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【谷尻誠・吉田愛編】U-40の時、何を作っていましたか?|NOT A HOTELデザインコンペティション2024

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June 28, 2024 | Architecture, Design | casabrutus.com

世界的な建築家やクリエイターとタッグを組み、ハイエンドな別荘兼住宅を提供する「NOT A HOTEL」が、40歳未満を対象とした国際的なコンペティションを開催中。審査員を務めるのは国内のNOT A HOTELを手がけてきた気鋭のクリエイターたち。今回は彼らがU-40の時どのような作品を手がけ、どのようなことを考えていたのかを聞くインタビュー連載をスタート。第1回はサポーズデザインオフィス共同主宰の谷尻誠と吉田愛を訪ねた。

サポーズデザインオフィス共同主宰の吉田愛と谷尻誠。

・「NOT A HOTEL DESIGN COMPETITION 2024」とは?

世界的な建築家やクリエイターが手がける別荘を、年間10泊単位で購入することが出来るサービス「NOT A HOTEL」。2021年フラッグシップ物件の提供を開始して以降、国内外の建築家やクリエイターが手掛けるデザイナーズ建築とテクノロジーを融合させたハイエンドな物件を販売・運営をしている。そして、今年、新たな才能発掘のための取り組み「NOT A HOTEL DESIGN COMPETITION 2024」を立ち上げた。コンペティションのテーマは、手つかずの自然がそのまま残る北軽井沢の敷地を舞台に、新たな物件のデザインを手掛けるというもの。応募資格は40歳未満(2024年4月11日時点)であること。国籍は問わず、建築士の資格も実績も不問で、純粋にクリエイティブだけで勝負する。そして、最優秀賞に輝いた作品は実際にこの場所に建設・販売される。賞金は1,000万円。

関連記事〈NOT A HOTEL〉建築の未来を担う“U-40”コンペ始動。審査委員は片山正通、藤本壮介、谷尻誠、吉田愛。

NOT A HOTELでは、建築家の元木大介、放送作家の小山薫堂、デザイナーの相澤陽介、などのクリエイターを迎えて運営している。

記念すべき第1回目の審査員として名を連ねる、サポーズデザインオフィスの谷尻誠と吉田愛。二人は、栃木・那須に〈NOT A HOTEL NASU / MASTERPIECE / THINK〉を手がけており、3棟目となる〈NOT A HOTEL NASU CAVE〉が24年5月に開業を迎えた。 さらには、群馬県みなかみ町の〈NOT A HOTEL MINAKAMI TOJI〉も現在建設中だ。

1.審査員によるNOT A HOTEL|サポーズデザインオフィス〈NOT A HOTEL NASU / CAVE〉

那須の広大な牧場の中に位置する〈NOT A HOTEL NASU / CAVE〉。
都心から約90分でアクセスできる。

住宅やアパレルショップ、複合施設などさまざまなプロジェクトを手がけてきた谷尻と吉田。NOT A HOTELを設計するにあたってどのようなことを意識したのだろうか。

「NOT A HOTELでは、ただまじめに建物を作る能力というよりは、訪れた人を圧倒させる空間、体験をどれだけ提案できるかが問われていると思うんです。だから、提案する僕たちも日頃から思い切り遊んで、心震わせる。そういう経験を設計に活かしています」(谷尻)

「NOT A HOTELは思い切りデザインにフォーカスできるプロジェクト。CEOの濱渦(伸次)さんは、コストダウンとかメンテナンスとか、採算性やスケジュールを理由に妥協しない。施工費が上がったとしても、デザインもクオリティもいい方を選ぶ。そんなクライアントさんはあまりいないです(笑)。確立されたNOT A HOTELの世界観があって、それが建物やソフトウェア、アメニティにも透徹されている。土地探しも上手なので、ロケーションを生かしたプランを考えるのが楽しいですね。ブレないこだわりがあるから、多くの人が圧倒されるし、惹きつけられるんだと思います」と吉田。

NOT A HOTELは日本に眠る土地を探して仕入れるところからのスタート。その土地の魅力を最大限に引き出すために建物を考えていくのが、クリエイターの力の発揮のしどころだ。

2.審査員たちのU-40|サポーズデザインオフィス〈ONOMICHI U2〉

1943年に建てられた海運倉庫をリノベーション。


「僕たち、コンペで負け続てるんで、40歳未満で提案して実現したものってほとんどないんですよ。サポーズの名前を広く知ってもらうきっかけになったのは40歳の時、プロポーザルで勝ち取った広島『ONOMICHI U2』ですね」
(谷尻)

