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【本と名言365】ジョエル・ロブション|「…料理は愛そのものなのですから」

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March 8, 2024 | Culture, Food | casabrutus.com

これまでになかった手法で新しい価値観を提示してきた各界の偉人たちの名言を日替わりで紹介。「フランス料理界の至宝」と評され、没後5年を経た今も彼の名を冠するレストランが世界各地で輝き続けるジョエル・ロブション。まばゆいほどの成功を収めたスターシェフの料理哲学を、自身のレシピ本から紐解く。

ジョエル・ロブション/シェフ

あなたの大切な人、お母さんや恋人のために料理する時と同じように心を込めて作りなさい。料理は愛そのものなのですから

時に料理本は、人生を学ぶ指南書や道しるべにもなり得る。

世界の美食家たちに「皿の上の芸術」と言わしめ、伝統を継承しながらも古典を刷新し新たなフレンチの世界を構築した名シェフ、ジョエル・ロブション。氏自身が筆をとったレシピ本「ジョエル・ロブションのすべて」は、まさにそんな指南書となるだろう1冊だ。

レシピはフォン(だし)の取り方に始まり、魚介や肉、野菜、デザートに至るまで実に700レシピ。オードヴルやサラダといったカテゴリー別だけでなく、素材別にレシピを検索でき、中でも特徴となるのは項目ごとに食材やレシピの成り立ちが解説されている点。歴史的、文化的背景などに触れ、氏の素材への深い愛情も伝わってくる。
たとえば野菜の項目では、じゃがいもを題材にしたレシピだけでも40品以上。アーティチョークやビーツなど、まず洗い方から始まり、下処理の仕方、切り方などが簡潔かつ丁寧に説明されている。

スープの項目ならば、「ブイヨンは決して沸騰させず、表面がかすかにゆらめく程度の火加減で煮る。フレミサンと呼ばれるこの火加減を“ブイヨンが微笑んでいる”と表現する料理人もいる」……と言った一文に出会うと、陽光が差し込むキッチンで “ブイヨンの表面がかすかにゆらめく光景”を想像しては、思わずうっとりとなる。

この大作の翻訳を手がけたのは、翻訳家でありフードプランナーでもある勅使河原加奈子氏。約20年に渡り、シェフが来日した際の通訳を務めた人物だ。本書を彩る豊かできめ細かな料理表現は、シェフへの深い理解と長年の信頼関係が反映されているのだろう。

名言に引用したのは、彼が若い料理人にいつも伝えていた一言。誰のために心を込めて作るのか。料理に限らず、何かを作るうえで指針となる言葉だ。知識と技術を余すことなく公開した本著にも、氏が一生をかけて伝えてきた「料理は愛」という精神が宿っている。

世界最高峰と謳われるシェフが、ブイヨンの火加減からゆで卵の茹で方、本格的なフレンチの一皿まで文字通りノウハウの“すべて”を公開したレシピ本の金字塔。郷土料理などの古典から自身のスペシャリテまで700レシピを収録。800ページを超え、本の厚さは5.5㎝にも及ぶ。初版はフランスで2007年に、日本では2009年に発行され、日本版は食材や調理用語などを解説した別冊付き。本書は2023年に再販された新版となる。翻訳:勅使河原加奈子。『ジョエル・ロブションのすベて』誠文堂新光社 12,000円/2023年。

ジョエル・ロブション/シェフ

1945年、フランス西部の都市ポワティエ生まれ。15歳で料理の道を志し、31歳で優れた職人の証であるM.O.F(国家最優秀職人章)のタイトルを授賞。36歳で自身の店「ジャマン」をオープンし、わずか3年後、史上最短でミシュランの3つ星を獲得する。1994年、49歳の時に東京・恵比寿にモダン・フレンチの真髄を表現するシャトーレストラン「タイユバン・ロブション」をオープンし、現在はグラン・メゾン「ガストロミー “ジョエル・ロブション”」として13年連続ミシュラン3つ星を獲得。2003年には世界初となるカウンタースタイルの「ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション」を六本木ヒルズに開店し、パリ、ロンドン、ニューヨーク、香港など世界11カ国に展開する。世界で最も多くの星を持つシェフとして今もなお高く評価され、親日家としても知られる。2018年逝去。

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