October 5, 2023 | Design | KASHIYUKA’s Shop of Japanese Arts and Crafts
日常を少し贅沢にするもの。日本の風土が感じられるもの。そんな手仕事を探して全国を巡り続ける、店主・かしゆか。今回の取材先は慶応元年に創業した京都の〈かづら清老舗〉。蒔絵や螺鈿で彩られた “かんざし” 作りの工房を訪ねました。
ずっと憧れていた日本の髪飾り「かんざし」。この工芸品を150年以上、作り続けているのが京都の〈かづら清老舗〉です。私にとってかんざしと言えば、漆塗りや蒔絵の美しい装飾。その工程を知りたくて、石川県の加賀にある工房を見学させていただきました。
「約50年前、木工芸への造詣が深く、仏師でもあった4代当主が、蒔絵や螺鈿を施した櫛・かんざし作りの拠点として開いた工房です。加賀は漆塗りの産地ですから」
そう話す6代当主・霜降太介さんの案内で、まずは完成品を拝見。あまりにもかわいくて繊細で、テンションが一気に上がります。伝統的な吉祥文や草花の図案もあれば、『鳥獣戯画』のウサギやカエルなど遊び心のある柄まで!
「かんざしの起源は縄文時代。先の尖った細い棒を髪に挿すことで魔除けになると考えられたようです。江戸時代からは髪型に個性を与える飾りとして発展しました」
建物の一角には4代当主がデザインした古い木型も飾られていて、その美しい形から当時の女性たちの流行や憧れが伝わります。今、作られているのは時代に合わせて進化したものですが、根底に流れる気持ちはきっと同じですよね。
そんな工房では、木地作りから漆塗り、蒔絵や螺鈿の装飾までを、すべて女性職人さんが手がけています。とりわけ興味深かったのは蒔絵。漆で文様を描き、漆が乾かないうちに金や銀の粉を蒔いて定着させる伝統的な装飾技法です。
まず木地に漆を塗る作業から始まって、漆で文様を線描きし、別の漆を塗り重ね、金粉を蒔いて乾燥させる。時には極細の筆で葉脈などの細部を描き、その線上に直径6μm(0.0006mm)の金粉を蒔く。気の遠くなる細かさです。
「漆の筆は、習字のように縦横へ動かすことができず、上から下にしか引けないんです。だから曲線や複雑な輪郭線は、木地を動かしながらえがきます。筆をゆっくり動かして、きれいに盛り上がった線にするのも特徴ですね」
漆の色や重ね方、金粉の蒔き方の組み合わせで、多彩な立体感や質感を表せるのもすごい。超絶技巧のような線も艶やかな濃淡も、職人さんの手の、慎重で細やかな動きから生み出されます。一日中、見ていたいと心から思いました。
今回は、その緻密な手仕事にほれぼれする “宝尽し文様” を買い付け。いつか好きな着物と合わせた柄もオーダーしてみたいです。