May 4, 2024 | Art, Travel | casabrutus.com
サウジアラビアで開催中の『ディルイーヤ現代美術ビエンナーレ2024』。中東だけでなく世界の問題を扱う先鋭的な芸術祭です。
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『ディルイーヤ現代美術ビエンナーレ』は今回で2回目になるビエンナーレ。中東サウジアラビアの首都リヤドに隣接するディルイーヤで開かれている。今回のアーティスティック・ディレクターは〈NTUシンガポール現代美術センター〉の創設者であり、館長を務める気鋭のキュレーター、ウーテ・メタ・バウアー。彼女を含む9名のキュレーターがアーティストの選定にあたった。
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バウアーが定めたテーマは「アフター・レイン」。アナイス・トンデュールはとくに、雨のときに地面から立ち上る「ペトリコール」という匂いに着目した。「ペトリコール」とはギリシャ語で「石のエッセンス」という意味の語だ。雨が降ると大気中のさまざまな浮遊物が土と混ざり合い、場所によって異なる匂いを発する。雨によって土本来の香りがより際立つ、ともバウアーはいう。砂漠の国、サウジアラビアでは雨は少ない。まれに降る雨が、普段は気づかないその土地固有の香りや文化を思い出させてくれるのだ。
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会場はディルイーヤの「JAX(ジャックス)」と呼ばれるエリア。かつて工業が盛んだったころの倉庫を転用したギャラリーやアーティストのアトリエが並ぶ。近くにはユネスコ世界遺産の〈アトゥライフ歴史地区〉があり、新旧の対比が楽しめる。
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開催国のサウジアラビアは近年、国外からの観光客を積極的に受け入れる、厳格なイスラム法に基づいた法律を緩和するといった変革のさなかにある。そこで開かれるビエンナーレでバウアーはアートが社会に果たす役割や、動植物など人間以外のものとの共生といった文脈を踏まえてキュレーションした。
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参加作家は地元のアーティストだけでなく世界各国から幅広く選ばれている。展示作品にはイスラム文化を反映したもののほか、ポスト・コロニアリズムや難民など現代社会の問題に切り込む作品が多い。「アフター・レイン」のテーマに呼応して砂漠だけでなく今世界中で懸念されている水不足について考察するものも目立つ。リサーチベースの作品も多く、生物学者などの科学者や建築家も参加している。
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会場は複数の棟に分かれた展示棟やカフェが中庭を取り囲む構成。中庭には建築家のアンネ・ホルトロップが再生ガラスを使った《Glass to Stone》という作品を設置している。ガラス製品のリユースに対するホルトロップの関心から生まれたオブジェだ。アンゲラ・フェレイラの《Zip Zap Circus》はポルトガル出身の建築家、パンチョ・ゲデスが南アフリカ共和国の子どもたちのために考案した、テント状の屋根がついたシェルターのアイデアをもとにしたもの。シェルターに車輪がついていて好きなところへ運べる。
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エル・アナツイは飲料水のキャップシールを大量につなぎ合わせて迷路のようなインスタレーションを作った。タイトルの《Logoligi Logarithm》はコンゴやナイジェリアの言葉で「蛇のような」「間接的な」といった意味。硬直した官僚主義への批判が込められている。
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高床式の壁のない小屋はスロベニアを拠点とするマルヘティカ・ポトリッチによるもの。絵画や建築など、幅広い領域で活動している作家だ。《Acre Palafita with Infrastructure》というタイトルのこの小屋は南米アマゾンによく見られる家「パラフィタ」の研究から生まれたもの。彼女はこれにソーラーパネルや衛星アンテナをとりつけ、インフラフリーの家にすることを試みた。衛星アンテナは遠く離れた場を結びつける。インフラからフリーでありつつも人と人とのコミュニケーションは担保されている。
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巨大化した水の容器が並ぶのはアリア・ファリードの作品《In Lieu of What Was》。伝統的な粘土の壺からプラスチックのボトルまで、5種類の水の容器がアラブの街角でよく見られる水飲み場に変身している。クウェート出身のファリードは2019年からこの作品をクウェートとイラクの国境に並べるというプロジェクトを行っている。生命の維持に欠かせない水はかつては船で運ばれたが、今は淡水化プラントで作られることが多い。砂漠の国での水の重要度は日本とは比べものにならない。
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社会問題に対してさまざまなアプローチから作品を作っているルーシー+ホルヘ・オルタも水に関する作品を出品した。《OrtaWater - Purification Factory》は川の水などを蒸留して飲料水を作る移動式浄水器で水不足を解決する、という提案だ。リサイクル素材を使っている点でも環境に配慮している。さりげなくマルセル・デュシャンの引用が行われているのも面白い。
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アラビア半島ではカタールの首都ドーハにI.M.ペイ設計の〈イスラム装飾美術館〉が、アラブ首長国連邦のアブダビでジャン・ヌーヴェル設計の〈ルーヴル・アブダビ〉ほか世界のメガ美術館が建てられるなど、アートを軸にした開発が進んでいる。サウジアラビアでもこの「ディルリーヤ現代美術ビエンナーレ」会場近くに〈JAXサウジアラビア現代美術館〉がオープン、別会場で「ディルイーヤ現代美術ビエンナーレ」と交代に隔年で「イスラム美術ビエンナーレ」が開かれるなど、アートの気運が高まっている。イスラム教の伝統と現代美術がどのように融合し、発展していくのか、気になる地域だ。
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