December 1, 2016 | Art, Architecture, Travel | casabrutus.com | photo_ Kunihiro Fukumori text_Naoko Aono editor_Keiko Kusano
9月に完成した名和晃平|SANDWICHの〈洸庭(こうてい)〉。このアートパビリオンがある広島県福山市の〈神勝寺 禅と庭のミュージアム〉はアートや食を楽しみながら禅の心に親しめる、禅のアミューズメントパークのようなところです。木々や池が美しい広々とした庭で、悟りへの一歩を踏み出してみませんか?
〈神勝寺〉はJR福山駅から車で25分のところにある禅寺。緑豊かな山に囲まれた7万坪もある広い境内にお堂や茶室、社務所が点在する。ここで庭を散策し、お茶をいただき、禅画を鑑賞しながら禅の精神に触れる、その体験を総称したものが“禅と庭のミュージアム”なのだ。日々の実践のすべてに悟りへの道が開かれていると考える禅の精神をそのまま形にしたような庭園だ。 到着した人々を出迎えてくれる総門は、京都御苑にあった旧賀陽宮邸の門を移築したもの。その総門をくぐると寺務所〈松堂〉(しょうどう)が目に入る。手曲げの銅板で葺かれた屋根のてっぺんに赤松が生えた独特の建築は藤森照信の設計によるもの。ショップでは京都「かみ添」や「ピエール・エルメ・パリ」のオリジナルグッズを販売している。「ピエール・エルメ・パリ」のスイーツは〈洸庭〉のオープンを記念して作られたオリジナルだ。〈洸庭〉近くのカフェでもコーヒーと一緒にいただける。 〈洸庭〉の内部には名和晃平とビジュアルデザインスタジオ、WOWによるインスタレーションが広がる。中に入る前にその外観をじっくり味わって欲しい。舟底を上下に二つ、重ね合わせたような形をしている。地面から浮き上がったその姿はUFOのよう。地面には石が敷き詰められ、プラントハンターの西畠清順がアレンジした木々が植えられている。建物は繊細なサワラ材の板で覆われており、寺社の屋根などに伝統的に使われてきた「こけら葺き」や「重ね貼り」の手法で覆った。見上げると絶妙なカーブが空を切り取る。 中に入るとそこは漆黒の空間だ。耳をすますと、かすかに波音が聞こえる。目を凝らしていると闇の中から光が差してくる。パビリオンの中に入って光や音を感じる、その体験が名和のアートを鑑賞することになるのだ。座禅や写経といった伝統的な禅の体験とは違うけれど、瞑想的な空間は禅の修行に通じるものがある。 3軒ある茶室のうち〈一来亭〉は史料をもとに、今は残っていない千利休の茶室を復元したもの。茶室・数寄屋の研究で知られる中村昌生が監修した。もう一つの茶室〈秀路軒〉も、現存しない書院〈残月亭〉と茶室〈不審庵〉を古図を手掛かりに、中村昌生の設計により創建当初の姿で再現したもの。こちらでは抹茶と季節のお菓子で一服できる。 さらに進むと階段の上に〈荘厳堂〉が現れる。ここでは〈神勝寺〉が所蔵するおよそ200点にもなる白隠のコレクションから随時、展示替えしながら展示している。白隠のトレードマークとも言えるギョロ目の達磨や色っぽい観音像、「南無地獄大菩薩」などの書、宴会に興じる福の神など、ユーモラスな禅画が並ぶ。白隠の書はときに、勢い余って一番下の字が他の字の半分ぐらいの大きさで書かれていることも。禅画では下書きの線が残っていたりするが、たいていそこからはみ出している。細かいことは気にしない、禅の心に近づければそれでいいのだ。 お昼どきなら〈五観堂〉で《神勝寺うどん》を食べるのがお勧めだ。太くて長い「雲水箸」はお経を読む際に拍子木がないときに使うもの。この箸で、湯だめのうどんにいろいろな薬味をつけていただく。臨済宗の僧堂では四と九のつく日の昼食にうどんを食べていた。僧堂では読経と鳴らしもの以外の音をたてることはご法度だが、うどんを食べるときだけは豪快に音を立てて食べることになっていたのだそう。お坊さんたちが楽しみにしていたうどんは滋味たっぷりのやさしい味。ありがたくいただこう。
〈神勝寺 禅と庭のミュージアム〉には浴室まである。男女日替わりで木製の浴槽にたっぷりと湯がはられた内湯と竹林の緑が目にまぶしい外湯を楽しめる。禅では蒸し風呂に入って悟りを得る修行も行われていた。俗世の垢を洗い流して、身も心もさっぱりできる。 〈神勝寺〉は1965年、臨済宗建仁寺派第七代管長、益州宗進禅師に深く帰依した神原秀夫氏が禅師に招請して建立されたもの。ここでは初心者でも禅の教えを乞うことができるよう、幅広く門戸を開いている。アートやお茶やうどんを楽しみ、風呂に入って悟りとは何かを考える。気軽に体験できる禅の空間だ。