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雪の札幌で開催中の国際芸術祭へ|〈モエレ沼公園〉〈北海道立近代美術館〉〈札幌市資料館〉〈SCARTS〉【後編】

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February 9, 2024 | Art, Architecture, Design, Travel | casabrutus.com

3回目を迎えた「札幌国際芸術祭」は初めての冬の開催。輝く雪とアートが並ぶ、見どころ満載の芸術祭です。

栗谷川健一《北洋博》(1953年)。作者は北海道出身。戦後、北海道の観光ポスターを多数制作した。

雪の札幌で開催中の国際芸術祭へ|〈未来劇場〉【前編】から続く

〈北海道立近代美術館〉では1924年から2024年の現在までの100年を再読する『1924-2024 FRAGILE[こわれもの注意]』展を行っている。2つの大戦にはさまれた1920年代はシュルレアリスムの勃興やテレビ・ラジオの定期放送が始まるなど、芸術やテクノロジーの分野でも分岐点となった時代だ。それから100年、私たちは何を見てきたのかをたどる。

この展示では北海道独自の歴史にも触れる。栗谷川健一《北洋博》は太平洋戦争で中断された北洋漁業が1952年に再開されたことを記念して開かれた博覧会のポスター。「北洋漁業」は北海道など、日本の北方で国際的に行われる漁業。展示にはこのほかにも漁夫をモチーフにした絵画や彫刻、北洋漁船で働きながら漁の様子を撮り続けた平野禎邦の写真などが並ぶ。

イヌイットの女性たちによる壁掛け。子どもの遊びや動物たちの生態が描かれる。

壁一面にかけられた愛らしい刺繍やアップリケの壁掛けはH. マノンクらカナダ極北地方の先住民族イヌイットの女性達の手によるもの。70年代ごろ、当時すでに失われつつあった民族の伝統的な暮らしの様子や動物との関わりを表現している。素材は防寒着に使った布地の端切れだ。厳しい気候で生きる人々の知恵が詰まっている。

行武治美《凍景》(2024年)。厳寒の地でしか見られないダイヤモンドダストをそのまま立体化したようでもある。

行武治美の《凍景》はこの展示空間にあわせて制作されたインスタレーション。鑑賞者はワイヤーで吊された無数のガラスによる“回廊”を通り抜けることができる。ガラスに反射、透過する光と、ガラスどうしが接触して生じる音とが、北海道の冬の森を思わせる。

宮田彩加《MRI SM20110908》(2016年〜)。自身のMRI画像などをモチーフにした。

色鮮やかな宮田彩加の作品はコンピューターが内蔵された家庭用ミシンの刺繍データに意図的なバグを加えることで、何かがズレたイメージを作り出す。実験室で、ある生物と別の生物をかけあわせたときに予想と違う結果が生じた、そんな状況も思わせる。

あべ弘士「アフリカの光と風」シリーズなど、アフリカの光景をモチーフにした作品。

絵本作家のあべ弘士は北海道出身。1972年から25年間、旭川市旭山動物園の飼育係をしながら絵を発表してきた。96年に退職してからはアフリカや北極、アリューシャン地方などを旅行し、そこに暮らす野生の動物や環境に取材した絵本を制作している。彼が描き出す、さまざまな場所で懸命に生きる動物たちの姿に自らを重ねる人もいるかもしれない。

〈モエレ沼公園〉、〈ガラスのピラミッド”HIDAMARI”〉外観。イサム・ノグチのマスタープランに基づき、アーキテクト・ファイブが設計した。

〈モエレ沼公園〉はゴミ処理場だった場所を、イサム・ノグチが「空からみる彫刻」に生まれ変わらせた公園だ。冬はおおぜいの人々が雪遊びを楽しんでいる。今回、公園内の〈ガラスのピラミッド”HIDAMARI”〉の展示室には脇田玲の映像とサウンドによるインスタレーションが設置された。

脇田玲《Over Billions of Years》(2024年)。人類が10億年生きることができたら、大地の新陳代謝に立ち会えるのではないか。そんな思いから生まれた作品。

