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待望の移転オープンになったロンドンの〈デザインミュージアム〉。

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January 30, 2017 | Design, Architecture, Travel | ロンドンデザインミュージアム | photo_Haruko Tomioka text_Megumi Yamashita

1989年に開設されて以来、デザイン界をリードしてきたロンドンの〈デザインミュージアム〉。面積を3倍に拡張し、クリエイティブな未来につながるフォーラムを目指す。

建物の中央は吹き抜かれ、館内のどこからでもコンクリート・シェル構造の天井を仰ぎ見ることができる。最上階では入場無料の常設展『Designer, Maker, User』を開催する。
待ち望むこと10年。ロンドンの〈デザインミュージアム〉の新館がようやく完成となり、昨年末の11月24日に公式オープンになった。

「今日は人生で一番ハッピーな日です……」と、創設者であるテレンス・コンラン卿がスピーチで言葉を詰まらせたように、長い道のりを経て成就した悲願の移転だ。

世界で初めて20世紀以降のデザインに特化し、〈デザインミュージアム〉が創設されたのは1989年のこと。テムズ川に面した倉庫を改築した旧館では、イームズからハディドまで、記憶に残る数多くの展覧会が開催されてきた。一方、常設展示のスペースなどもないことから、2006年から拡張計画が始まった。

「テートモダンの横に新築する案などもありましたが、最終的に1960年代に建てられたアイコニックな建築を改築することになりました」と館長のデヤン・スジックは言う。丹下健三の代々木体育館のように、当時の最先端をいくハイパボリック・パラボロイド屋根を持つ建物だ。外観はOMAらによってオリジナルに近く修復、内観はジョン・ポーソンのデザインで改築されている。

外からは屋根のフォルムはわかりにくいが、エントランスを抜けると、天井まで3フロアが吹き抜かれたアトリウムが目の前に現れる。巨大なコンクリート・シェル構造の天井とそれを囲む「羽」が、その圧倒的な存在感を見せる。ベンチも兼ねた幅の広い階段が上の階へと導く。2階と最上階となる3階のフロアは、アトリウムを囲んで口の字形に配され、どこからでも彫刻的な天井と館内を見渡すことができる。

「単にグッドデザインを見せることが目的ではありません。デザインの役割や影響、社会や経済との関係について考え、クリエイティブな未来につながる場を目指しています」ということで、最上階では旧館で果たせなかった常設展示を無料公開する。「デザイナー、メーカー、ユーザー」というタイトルで、建築、プロダクト、ファッション、グラフィックなど約1000点を展示。これらがいかにデザインされ、作られ、使われてきたか、総合的な理解を促す。
ミュージアムに隣接して3戸建つOMAとアライス&モリソン設計の高級マンション〈ホランドグリーン〉。大通りに面した建物の1階には目印となるミュージアムショップがある。その右手を進むとミュージアム本館が姿を現す。
最上階にあるレストラン&バー〈パラボラ〉。内装はバーバー・オズガビーのユニバーサル・デザインスタジオが担当。閉館後もオープンし、ディナーは2か月ごとにゲストシェフが交代。ガラス越しに公園を望む。1階にもジュースバー&カフェがある。
このほか、企画展用の展示ギャラリーが地下と1階に1つずつ。共に多目的に対応できる2フロアを吹き抜いたスペースだ。現在、地下のギャラリーでは、今年度の最優秀作を各分野で決める「デザイン・オブ・ザ・イヤー」の最終候補作品を展示する。1階の奥のギャラリーは『フィアー&ラブ(恐れと愛)』と題された企画展で、こちらはいささか高度でコンセプチュアルな内容。知的論争を呼ぶことも意図されている。

館内のスペースの多くは、多目的に使えるワークショップ室、セミナー室、図書館など、デザイン教育のために当てられている。展示に関連した各種プログラムほか、学生向けのデザインコンペからトークまで内容もバラエティー豊かだ。5年前に始まった、年間4人の若いデザイナーをサポートする企画も、館内の特設スタジオでの制作が可能になった。
本館1階にあるショップ。オリジナルの企画商品も今後増やしていく予定。国立のテートやV&Aとは違い、こちらは私立。ショップ収益は貴重な財源。窓には修復されたオリジナルのステンドグラスが設置されている。
そのほかの館内1階にはカフェとショップ、最上階にレストラン〈パラボラ〉とメンバー専用ラウンジがあり、幅広い利用者が集まる場が想定されている。EU離脱問題で揺れるイギリスだが、デザインを通して、過去と現在と未来を、そして世界をつないでいこうという大志が伝わってくる。

the Design Museum

224-238 Kensington High Street, London, W8 6AG
TEL 44 20 3862 5900。10時〜18時(第1木曜〜20時)。無休。特別展以外は入場無料。公式サイト

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