Quantcast
Channel: カーサ ブルータス Casa BRUTUS |
Viewing all articles
Browse latest Browse all 2781

ヴォーリズ設計の重要文化財が並ぶ〈神戸女学院〉が再整備へ。建築とランドスケープを尊重したそのプランとは?

$
0
0

November 5, 2023 | Architecture, Design | casabrutus.com

ウィリアム・メレル・ヴォーリズ設計の建物が12棟も国の重要文化財に指定されている〈神戸女学院〉岡田山キャンパスが、再整備計画を発表した。普段は足を踏み入れられない既存キャンパスの魅力を再確認するとともに、建物やランドスケープを尊重した再整備手法の概要をお伝えします。

神戸女学院〈図書館〉。ほかに総務館、講堂及び礼拝堂、文学館、理学館、音楽館、体育館、葆光館、社交館、ケンウッド館、エッジウッド館、汽罐室、正門及び門衛舎が重要文化財に指定されている。

米国出身ながら日本に帰化し、明治末期から戦後にかけて1,000件を超える学校や教会、商業施設などを設計したウィリアム・メレル・ヴォーリズ。中でも兵庫県西宮市にある〈神戸女学院岡田山キャンパス〉は、ヴォーリズ建築を語る上では外せない代表作のひとつだ。赤い屋根とクリーム色の壁からなるスパニッシュ・ミッション・スタイルでまとめられた建物群が、約4万坪の丘陵地に佇む。

キャンパスの中核としての象徴性を持たせた中庭。軸線を意識した配置が特徴だ。左手の棟は文学館で、その向かいは理学館。文理融合の理念がその配置にあらわれている。

特筆すべきはヴォーリズ設計の12棟の建物が2014年、重要文化財に指定されたことだ。神戸女学院文化財保存活用委員会委員をつとめ、ヴォーリズ研究に長年携わる山形政昭・関西学院大学客員教授はこう話す。

「重要文化財建造物を12棟も有する学校法人は、類例がありません。またヴォーリズによる建築は年々評価を高め、登録有形文化財となっている建物が100件に迫る勢いですが、重要文化財に指定されているのはここだけです」

重要文化財に指定されている〈理学館〉。壁の下半分をスクラッチタイル貼りとした外観は、キャンパス内各棟で統一されている。

大学キャンパスとしてもヴォーリズ建築としても、日本屈指の文化財を有する神戸女学院。大きな魅力は美しさだと山形さん。「ヴォーリズが関わった重要な建築はいろいろとありますが、美しさにおいては一番」と語る。

複雑な色合いのS字瓦で構成した屋根。現代では再現が難しいため当時のものを極力残し、耐久性を高める加工を施しつつ活用しているという。

トレードマークとなっているスパニッシュ瓦やスタッコ壁も、まずはその華やかな色合いに目が行くが、日差しを受けると繊細な表情を見せる。特別な材料が使われているからだ。

「屋根はS字型の瓦を葺いたもので、複雑な色合いに窯変したものを混ぜ合わせ、ところどころ逆S字の瓦も組み合わせて寄棟屋根をつくりあげています。クリーム色の外壁も、よく見るとキラキラと光って見えるはず。スタッコ仕上げを構成するセメントモルタルの一部に、工事を担当した竹中工務店と左官職人がこだわって選んだという川砂が使われているからです」(山形政昭)

重要文化財に指定されている〈正門〉(現在は保存修理中)。森の中にキャンパスがあり、最も街に近い正門周辺でも深い緑に囲まれている。

加えてランドスケープを含む群としての魅力もある。鬱蒼とした森に建物が見え隠れし、歩き進むとあざやかな緑の中庭と赤い屋根の対比する広場が開けるという展開がドラマティックだ。「全体のまとまりと、正門を入り山道を登ると音楽館、さらに登ると文学館の屋根がみえるという流れが素晴らしい。文化財建造物がただ残っているだけではなく、環境に埋め込まれているのです」と山形さんは語る。庭に灯籠が残っていたり、かつてここにあった尼崎藩の別邸に由来する日本庭園の名残も歴史の厚みを感じさせる。

