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柴田文江の名言「…して他人の中に潜り込む。」【本と名言365】

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April 16, 2024 | Culture, Design | casabrutus.com

柴田文江/デザイナー

カタチある物質を介して他人の中に潜り込む。

プロダクトデザイナー、柴田文江の仕事は実に幅広い。そしてその仕事の数々にベストセラーは多いが、多くのユーザーは彼女の存在を意識することなく使う。柴田は自身の作品集『あるカタチの内側にある、もうひとつのカタチ』で、「カタチある物質を介して他人の中に潜り込む。」と書く。人々が無意識に彼女の仕事を選ぶことこそ、その仕事がいかに優れたものであるかを証明するものといえるだろう。

柴田の仕事で一般によく知られる仕事が、無印良品《体にフィットするソファ》だ。ほかにも例を挙げていこう。電子体温計が普及するきっかけとなったオムロン《けんおんくん》の丸っこくやさしいフォルムは後進の製品にも大きく影響を与えた。ハンドルを見直すことで使いたくなる包丁へとアップデートさせた庖丁工房タダフサの包丁シリーズは一時期購入ができないほどのヒット商品に。コロナ禍におけるテレワークの普及を前に発表されたイトーキのワークチェア《バーテブラ03》は家庭でも取り入れやすいデザイン性と機能性で、他のメーカーのデザイン性にも影響を与えた。

「モノでも人でも、深く関わるほどそれから受けるリフレクションは自分だけのもので、心に映り込んだ印象は誰かと比べることのできないプライベートなものになる。だから、誰もが等しくわかることよりも、その残された印象にこそ本質はあるのではないかと思っている。」

柴田は冒頭で紹介した作品集の冒頭でそのように書く。多くの人々に届くデザインだが、実はそのデザインは多くの人というよりも誰かの心に深く入り込んでいくような湿度をもってデザインされている。その活躍は近年、海外に広がっている。2024年のミラノデザインウィークではイタリアの老舗家具メーカー、フレックスフォルムから新作を発表した。柴田の描くカタチはいま、より広い世界で人々の心に潜り込もうとしている。

柴田のデザインにおけるカタチをクローズアップし、その内側に潜む本質を明らかにしようとする一冊。またデザインへの思いを綴ったテキストを掲載する。『あるカタチの内側にある、もうひとつのカタチ』柴田文江著 ADP 3,850円/2012年。

しばた・ふみえ

1965年山梨県生まれ。武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科卒業後、東芝デザインセンターを経て、1994年Design Studio S設立。エレクトロニクス製品から日用雑貨、医療機器、ホテルのトータルディレクションまで、インダストリアルデザインを軸に幅広い領域で活動する。2018〜2020年にグッドデザイン賞審査委員長を務め、2022年より多摩美術大学美術学部統合デザイン学科教授。

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