January 24, 2017 | Architecture | 理想の最新住宅案内2017 | photo_Tetsuya Ito text_Masae Wako editor_Ai Sakamoto
差し出した傘の下に、四方八方から人が集まってくる。そんな空間を支えているのは大黒柱と4本の梁。日本の民家がもつ知恵も生かした伸びやかな住宅です。
「大きな傘を開いて差し出したら、みんなその下に入りたくなる。傘の内側で一緒に過ごせば、家族も友人も自然にまとまっていく。そういう家を考えました」静岡県焼津市の住宅街に建つ〈傘の家〉は、原田真宏と麻魚によるマウントフジアーキテクツスタジオの新作。真宏が育った実家を、両親のために建て替えた平屋住宅だ。すぐ隣には自然豊かな森林公園があり、週末には原田夫妻も子供を連れて訪れる。3世代が集まってなお広く感じられる空間には約18Mの開口があり、父が丹精込めて手入れした庭を眺められる。「生活していて、気持ちいいなと感じる瞬間がしょっちゅうあります」と母は言う。
この大空間や大開口を可能にしているのが、吊り屋根構造。傘を広げたときのように、4本の登り梁を真ん中の大黒柱が突き上げる形で屋根を支えている。
「外壁も多少はありますが、主構造はあくまで大黒柱と登り梁。つまり、壁は自由な場所に配置できるし、開口を大きく取ることもできるんです」と麻魚。例えば、ガラス開口の外に張り出す三角形のテラス。大屋根がそのままキャンティレバー状の庇になり、深いところで3Mもある軒下をつくっている。夏は日差しをしっかりと遮り、冬は室内の奥にまで暖かな光を届ける工夫だ。 屋根の力は大きい、と真宏。「日本の民家を民家たらしめているのは屋根。民家の屋根は真ん中が高いので、人の視線は上へ、内側へと集まります。場にいる人のまとまりを促す形だと思う」
以前から古民家に憧れていたという母も、「大黒柱の傍に寝そべって天井のいちばん高いところを見上げるのが好き」と笑う。そのやり方に倣ってみると、なるほど、いいようのない安心感と開放感。と同時に、天井の隅にある影にも目が吸い寄せられる。
「ロフトと屋根の間に影ができるよう、入り隅の部分をつくりました。昔の民家には“見えない何かがいそう”と想像をかきたてる暗がりがあって、それが美しさや情緒を生んでいた。従来の家づくりでは光ばかりが主題だったけれど、今は“影”をどう配分するかが重要な気がしています」(真宏)