広島県が主催するプロポーザルで、二人は戦時中に建てられた開運倉庫をサイクリストのためのホテルを中心とした複合施設へコンバージョンするという計画を提案した。

「尾道は日帰り観光の街と言われていて、街が観光地として成長するには人が泊まったり、食事をしたり買い物を楽しむ場所が必要なのではないかと。それが街自体を育てていくきっかけになると思ったんです」(谷尻)

空間のデザインだけではなく、全体のディレクションも行った。ネーミングやロゴマーク、ユニフォームのディレクションも担当し、コンセプトと空間の親和性を高めることを意識した。そうした企画力はNOT A HOTELにも必要になるはず、と吉田。

「宿泊施設はその場の空気を作っていくことだと思う。ここでどんな体験をしてほしいのか。ディレクションやブランディングも含めて空間を考えることで、きっといい場所にはなると思います」

3.U-40時代に抱いていた思い|「負けまくっていました」

広島市が開催した平和大橋歩道橋の国際デザインコンペ応募案のパース図。51mmの鉄筋をテンションで吊ることで揺れを体感できる橋を構想した。

40歳まではコンペに勝てなかったという二人。忘れられないプロジェクトがある。2009年、広島市主催で平和大橋歩道橋の国際デザインコンペだ。二人が30歳前半の時。地元・広島で行われるコンペであり、当時サポーズのオフィスが橋のすぐ近くにあったことから「これは僕たちがやらなきゃいけない!って使命感に駆られて参加したんですよ」(谷尻)

「イサム・ノグチが手がけた橋梁の横に新たな橋をつくるというコンペだったので、派手で仰々しいものよりも、イサム・ノグチの彫刻的な橋に寄り添うものがふさわしいんじゃないかと。視覚的なインパクトではなく、橋を渡った時の記憶がしっかり残るよう、“揺れる橋”を提案したんです」

橋梁は厚さ90mmとかなり薄いが、構造計算上、安全性も問題のない揺れを提案した。最終選考にまで残ったが、あと一歩のところで及ばなかった。

「あまりに悔しすぎて僕泣いたんですよ(笑)。その後開催されたポーランドの博物館コンペもかなりの自信作ができて、“これはイケる!”と思ったけど、作品が現地に届いていないということで審査すらされなかった悔しすぎる思い出も。負けた思い出の方が鮮烈に残ってます」(谷尻)。

4.応募者たちに願うこと|「“知らない”って最強の武器だと思う」

「経験も実績も国籍も関係なく挑戦できる。すごく夢があるプロジェクトだと思います」と吉田。

二人は40歳未満の頃、負け続けてもコンペに出し続けていたという。

「その時に考えていたことが、他のプロジェクトに生きたりするし、負けて初めてわかることもある。コンペに参加し続けることで、考えることをやめないという習慣をつけることは大事だと思う。今回の審査員のオファーが来た時、挑戦者たちを応援したいと思ったから、引き受けさせてもらったんです」(谷尻)

今回のコンペは応募に必要な経験や資格は不要。プロポーザルではなく、コンペティションで開催されることも二人が審査員を務める決め手になった。

「一般的にはプロポーザルといって設計者を選ぶやり方が主流なんですね。プロポーザルは過去の実績や条件、資格を持った設計者を選ぶので、ある程度の経験がないと挑戦できない。一方、コンペは選定対象が人ではなくて、設計案を見て選びます。有名無名関係ない。アイデア次第で優勝できる。すごく夢があるプロジェクトだと思います」(吉田)

設計費・施工費の予算上限はないところも他のコンペティションとの大きな違いだろう。

「一般的なプロジェクトは予算内におさめないとプロジェクトが頓挫してしまうので、建築家やクリエイターは経験を積むうちに、いつしか実現可能な提案をするようになってしまう。僕自身、昔だったらもっと思い切ったデザインを提案していたと思う。そう考えると、知識や経験がないから提案できるものってあると思うんです。“知らない”って最強の武器だと思うんですよ。知らないからこそ、費用感とかメンテナンスのしやすさとか現実的ないったことは抜きにして、突き抜けて思い切った案が生まれる可能性がある。応募者にはそこを大事にしてほしいですね」(谷尻)。

〈SUPPOSE DESIGN OFFICE〉

谷尻誠 たにじり・まこと 1974年広島県生まれ。2000年、建築設計事務所サポーズデザインオフィスを設立。「tecture」「DAICHI」「Mietell」など多分野で開業するなど事業と設計をブリッジして活動。 吉田愛 よしだ・あい 1974年広島県生まれ。2001年USBデザインオフィスに参画。2014年より共同設立。2017年、絶景不動産株式会社設立共同主宰。2021 年、新たに空間プロデュースやインテリアスタイリングを事業の核とする「etc inc.」を設立。2023 年、広島本社の移転を機に商業施設「猫屋町ビルヂング」の運営もスタートと同時に「yacone」というアイスクリーム事業もスタートするなど事業の幅を広げている。

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