〈音楽館〉。4階建のシンボリックな〈音楽館〉。正門からアプローチして最初に出合う。

このキャンパス全体に歴史的、建築的価値あふれる神戸女学院が、創立150周年を記念し再整備に乗り出そうとしている。日建設計が提案し、2021年に策定された「キャンパス再整備マスタープラン」実現の第一歩として、同社提案の「理学館西側地域再整備計画」の概要が2023年9月、発表された。

日建設計による「理学館西側地域再整備計画」完成イメージのひとつ、西側正面。ヴォーリズによる理学館、社交館を西側から認識できるよう、それらを背景に新棟を、高さを下げて配置している。将来計画として西門からエスカレーターを新設することも検討されている。

その再整備計画の概要は、重要文化財に指定されている社交館の南、理学館の西の斜面に、新棟の高さを下げて新設。あわせて現在は車専用の裏口的な扱いとなっている西門からのアプローチを、サブエントランスに相応しく整えるというもの。

ポイントは森で隔絶されたキャンパス西側を街とつなぎ、大学の顔をつくること。南北の軸線上に建物が整然とならび、建物同士が回廊でつながるヴォーリズによるキャンパス計画。再整備計画ではこの構成を継承し、建物とアプローチを新設することでオリジナルの建物を引き立てながら、街との連続性をもたせる。2025年秋を目指して新棟を完成、さらに向こう10年を見据えてマスタープランを実現していくという。

「ロートアイアン(飾り錬鉄)を用いた扉上部グリルの装飾も見どころ」と山形さんが述べる、扉まわりの細部。

「ヴォーリズの建築というのは造形を主張するものではなく、有用性や経済性を踏まえつつ、使い手の期待に応えるという理念に基づいています。神戸女学院は、その理念が建築主や施工者にも共有され、実現された稀有な例です。再整備を通じてこうした理念が継承され、建物を長く使いつづけていくことの重要さとそのための方法が、より広く理解されていくことを期待しています」と山形さん。

ヴォーリズによるキャンパス完成を受け、当時の院長C.B.デフォレストは1933年に「Beauty Becomes a College(美が学園となる)」という詩を発表した。美とは建物の外観的、物質的価値以上に、この建築のために寄付を寄せた米国の教会に集う人々の、他者に献げる思いを讃える言葉だ。

神戸女学院では不定期で、一般公開が実施されている。そのツアーマイスター(ガイド役)はこのキャンパスで学んでいる学生が務めるという。長年育まれた建築やランドスケープ、そして文化の継承とその進化に期待したい。

〈図書館〉閲覧室。テーブルやイスに加え、机上の照明もオリジナル。

〈神戸女学院〉

兵庫県西宮市岡田山4−1。女子高等教育のさきがけとして1875年(明治8年)神戸異人館街の一角、山本通に創設。1933年、ウィリアム・メレル・ヴォーリズの設計による岡田山キャンパスに移転。近年は「神戸女学院ヴォーリズ建築一般公開」が不定期で開催される。

ウィリアム・メレル・ヴォーリズ(1880〜1964年)

アメリカ・カンザス州に生まれ、キリスト教伝道を志し1905年に高校の英語教師として来日。近江八幡市を拠点に建築家、キリスト教伝道、社会事業家、実業家という多岐にわたる活動を行った。建築家としては1907年の近江八幡市にある〈YMCA会館〉の設計を皮切りに、〈関西学院大学 西宮上ケ原キャンパス〉〈大丸心斎橋店〉〈山の上ホテル〉など1,000件を超える建築設計を手がける。神戸女学院とは、生涯を共にした妻の一柳満喜子の出身校という縁もあった。

Viewing all articles
Browse latest Browse all 2781

Trending Articles