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映像になったバワの名建築。ホンマタカシの映像作品が特集上映。

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November 30, 2016 | Architecture, Art | a wall newspaper | photo_Takashi Homma text_Jun Kato editor_Yuka Uchida

ホンマタカシの映像作品が12月10日から特集上映。最新作で取り組んだ、新しい視点と新しい境地とは。

写真と映画の間のようなことができないかと思っています。――― ホンマタカシ
掃除をする人は建築に触れている。結果的にテクスチュアが伝わります。――― 五十嵐太郎
自然と一体化した建物を数多く設計したスリランカの建築家、ジェフリー・バワ。バワの設計したホテル〈ヘリタンス・アフンガラ〉は、彼の代名詞でもある、海へと続くかのようなインフィニティプールで有名だが、2004年に起きたスマトラ沖地震で津波の被害に遭っている。そのホテルを、被災後10年の節目に訪れて映像に収めたホンマタカシさんと、建築史家の五十嵐太郎さん。建築と映像の濃い談議です。
津波から10年、犠牲者を追悼する式の様子。
五十嵐 撮られたホテル〈ヘリタンス・アフンガラ〉の被害はどれほどだったのでしょう?

ホンマ スリランカでは3万人以上の死者が出ましたが、このホテルでは幸いにも亡くなった方はいませんでした。ホテルに記念碑などがないのは、そのためかもしれません。1階は浸水して建物や塀に被害は出ましたが、元に戻されています。1階の柱に色が付いているのは、津波の後の改修にバワの弟子が携わったためです。

五十嵐 ホンマさんが撮られたホテルは、壁で囲われていない半屋外のロビーが外のプールに延びていて、さらに海へとつながっていますね。そこにベンチがピクチュアレスクに置いてあって。映像で建築は背景となっているけど、自然に溶け込むバワの空間がうまく表現されていました。でも、例えば伝統的な屋根はチラチラとしか見えていませんし、建物自体の説明はほとんどないのが面白い。バワのホテルで映像を撮ったきっかけは何ですか?

ホンマ 最初に2014年のカーサ ブルータスの取材で訪れたときに早朝の光と音がよくて、たまたま短い動画を撮ったんです。建築はたくさん見ていますが、音が気になる建築は少ないなと思って。

五十嵐 話し声がなく、ホウキで掃く音だけがするシーンですね。

ホンマ 一日中、誰かがどこかしら掃除をしているんですよ。

五十嵐 『ハウス・ライフ』という建築の映像作品では、掃除する場面が多く出てきます。レム・コールハースが設計した〈ボルドーの住宅〉の映像なのですが、建築の説明はなく家政婦の動きをずっと追います。基本的に、ずっと掃除で身体を動かしている様子が映される。それが毎日のルーティンワークで、振り付けのようなのですね。これは建築を表現する一つの方法だな、と思いました。

ホンマ 掃除はアフォーダンスの話にも通じていて、建築に対しての動きが1対1なんですよね。あまり意識していなかったけど、掃除を追うことで建築全体が見えてくるというのはあるかもしれない。

五十嵐 建築の人は素材が気になって叩いたり撫でたりするけど、普通の人はしません。掃除をする人はたくさん建築に触っている。結果的にテクスチュアの感覚が伝わると思います。音は空気の振動を通じて、耳に届きますね。それは視覚と違い、離れていても触る感覚を与えます。
プールや海岸を毎日掃除するスタッフ。ルーティンとなった動きに美しさを感じる。
インタビューに渗む宗教観による違い。
五十嵐 ホテルスタッフは10年間変わらず掃除をしてきたのでしょう。宗教的な儀式のようにも見えてきます。早い段階から従業員を撮ると決められていたのですか?

ホンマ いえ、最初はインタビューなしで考えていました。ドキュメンタリー映画監督のフレデリック・ワイズマンの映画がもとになっていて。彼はインタビューをしないのですね。けれど今回、ホテルの協力で10人くらい撮らせてくれることになって。話を聞いてみると、同じ体験の記憶が微妙に違ってくるのが面白くて、入れることにしました。お決まりのインタビュー形式にならないように、最初のインタビューシーンはマイクを画面に入れたり、最後の人はカットをかけた後の部分を長く使ったりしましたね。

五十嵐 インタビューに答えるスタッフは、みんな明るいですよね。最後に出てくる人とか、ニコニコしながら被災の状況を話していて。

ホンマ 仏教国で育って「しようがないな」という無常の気持ちがあるのでしょうね。自然へのリスペクトも感じられました。反対に、インタビューで出てきたイギリス人夫婦は、悲しい顔をするんです。談笑しながらお茶をしているところにお邪魔したら、急に悲しい表情になって。どこか芝居掛かったように見えたのですね。本当に悲しかったのかもしれないけど、宗教観の違いで捉え方の違いもあるのかなと。「悲しいことは悲しいものとして話さないといけない」という圧がありますね。
追悼の日とクリスマス。偶然の交差の面白さ。
五十嵐 不思議と、津波が起きたのはクリスマスの翌日で、結果的に西洋の違うお祭りが食い込んでいたのですね。日常があって、もう一つ違う時間軸や宗教観が入っている。偶然の重なりで。

ホンマ 10年後の12月26日はクリスマスツリーが置きっ放しで、その前で犠牲者を追悼していてね。その雑多加減は、日本人ならわかるような気がするけど。実はこの日、街でも国を挙げての追悼式典があったのですが、ドラマチックすぎてこの映像にそぐわなかったので入れていません。

五十嵐 従業員通用口でスタッフが行き交うシーンも印象的でした。

ホンマ 手前が従業員の控え室で、パブリックゾーンとの行き来を定点で撮って。サンタの帽子をそこでかぶったり、土俵入り前のように腰巻を締めて気合を入れたりするスタッフがいましたね、頼んでもいないのに(笑)。定点撮影には、中間領域の面白さがある。僕は映画監督になりたいわけではなくて、写真と映画の間のようなことをできないかと思っています。
津波が起きたのは12月26日。ホテルのロビーにはクリスマスツリーが飾られている。
ホテルで行われる結婚式。

『ホンマタカシ ニュードキュメンタリー映画 特集上映』

最新作『After 10 Years』ほか、写真家の中平卓馬の日常を収めた『きわめてよいふうけい』(2004)も新作ショットを追加。劇場未公開の全4作を一挙上映する。 〈シアターイメージフォーラム〉
東京都渋谷区渋谷2-10-2
TEL 03 5766 0114。12月10日〜23日。

ホンマタカシ

1962年東京都生まれ。日本大学藝術学部写真学科を経て91〜92年にかけてロンドン滞在、『i-D』で活躍。帰国後は雑誌、広告など幅広いジャンルで活躍する傍ら、波、郊外風景、空撮、東京の子供といったテーマで作品発表を行う。

五十嵐太郎

いがらしたろう 1967年パリ生まれ。東京大学工学部建築学科卒業、東京大学大学院修士課程修了。博士(工学)。現在、東北大学大学院教授。『現代建築に関する16章』(講談社)、『忘却しない建築』(春秋社)ほか著書多数。

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