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藤田嗣治の名言「美術家は物体を深く凝視し、…」【本と名言365】

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April 5, 2024 | Culture, Art | casabrutus.com

これまでになかった手法で新しい価値観を提示してきた各界の偉人たちの名言を日替わりで紹介。日本画の技法を油彩画に活かすなどして独自の画風を確立した画家・藤田嗣治。その芸術観は非常にシャープなものでした。

藤田嗣治/画家

美術家は物体を深く凝視し、的確の線を捉えなければならない。

「乳白色の肌」と称賛された裸婦画や、可愛らしい猫たちの絵などで知られる画家・藤田嗣治。1920年代、ピカソやマティスに代表されるエコール・ド・パリを舞台に名声を博した。30年代の多くは日本で暮らし、随筆集の出版も行っている。現在読める文章の多くはこの時期、つまり藤田が40代から50代の頃に書かれたものだ。

そのため彼が綴る芸術観は、画家としての豊かな経験を経てシャープに研ぎ澄まされている。いわく「美術家は物体を深く凝視し、的確の線を捉えなければならない。」。見た目に間違っていようが、見た感じを正直に捉えた健全な線こそが正しいものだという。線は単なる輪郭ではないのだ。このことを法隆寺の壁画や高野山の赤不動など、自身の見聞を引き合いに紹介していく。この見聞録も圧巻で、ラスコー洞窟壁画をはじめとするレゼジー地方遺跡群に半年、ルーブル美術館には「下向きの眼の表現法」を研究するために3年通ったとある。

こうした種々の芸術論はもちろん、ルノアールやピカソをはじめとする芸術家とのエピソードたちは読み応え十分。芸術論と違いパリ時代のことは振り返って書いているから、回想録然とした柔らかな読み心地がある。かと思えば「私は四つ時分から非凡の画才に秀でていた」とさらりと書いてしまうケレン味も随所に。絵画に負けずとも劣らない藤田ワールドがここにある。

生前に刊行された3冊の随筆集『腕一本』『巴里の横顔』『地を泳ぐ』からの抜粋と未発表の2編を収録。解説は編者の近藤史人。NHKディレクターとして、NHKスペシャルで藤田の番組を製作し、ノンフィクション『藤田嗣治-「異邦人」の生涯』の著者でもある。「腕」の字はフランス語読みで「ブラ」と読む。『腕一本・巴里の横顔』藤田嗣治著、講談社文芸文庫 1,760円/2005年。

ふじた・つぐはる

1886年東京生まれ。画家。東京美術学校を卒業し、1913年、27歳のときに渡仏。ピカソをはじめ40か国以上の芸術家が集う美術の町・モンパルナスで暮らす。23年、37歳のときに「乳白色の肌」と絶賛される「五人の裸婦」を発表。29年、43歳で17年振りの帰国。南北アメリカなどへの旅を重ねながら日本で暮らす。戦後、49年に日本を離れ再びパリで暮らす。55年、69歳のときにフランス国籍を取得し、日本国籍を抹消。のちにレオナール・フジタと改名。68年、81歳で死去。

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