭2023」(2023年、 石川、珠洲市)など。 ※写真右から高須咲恵、松下徹、西広太志、映像ディレクターとして参加した播本和宜。

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