October 26, 2023 | Design, Art, Travel | casabrutus.com
東京・西麻布の〈カリモク コモンズ トウキョウ〉で、〈MAS〉の新作をはじめ、各コレクションから新製品、新塗装色などの家具が展示されています。この空間スタイリングを手がけたのはインテリアスタイリストの作原文子。展示に先立ち、作原は縁の深いデンマーク・コペンハーゲンを訪問し、スタイリングのための買い付けを行いながら、インスピレーションを深める時間を過ごしました。その旅の一端をお届けします。
この秋からの〈カリモク コモンズ トウキョウ〉のスタイリングテーマは“おかえり”。作原にとってデンマークは実姉が20年来暮らしていた場所であり、自身も度々訪れては家族と気の置けない時間を過ごし、息づく文化や街並みを存分に吸収してきた。「帰郷にも似た特別な意味がある」という作原は、コロナ禍が落ち着き再び世界へと意識が向かい始めた2023年6月、カリモク家具がコペンハーゲンのデザインイベント『3daysofdesign』に出展したことをきっかけに、姉妹で久しぶりの里帰り的な旅へ出た。
コペンハーゲンでは〈カリモクケーススタディ〉のデザインディレクターをつとめるノーム・アーキテクツのスタジオを訪問したほか、現地で出会ったアーティストや日常の美しい風景から深いインスピレーションを得た作原。そうした旅の記憶の断片を巧みに織り交ぜた、作原独自のスタイリングの世界が〈カリモク コモンズ トウキョウ〉に広がっている。
懐かしさと新しさを併せ持つ、現在のコペンハーゲン。初夏ながら強い日差しが降り注ぐ中での滞在の様子をたくさんの写真とともにお届けしたい。
●初夏のコペンハーゲン、街なかの風景
●ノーム・アーキテクツのスタジオへ
コペンハーゲンに到着し、まず初めに訪れたのはノームアーキテクツのスタジオだ。ノーム・アーキテクツは〈カリモクケーススタディ〉でデザインディレクションを担当、今回のスタイリングの舞台となる〈カリモク コモンズ トウキョウ〉を手がけた建築家・芦沢啓治との協働も多く、9月にオープンしたばかりの〈TRUNK (HOTEL) YOYOGI PARK〉の空間デザインも担当している。
「ソフトミニマリズム」を提言し、ナチュラルな色彩の自然素材を多用しながらミニマルな空間構成を得意とするノーム・アーキテクツは、一貫した美学を持つ。作原は彼らとの対話により得られるインスピレーションをもとに、新たなスタイリングの構想を練りたいと考えていた。
「ノーム・アーキテクツの世界観は、ある意味、自分とは対極というか異なるスタンスなのでは? と思っていました。でも、実際に彼らとコミュニケーションを取ってみたら、空間の調和が取れていれば色も素材も縛りはなく、もっと自由であるべきだという言葉をもらって。実際に〈カリモク コモンズ トウキョウ〉を訪れた方々が、リラックスして家具を体感しながら心底寛げるような温かい空間にしたいね、と方向性を共有することができました。彼らのクリエイションの根底にある考え方は、思っていたより自分に近いことがわかって安心できたし、実り多きミーティングになりました」(作原)
ノーム・アーキテクツは、本企画に際してコペンハーゲン市内の行きつけのショップを買付先の候補としていくつか紹介してくれた。
●アーティスト、ティナ・レーツァーとの出会い
コペンハーゲンの海沿いの再開発エリア〈Refshaleøen〉を散策中に作原がふと足を止めたのはデンマーク人テキスタイルアーティスト、ティナ・レーツァー(Tina Ratzer)の作品が展示された小さな小屋。彼女は『3daysofdesign』の期間中、コペンハーゲンに植生されている草木や植物から染色した作品を発表していた。どこか懐かしさを感じる素朴な小屋と調度品、実験的に表現された作品の数々が並ぶ空間は、作原姉妹がかつて過ごしたデンマークの家を思い起こさせ、一瞬でお互いが惹かれ合うような良い出会いに。
古来、アメリカ大陸で魔除けとして用いられてきたドリームキャッチャーを新たな解釈で作った壁掛けの作品数点を彼女から譲り受けた。アーティストとの一期一会の出会いから得た作品と旅の思い出は、〈カリモク コモンズ トウキョウ〉で象徴的にスタイリングされることになった。
●〈Dahlman 1807〉にて、革の手仕事を見学
1807年創業の歴史ある革製品専門店〈Dahlman 1807〉。高品質なベジタブルタンニンレザーを卓越したクラフトマンシップによる手仕事で仕上げるレザーアイテムが揃う同店は、以前、作原姉妹が訪れたことのある思い出の場所。今回の訪問でも、地階にある工房を快く開放し、レザーの加工技法を見せてくれた。後日、コペンハーゲンで採取した石をショップに持ち込み、レザー巻きのストーンオブジェに加工してもらった。ストーリーがある上質なレザーアイテムは旅の特別な思い出に。
●フラワーショップ〈LILJEHØJ〉と〈ATELIER74〉
●ノーム・アーキテクツ推薦のセレクトショップ〈HVORNUM〉と〈TADAIMA〉
●実験的なスタジオとして注目される〈TABLEAU〉
〈TABLEAU〉はこの数年勢いを増すコペンハーゲンのデザインカルチャーを牽引し、『3daysofdesign』でも注目される花屋とギャラリーを併設した実験的なスタジオだ。コペンハーゲンに訪れるクリエイター達は必ず訪れると言われる、今もっとも気になる場所のひとつ。作原も今回初めて訪問した。
「〈TABLEAU〉は、今のコペンハーゲンらしさを体感できる場所のひとつだなと思いました。コンクリートの壁面に展示されていたアートワークは空間に余白があるので作品が際立ってきちんと見えるし、色や異なる質感のコントラストも可愛らしくて思わず目を引きました」
●食、アート…今のデンマークを象徴するもの
コペンハーゲンで触れたものや感じたこと。街の中を散策しながら、作原のインスピレーションに触れる風景やモノに出会い選ばれた数々のアイテムは、〈カリモク コモンズ トウキョウ〉でのスタイリングに使用されている。
「久しぶりのデンマークの滞在は、帰ってきたようなほっとするような安心感がありました。日々の暮らしの変わらない光景に加え、新しい要素や発見もあり、どちらも心に残る貴重な経験になりました。旅先で見つけたお気に入りのアイテムを思い出と一緒に持ち帰り、慣れ親しんだ既存のものたちと組み合わせて大切に飾ることで、普段目にしてきた空間とは少しだけ違った風景が生まれる。日常に新鮮さを与え、一方で懐かしい気持ちにもさせてくれます。
何気ない日常でも、実はとても豊かで愛おしく思えることをカリモクの空間で表現できたらと思いスタイリングしました。ノーム・アーキテクツとのコミュニケーションでも共有できた、自分の家に帰ってきたようなほっとした気持ちで、ゆったりと過ごしてもらえるような場所づくりが具現化できたと思います」
●“おかえり”──〈カリモク コモンズ トウキョウ〉
〈カリモク コモンズ トウキョウ〉の新たな装いとして作原が手がけた空間は、暮らしのヒントや気づきを与えてくれる自由な発想とアイデアが随所に込められている。
一見敷居が高くなりがちなショールームだが、実際に座ったり触れたりすることがしやすいように構成されており、家具が持つ本質的な良さやフィーリングを体感して欲しいという、訪れる人々に想いを寄せた作原らしさも詰まった空間に仕上がっている。それはコペンハーゲンの滞在で作原自身が改めて感じた、「居心地の良さ」の答えなのかも知れない。