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【本と名言365】宮田識|「デザインするな」

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February 16, 2024 | Culture, Design | casabrutus.com

これまでになかった手法で、新しい価値観を提示してきた各界の偉人たちの名言を日替わりで紹介。ブランディングの名手として時代を彩る広告や製品の数々に携わってきたクリエイティブディレクター、宮田織。優れた後進を育ててきたことでも知られる宮田がデザインの極意として語る言葉とは。

宮田識/クリエイティブディレクター

デザインするな

表紙に「デザインするな」と記されたこの本は、クリエイティブディレクターの宮田織の仕事と精神に迫ったデザインの本だ。端的な言葉でデザインと向き合う姿勢を示す宮田は半世紀を超え、企業の広告、企画、ブランディングを手がけ続けてきた人物。サントリー、キリン、モスバーガー、ワコール、ブライトリングなどの錚々たる企業や製品のイメージを作り上げ、自ら立ち上げたプロダクトブランド「D-BROS」も人気を集める。

同時に宮田はKIGIの植原亮輔と渡邉良重をはじめ、錚々たるアートディレクター、デザイナーを輩出してきた。こうした卒業生の多くが、宮田の言葉でもっとも印象に残っている言葉として挙げた言葉が「デザインするな」である。宮田はこの言葉を、基本的なデザインのスキルを身につけたデザイナーに向けたものだと説明する。技術を身につけたデザイナーだからこそ、伝えるべきイメージをしっかりと頭の中で構築することを促す。それができれば、「形はいくらでもきれいになる」と宮田はいう。

本書で宮田は「デザインとは、頭の中に思い描いたものを複写すること」ともいう。やはりここでも、表現したいもの、伝えたいものを考え、そのイメージを頭に描くことを促している。しかし複写といっても、宮田がいう複写は簡単なものではない。「思ったことを、そのとおり写すこと」が複写なのだと宮田は語る。ケーキをそのままきれいに撮影するのではなく、すごくおいしそうだと思う気持ちまで写すのが複写であると。そこに必要なのは人の意志であり、気持ちであり、感情だ。これらを伝えることができてはじめて広告というデザインが生まれる。もちろんここでいうデザインとはあらゆることに応用できるだろう。

本書が発行されたのは2009年だが、宮田は自身の会社であるDRAFTの設立50周年を迎えた2021年にその規模を小さくした。ホームページでは、「デザイナーは、自らのデザインで社会に影響を与え続けなければなりません。そのためには社会と真っ向から対峙する“力と覚悟”が必要になります」と書く。多くの後進を育ててきた宮田はいま、環境を新たに次なる挑戦を目指して進む。言葉やイメージが簡単に伝えられる時代だからこそ、伝えたいことの本質を伝えることこそ難しい。だからこそ本書で語られる宮田の言葉は、なによりも強く伝わってくるのだ。

ドラフトの活動を通して、広告や商品開発、ブランディングの根幹に求められる根源的な感性を語りながら、デザインと社会の関係に迫る。作品も多数掲載。『デザインするな』藤崎圭一郎著、DRAFT監修・デザイン DNP アートコミュニケーションズ3,990円/2009年。

みやた・さとる

1948年千葉県生まれ。1971年に日本デザインセンターを退社後、フリーデザイナーとして活動。1978年に宮田識デザイン事務所を開設し、後にドラフトと社名変更。2013年より東京芸術大学客員教授、京都工芸繊維大学KYOTO Design Lab所長就任。ADC会員賞他多数。

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