November 30, 2016 | Architecture, Art | a wall newspaper | photo_Takashi Homma text_Jun Kato editor_Yuka Uchida
ホンマタカシの映像作品が12月10日から特集上映。最新作で取り組んだ、新しい視点と新しい境地とは。
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掃除をする人は建築に触れている。結果的にテクスチュアが伝わります。――― 五十嵐太郎
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ホンマ スリランカでは3万人以上の死者が出ましたが、このホテルでは幸いにも亡くなった方はいませんでした。ホテルに記念碑などがないのは、そのためかもしれません。1階は浸水して建物や塀に被害は出ましたが、元に戻されています。1階の柱に色が付いているのは、津波の後の改修にバワの弟子が携わったためです。
五十嵐 ホンマさんが撮られたホテルは、壁で囲われていない半屋外のロビーが外のプールに延びていて、さらに海へとつながっていますね。そこにベンチがピクチュアレスクに置いてあって。映像で建築は背景となっているけど、自然に溶け込むバワの空間がうまく表現されていました。でも、例えば伝統的な屋根はチラチラとしか見えていませんし、建物自体の説明はほとんどないのが面白い。バワのホテルで映像を撮ったきっかけは何ですか?
ホンマ 最初に2014年のカーサ ブルータスの取材で訪れたときに早朝の光と音がよくて、たまたま短い動画を撮ったんです。建築はたくさん見ていますが、音が気になる建築は少ないなと思って。
五十嵐 話し声がなく、ホウキで掃く音だけがするシーンですね。
ホンマ 一日中、誰かがどこかしら掃除をしているんですよ。
五十嵐 『ハウス・ライフ』という建築の映像作品では、掃除する場面が多く出てきます。レム・コールハースが設計した〈ボルドーの住宅〉の映像なのですが、建築の説明はなく家政婦の動きをずっと追います。基本的に、ずっと掃除で身体を動かしている様子が映される。それが毎日のルーティンワークで、振り付けのようなのですね。これは建築を表現する一つの方法だな、と思いました。
ホンマ 掃除はアフォーダンスの話にも通じていて、建築に対しての動きが1対1なんですよね。あまり意識していなかったけど、掃除を追うことで建築全体が見えてくるというのはあるかもしれない。
五十嵐 建築の人は素材が気になって叩いたり撫でたりするけど、普通の人はしません。掃除をする人はたくさん建築に触っている。結果的にテクスチュアの感覚が伝わると思います。音は空気の振動を通じて、耳に届きますね。それは視覚と違い、離れていても触る感覚を与えます。
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ホンマ いえ、最初はインタビューなしで考えていました。ドキュメンタリー映画監督のフレデリック・ワイズマンの映画がもとになっていて。彼はインタビューをしないのですね。けれど今回、ホテルの協力で10人くらい撮らせてくれることになって。話を聞いてみると、同じ体験の記憶が微妙に違ってくるのが面白くて、入れることにしました。お決まりのインタビュー形式にならないように、最初のインタビューシーンはマイクを画面に入れたり、最後の人はカットをかけた後の部分を長く使ったりしましたね。
五十嵐 インタビューに答えるスタッフは、みんな明るいですよね。最後に出てくる人とか、ニコニコしながら被災の状況を話していて。
ホンマ 仏教国で育って「しようがないな」という無常の気持ちがあるのでしょうね。自然へのリスペクトも感じられました。反対に、インタビューで出てきたイギリス人夫婦は、悲しい顔をするんです。談笑しながらお茶をしているところにお邪魔したら、急に悲しい表情になって。どこか芝居掛かったように見えたのですね。本当に悲しかったのかもしれないけど、宗教観の違いで捉え方の違いもあるのかなと。「悲しいことは悲しいものとして話さないといけない」という圧がありますね。
ホンマ 10年後の12月26日はクリスマスツリーが置きっ放しで、その前で犠牲者を追悼していてね。その雑多加減は、日本人ならわかるような気がするけど。実はこの日、街でも国を挙げての追悼式典があったのですが、ドラマチックすぎてこの映像にそぐわなかったので入れていません。
五十嵐 従業員通用口でスタッフが行き交うシーンも印象的でした。
ホンマ 手前が従業員の控え室で、パブリックゾーンとの行き来を定点で撮って。サンタの帽子をそこでかぶったり、土俵入り前のように腰巻を締めて気合を入れたりするスタッフがいましたね、頼んでもいないのに(笑)。定点撮影には、中間領域の面白さがある。僕は映画監督になりたいわけではなくて、写真と映画の間のようなことをできないかと思っています。
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