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【本と名言365】フランク・ロイド・ライト|「自然は偉大な…」

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October 9, 2023 | Culture | casabrutus.com

これまでになかった手法で、新しい価値観を提示してきた各界の偉人たちの名言を日替わりで紹介。アメリカを代表する建築家、フランク・ロイド・ライト。その作品は日本に複数遺されており、なかでも現在は愛知県犬山市の博物館明治村で様式保存される〈帝国ホテル ライト館〉は傑作と名高い。1923年の竣工から100年目を迎えたメモリアルイヤーとも言えるいま、ライトのデザインのルーツを探ってみましょう。

フランク・ロイド・ライト/建築家

自然は偉大な教師である

20世紀のアメリカを代表する建築家、フランク・ロイド・ライト。ル・コルビュジエ、ミース・ファン・デル・ローエとともに近代建築の三大巨匠として語られるが、実のところライトは他の二人よりも20歳ほど年長だ。19世紀から建築家として活動し、1910年にベルリンのヴァスムート社から発行したリトグラフの作品集でヨーロッパの近代建築に大きな影響を与えた。建築家のペーター・ベーレンスの事務所に在籍していたミースはこの本と出会い、多くの学びと自由を得たと後年の著作に記している。

亡くなる92歳まで現役を貫いたライトの活動時期は非常に長い。独立後は建物の高さを抑え、水平性を強調し、部屋同士を完全に区切らずゆるやかにつないだ一室空間を特徴とする〈プレイリースタイル〉の住宅で評価を高めた。ヨーロッパの建築様式を模倣した新古典主義が全盛期を迎えていたアメリカ建築界において、その新しい様式は高く評価される。しかし施主の妻との不倫関係から国内で仕事を失ったライトは、この時期に日本で帝国ホテル新館の建設を実現。一般には不遇の時期といわれるが、着実な仕事を遺した。一般にライトの評価が再び高まるのは70代を迎えた1930年代後半のことで、落水荘の名で知られるカウフマン邸、さらにジョンソンワックス社の社屋などで第一線に返り咲いた。同時期にはプレイリースタイルを発展させた新たな工業化住宅〈ユーソニアン・ハウス〉も考案。その死後まもなく竣工したニューヨーク・マンハッタンの〈グッゲンハイム美術館〉など、その名作は数えると切りがない。

独自なスタイルを多彩に構築したライト。その建築は日本から多くの影響を受けたとされるが、本人はそれを認めていない。ではいったい彼はなにに影響を受けたのか。ライト自身は晩年の著作で「自然は偉大な教師である」と述べている。ここでいう「自然」とはあらゆる形に宿る本質的で明快な表現で、だからこそ単純なのだとライトはいう。そして現在の人々の暮らしはまったく単純ではないと指摘。だからこそ単純でありつづけることは勇敢なことであり、そうでありたいと語る。他に類を見ない独自性を勝ち得たライトだが、彼の見る「自然」こそ建築に普遍性を与え、いまなお人々の心を揺さぶり続ける。

フランク・ロイド・ライト自らがその考えを最晩年に記した建築論の新訳。建築論としてはもちろんだが、アメリカの近代思想、環境論から読み込んでも学びの多い一冊。図面や写真も多く収録した入門篇に最適な一冊。『自然の家』フランク・ロイド・ライト著 富岡義人訳 筑摩書房1,430円/2010年初版発行

フランク・ロイド・ライト

1869年アメリカ・ウィスコンシン州生まれ。建築家。シカゴのジョセフ・ライマン・シルスビーの事務所を経て、ダンクマール・アドラーとルイス・サリヴァンの事務所で働く。1893年独立。生涯を通じて1,000を超える作品を残し、その内400以上の作品を実現した。1959年死去。

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