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2024年パリ五輪までの期間限定建築〈グラン・パレ エフェメール〉で、ユルゲン・テラーの写真展が開催中。

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December 26, 2023 | Art, Architecture, Fashion | casabrutus.com

リニューアル中の〈グラン・パレ〉に代わり、2011年に新設された期間限定の〈グラン・パレ・エフェメール〉。そのユニークな建築に呼応するかのように展示空間をデザインした『ユルゲン・テラー i need to live』展が話題です。

エッフェル塔の麓のシャンド・マルス公園から臨む〈グラン・パレ・エフェメール〉。© Patrick Tourneboeuf pour la Rmn - GP, 2021 architecte Jean-Michel Wilmotte

モード、広告、アートの境界を超え、比類なきスタイルを貫く写真家、ユルゲン・テラーの写真展が、サンローランを公式スポンサーに〈グラン・パレ・エフェメール〉で開かれている。1900年のパリ万博のために建てられた展覧会場〈グラン・パレ〉の大規模改装工事の間、その代わりを務める「エフェメール:仮の/臨時の」建築としてジャン=ミッシェル・ヴィルモットが設計した〈グラン・パレ・エフェメール〉。

仮とはいえ、エッフェル塔から一直線に伸びる公園の構成軸上に築かれた建築は幾何学的な景観に映え、印象的だ。木造の骨組みと屋根の軽量構造や、解体後も新たに再構成できるモジュール式のエレメントの集合体として全体を設計するなど、期間限定ゆえに考え抜かれた「エフェメール」建築の理念は、本展の会場デザインにも通じる。そんな視点で巡るユルゲン・テラー展も興味深い。

エッフェル塔側のガラスの側面から内部を覗けば、角度によってはその先の〈エコール・ミリテール(陸軍士官学校)〉まで見渡せる。© Thibaut Chapoto/Rmn-GP 2023

〈グラン・パレ・エフェメール〉は、長さ150mと130mの蒲鉾型の2つの身廊を交差させた十字型の建築だ。骨組みの複数のアーチが構造を支え、ファッションやスポーツ、アートなど様々なイベントに対応する柱の一切ない10,000m2の巨大空間を実現した。

ちなみに、2024年開催のパリオリンピック/パラオリンピックでは柔道とレスリングの会場として使用され、これを最後に解体予定。この空間をビジターに体感させながら、写真展への集中力を途切れさせずに導くのが、建築の形状に着想を得た、高さ約4mの十字型の木造の展示壁だ。大空間を大小4つのセクターに分割し、ユルゲン・テラーの作品群を緩やかにまとめる。会場設計を手がけたのは、ロンドンの〈6a architects〉。作家の写真スタジオも手がけた彼らは、作品世界の理解を展示方法に生かすと同時に、建築との繋がりを会場内に表現した。

会場建築と同様に、展覧会終了後に別の場所や用途での使用を前提に選ばれた建材とデザイン。© Thibaut Chapoto/Rmn-GP 2023

全800点という膨大な作品の展示方法も、シンプルにして、ユルゲン・テラーの作品世界に人々を誘う工夫に満ちている。はがきサイズの小作品と迫力の大判プリントを、時に隣り合わせにしてサイズのコントラストを引き立たせたり、写真を展示板に直接ピンで止めるというラフさが作品のリアリティを増幅するかと思えば、額装の写真が現れたり。

展示壁の周囲に広がるコンクリートの床の巨大空間もまた、作品との距離の大胆な調整を可能にし、カメラのレンズのように観覧者の眼でズームや引きを楽しめる環境を提供している。自由に、既成概念にとらわれず、自分の目で作品に対峙してほしいという、作家の願いが伝わってくる。

展覧会用ポスターに用いたセルフポートレート。展示の最終コーナーにはピンクのトランクスを脱いだバージョンも。『Self-Portrait with pink shorts and balloons』Paris 2017 © Juergen Teller, All rights Reserved

挑発的、ユーモラス、意外性、オフビート……ユルゲン・テラーの写真は、それがヌードであれ、ラグジュアリーブランドのキャンペーン広告、著名人のポートレート、個人的な記憶や物語であれ、世界への一貫した作家の視線を感じさせずにはおかない。作品を通して、自身のアイデンティティと居場所を探求しながら、過剰で難解な社会のフォーマットを覆そうとしているかのようだ。

『i need to live』展では、キャンペーンやメディアを通じて世に知られる作品や、家族や彼の人生観を垣間見る自伝的なシリーズ作品も多数展示される。写真のほか、ビデオプロジェクションやスライドショーのインスタレーションも加え、彼の豊かで多彩なキャリアを鑑賞させる。

アイスランドに生きるビヨークと息子を撮影し、話題となった作品。『Björk and son』Iceland 1993 © Juergen Teller, All rights Reserved

本展の公式スポンサーであるサンローランのクリエィティブディレクター、アンソニー・ヴァカレロは、イヴ・サンローランとヘルムート・ニュートンが育んだ伝説的なパートナーシップを引き合いに「私がユルゲンと共に求めているのは、このエネルギーであり、私たちはその保存と継続を保証する」と語る。テラーとサンローランの共同作業を「クリエィティブな原動力としての原点の探求がすべて」とも。「ユルゲン・テラーの知性、ユーモア、尊敬の念が、作品を彼自身の内省的なゲームにする。それは、メゾン・イヴ・サンローランの創始神話へのオマージュであり、暗示でもある」と賞賛を惜しまない。

『Alaato Jazyper』Saint Laurent Autumn Winter 2022 campaign, Le Lavandou, France 2022 © Juergen Teller, All rights Reserved

テラーが、妻でありクリエイティブ・パートナーであるドヴィレ・ドリジテと共同で制作した『We are Building our Future Together』は、2021年からはじまったシリーズだ。ナポリの建設現場で安全装置を身につけた夫婦の姿をユーモラスに描く。続く『The Myth, Grand Hotel Villa Serbelloni 』も、妻とともにコモ湖にある4世代に渡り家族経営で営まれるホテルの94のユニークな客室で、「脚を上げる」豊饒の神話を遊び心たっぷりのシナリオで演出。「これは私の最もロマンチックなプロジェクト」と、テラーが語っている。

『We are building our future together No.98』Napoli, 2021 © Juergen Teller, All rights Reserved

この展覧会に関連して、〈サンローラン リヴ・ドロワ(RIVE DROITE)〉からユルゲン・テラーの写真で彩られたホームウエア、アクセサリー、ウエア、レコードなどのユニークなライフスタイル・コレクションが発売中。展覧会は、パリでの開催終了後、2024年春のミラノ・トリエンナーレへの巡回が予定されている。

『Juergen Teller I need to live 展』

Grand Palais Ephèmère, Place Joffre 75007 Paris ~2024年1月9日。15ユーロ。

ユルゲン・テラー|Juergen Teller

1964年ドイツ生まれ。86年よりロンドンを拠点に活動。社会的規範を逆手に取ったユーモアのある作品は、モード誌やブランドのイメージ広告から著名人のポートレートまで多彩。テート・モダンやカルティエ財団での個展など、現代アートの分野でも高い評価を得ている。2018年、国際写真センター・インフィニティ賞を受賞。

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