ダイナミックな映像は国土地理院発表の日本列島の地殻変動データや、人工物が作られてまた自然に戻っていくプロセスの数理モデルなどをもとにしたものだ。鑑賞者の位置によっては、正面に並ぶ「ラインアレースピーカー」から出る音が頭の中を通り抜けていくような体験ができる。脇田は以前、大病を患い、「死が自分をかすめた」ときにアートに全力で向き合おうと決めた。地質学、天文学的なスケールに比べれば人の一生ははかない、そんな思いが作品の背景にある。

ユッシ・アンジェスレヴァ+AATB《Pinnannousu》(2024年)。ロボットアームが氷塊を削り出していく。

〈ガラスのピラミッド”HIDAMARI”〉には雪貯蔵庫がある。雪を貯めておいて夏季の冷房に使うのだ。今は冬だから、貯蔵庫に雪はない。その空間を利用してベルリンを拠点とするメディア・アーティスト、ユッシ・アンジェスレヴァとスイスのアーティストユニット、AATBはロボットアームが氷塊をレンズ状に削っていくというインスタレーションを設置した。氷のレンズを透過した光は壁面に3D映像を映し出す。

ユッシ・アンジェスレヴァ+AATB《Pinnannousu》。氷のレンズを通して文字を投影することもできる。

「人間が開発した技術によって自然物である氷を削り出し、美しい映像を投影する。雪を使って室内を冷やす、未来の問題に挑戦しているこの場所にふさわしい作品だと思う」(アンジェスレヴァ)

〈札幌市資料館〉外観。2020年に国の重要文化財に指定された。

サテライト会場のひとつ、〈札幌市資料館〉は1926年に「札幌控訴院」(現在の高等裁判所)として建てられたものを1973年に資料館に転用したもの。構造はレンガと札幌軟石を積み上げた組積造に、床・柱の一部で鉄筋コンクリート造を組み合わせた珍しい混構造だ。ルネサンス様式を基調としながらも、ディテールにはヨーロッパ近代芸術運動の影響がうかがえる。第1回から「札幌国際芸術祭」=「SIAF」の拠点として使われてきたが、今回は〈SIAFカフェ〉やこれまでのSIAFの活動を紹介する〈SIAFアーカイブセンター〉などが設置された。近代建築を愛でながら一休みできる。

〈札幌市資料館〉、入口のポーチ。上部の「目隠しをした女神像」は私情を挟まず心の目で公平に審議することを意味する。その下の「札幌控訴院」のモダンな書体にも注目。

〈札幌文化芸術交流センター SCARTS〉には〈SIAF2024ビジターセンター〉が設置されている。芸術祭めぐりはここから始めるのがお薦めだ。2月11日まで行われている『さっぽろ雪まつり』の期間中には雪まつりの大通2丁目会場にパノラマティクスや良品計画によるプロジェクトが登場している。ここでは夜間の光と音のアートも用意されている。寒さには気をつけて、雪の中のアートを楽しみたい。

Sony Group Corporation《INTO SIGHT》などが展示されている〈札幌文化芸術交流センター SCARTS〉。

関連記事ソニーの《INTO SIGHT》で極上の没入感を。『札幌国際芸術祭2024』で体感しよう。

雪の札幌で開催中の国際芸術祭へ|〈未来劇場〉【前編】を読む

『札幌国際芸術祭2024』

〜2024年2月25日。〈札幌芸術の森美術館〉は3月3日まで。〈さっぽろ雪まつり大通2丁目会場〉は2月11日まで。〈未来劇場〉では開館時間を21時まで延長し「ナイトミュージアム」を開催中(2月11日まで)。すべての有料会場に会期中何度でも入れるパスポート2,700円(市民・道民は2,000円)。有料会場のいずれか1会場に一度入れる個別鑑賞券は1,500円。有料会場:〈未来劇場〉(東1丁目劇場施設)、〈札幌芸術の森美術館〉、〈北海道立近代美術館〉。無料会場:〈札幌文化芸術交流センター SCARTS〉、〈モエレ沼公園〉、〈さっぽろ雪まつり大通2丁目会場〉、〈地下公園〉。

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